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oh! 銭ぜに銭 ぜに銭ぜに。  作者: 渡良瀬ワタル
230/248

(西から迫る兵火)42

 三好長逸が本陣を置いているのは街道を望む丘の上の砦。

持ち主の国人より借り受けた際、その者は城と申していたが、

どこから見ても砦、砦としか言いようがない。

斜面を活用した砦で、丸太を組んだ外壁と櫓が目を惹く。

堀も石垣もない質素な造り。

国人の力であればこんな物だろう。

 当然、小さいので収容できる人員は限られた。

寝泊りさせたのは供回りとその陪臣、五百。

それ以外は周辺に配した。


 城下町、いやいや、やや広い村には信頼の置ける三好勢を置いた。

幸いだったのは社寺のご立派さ。

砦よりも金を喰っていた。

 当初より、国人衆の扱いには困った。

長い動乱ゆえか、遺恨深い者達が多いのだ。

そこで慎重に組み合わせ、押さえられる有力者を頭に置いた。

筒井と越智の二氏。

右隣の村に筒井と国人衆。

後方の村に越智と国人衆。

少し離れているが、呼べば半日で来られる距離。

 不足しているのは兵力。

公称は五千だが実数は四千にも満たない。

国人衆が賦役の者共を、こちらの目を盗んで村に戻しているからだ。


 元々、この砦は籠る為ではなく、

明智家討伐軍への兵糧集積地として借り受けた。

城下村の社寺荘園宿坊がそれだ。

大部分を都へ送り帰したが、それでも少しは残して置いた。

自分等の滞在期間が読めないからだ。

 長逸は目の前に運ばれた朝餉を見た。

相も変わらず、陣中食を煮炊きしたもの。

大盛飯に一汁一菜。

長い付き合いの従卒が言う。

「朝なので酒は付けられませんよ」

 愛想ない言葉に長逸が返した。

「ふん、女は」

「まだ朝が明けたばかりです。

しかし、ご所望とあれば夜に手配いたします。

この地の牛蒡で良ければですが」

「牛蒡は好かん」

「では御坊様になさいますか」

「そんな趣味ねえよ」


 長逸と従卒が遣り合っていると、近習が呼びに来た。

「皆様、お集まりです」

 長逸は飯を飲み干し、大広間へ向かった。

途中、近習に尋ねた。

「国人衆への使番は」

「発しております、警戒を厳にするようにと」

「うちの者等は」

「改めて物見を各所に放っております。

しかし、おかしいですな」

「何が」

「張り番や巡回を殺したなら、夜討ちか朝駆けでございましょう。

ところがそれが一切ない」

「ああ・・・、連中は鉄砲を大量に持ってる。

籠城は別にして、その鉄砲を活かすのは昼間だ」


 大広間とは言うが、村の大広間。

それでも乾拭きが徹底されていた。

長逸が上座に腰を下ろして集まった者共を見回した。

「幾人か欠けておるな」

 坂東季秀が答えた。

「慣れた者達を物見に出しております」

「そうか」

 岩崎直基が言う。

「伊賀方面に出して置いた張り番は潰され、

巡回の者は一人も戻ってはおりません。

無事なのは河内へ戻る脇街道、杣道隘路だけです」


 河内守護は畠山高政で、河内高屋城を居城としているが、

河内全域を支配している訳ではない。

三好長慶が河内の飯盛山城を居城とし、

芥川山城には嫡男の三好慶興を入れていた。

よって河内への道は三好家へ通じているとも言えた。

安堵した長逸を嘲笑うかのように法螺貝が吹かれた。

 三方からの法螺貝。

それは明らかに意志を明確にしていた。

この本陣、右隣の村、後方の村それぞれの方向からだ。

坂東季秀が言う。

「知らぬうちに入り込まれ、囲まれてしまいましたか。

これは困りましたな」

 困っている顔ではない。

岩崎直基が苦笑い。

「そうそう、ここらで終わりですな」

「そのようだな。

しかし直基よ、お主は長逸様と共に退け」

 岩崎が気色ばむ。

「おっ、何故だ」

「年寄りが先に逝くものぞ、順番は守れ」

「んー、しかしだな、儂より二つ上ではないか。

大して変わらんだろう」

「しかしも案山子もあるか、ここは儂に任せろ」

 長逸が床を叩いた。

「儂は退かぬぞ」

 坂東が長逸を睨み付けた。

「退くのも大将の役目。

その間の盾となり矛ともなるのが我等の誇り。

・・・。

者共、長逸様を飯盛山城へご案内して差し上げろ」

 一斉に武将達が長逸に向かって動いた。

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