(西から迫る兵火)38
明日は、卑弥呼時代の呪文で、『あけおめ、ことよろ』。
鬼道の呪いだにゃんにゃんこ。
皆様の呪いが全世界を覆います様にわんわんこ。
誤字脱字等のご指摘、ご指導、誠にありがとうございます。
とても助かります。
そんな皆様に高額なお年玉が降り注ぎます様に、シャワシャワーッ。
私は尼子晴久からの書状を読んだ。
年の功か、冒頭から親し気な文章を連ねていた。
とても敵対しているとは思えない。
まるで旧来の友のよう。
これだから策を弄する者は嫌なのだ。
苦々しく思いながら、主文に目を走らせた。
その用件は、官軍と明智家の間で和議を結びたいと。
尼子家、畠山家、細川家、斯波家の管領四家の合意は得ているそうだ。
加えて三好家の安宅冬康の名前も。
ただ、将軍、足利義昭の名前がない。
仲間外れか、事後承諾させるのか。
たぶん、そこは察せよ、という事なのだろう。
御簾が下ろされているので、使者二人から私は見えない。
おそらく人が居る、その程度だろう。
ところが私からは二人の顔がよく見えた。
御簾の造りと、上座からの角度のせいだ。
私は小笠原長雄と飯母呂十兵衛の顔色を仔細に観察しながら、
どちらにともなく尋ねた。
「使者としての権限は」
二人は顔も見合わせない。
小笠原が落ち着いた口調で応じた。
「某に全て委ねられています。
都とここの間を往復するのは疲れますからな」
腹の内は分からぬが、気疲れが垣間見えた。
戦に、幕府や朝廷との交渉にと駆けずり回されているのだろう。
気の毒に。
私は二人に説明した。
「和議は好ましい。
しかし、決断が遅かった。
既に決した後だ。
忍び衆、山窩衆、河原衆を含めてだが、全ての部隊に使番を送り、
各所での官軍攻撃を命じた。
当家では、命令受諾と同時に現場判断が優先される。
今頃は攻撃を始めている部隊があるかも知れない。
もう止めようがないのだ」
この言葉に二人が固まった。
理解しようと努めているようだ。
漸うして小笠原が声を絞り出した。
「そこを何とか成りませんか」
「止めるのは難しい。
命令を受諾したと同時に部隊は移動を開始したはずだ。
その位置把握が難しい。
流れる水と同じだと理解して欲しい」
飯母呂が両手を床に付いた。
「それでもそこを何とかお願いしたい」
「お主は動き出した蜂屋衆全ての現在地を把握できるか」
「それは・・・」
「味方にも把握できぬ様に行動せねば物の役に立たぬ、そう思わぬか」
それでも二人は言い募った。
何としてもこの場で和議を結ぼうとした。
私も鬼ではない。
彼等の心持ちは分かった。
それでも不可能なのだ。
作戦行動に転じた軍勢は山津波も同様。
全てを押し流そうとして低地へ駆け下る。
阻止するには、それ以上の速さで山津波の前に出ねばならない。
どう考えても不可能だろう。
振り下ろした手は止めようがない、そう理解して欲しいものだ。
私は二人に提案した。
「こちらの攻撃が終了した時点で和議を結ぶしかないな。
そうせぬか、如何かな」
小笠原が渋い表情で尋ねた。
「その時点と申されるのは」
「各隊が当初作戦を終了し、待機状態になった頃合い」
「それは・・・」
「前にも申した様に現場判断が最優先される。
指揮官それぞれの性格にもよるが、
兵糧を半分ほど費やした時点で待機状態になる筈だ」
作戦行動には限度がある。
兵站との兼ね合いが大切なのだ。
兵糧だけでなく武具や弾薬にも限度があるので、
それを見極めるのも指揮官の仕事なのだ。
飯母呂が私を睨む様に見上げた。
「宜しければですが、攻撃の範囲をお聞かせ願いたい」
ここで大人衆筆頭の伊東康介が、膝でスリスリ進み出た。
「もう宜しかろう、お二方。
お屋形様が先程も申されたように現場判断が優先されるのだ。
一々、後方に問い合わせては時間が掛かって仕様がない。
そう思われぬか、ご両所。
正規の足軽部隊もあるが、忍び衆、山窩衆、河原衆も動いている。
彼等の判断によるので、こちらでは把握できぬ事の方が多い」
飯母呂が伊東に正対した。
「それでは好き勝手を許す事に相成りませぬか」
「戦の肝を守りさえすれば、罪には問わぬ」
「戦の肝ですか」
「そう、肝だ」
「宜しければお教え願いますか」
伊東は私の方向をチラ見し、徐に口を開いた。
「簡単だ。
自国領土に戦を拡大させぬ。
それ一つ。
実に分かり易いと思わぬか」
小笠原が疑問を口にした。
「自国さえ良ければそれで良しと」
「当然であろう。
税を納めている領民が最優先であろう。
それ以外に守るべきものが有るとでも」
逆に聞き返した。




