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oh! 銭ぜに銭 ぜに銭ぜに。  作者: 渡良瀬ワタル
222/248

(西から迫る兵火)34

 尼子晴久が騎乗すると供回り衆がそれを守る様に囲んだ。

取り急ぎは十八騎と徒士三十数名。

全てが揃うのは待っていられない。

晴久は既に先行している者達の背中を指し示した。

てんでばらばらに駆けて行く徒士、二十数名。

その先には馬廻り十数騎。

「前を行く連中に手柄を取られるな」

「「「おう」」」

 一斉に屋敷から出撃した。

こちらは徒士衆が先払いの役目。

万一に備えて周囲に目を配りながら駆けてゆく。

それに騎乗の者達が晴久を守りながら続いた。

彼等にとってはお上の命より当主の命の方が重い。

何よりも重い。


 この大路の、二つ先の辻を曲がれば仮御所への近道。

晴久はその仮御所方向へ視線を向けた。

途絶えない射撃音。

合間合間に轟く爆発音。

火も点けられたのだろう。

仮御所周辺で白煙黒煙が上がっていた。

言い争う声や、悲鳴も漏れ聞こえた。

 急く心と裏腹、晴久の脳裏の片隅に疑念が生まれた。

お上の命を狙うのは分かるが、こんな真昼間に正面から来るか。

明智忍びの腕は確たるもの。

しかし、昼間に武人と正面から張り合って勝てるとは思えない。

忍びの骨頂は陰働きにある。

それを承知で来たのか。


 間近、横合いから無数の一斉射撃音が轟いた。

しまった、遅かった。

晴久の肩口に激痛が走った。

焼ける様な痛み。

落馬しそうになるのを必死で耐えた。

落馬すれば確実に骨を折る。

折るだけで済めば良いが、後続の馬群・・・。

下手すれば蹄に掛けられて死ぬ。

 晴久は馬の首に死に物狂いでしがみついた。

命を惜しんだ。

仮御所へは向かわず、馬を大路を真っ直ぐ走らせた。

供回りが付いて来るかどうかは知らないが、己の生存を優先した。

ここで死ぬのは早過ぎる。

畿内は自分が死ぬ場所ではない。

死ぬ場所だけは自分で選ぶ、そう思いながら馬上で気を失った。


 晴久は肩口の痛みで目が覚めた。

肉が削がれる感触がした。

口もおかしい。

何かが詰められていた。

取ろうにも手を動かせない。

足も自由にならない。

目を開けた。

「うむむむ・・・」言葉にならない。

 見知りの顔が上にあった。

供回りの一人だ。

「殿、手当てしているので、口に布切れを詰めさせて頂きました」

 晴久が余りの痛みに食いしばり、歯を折ることや、

口内を怪我することを懸念したようだ。

視線を巡らせると、別の一人が肩口に喰い込んだ弾を除去しようと、

それはそれは苦心惨憺、額に汗していた。

浅すぎても駄目、深すぎても駄目。

首狩りが好きな奴だが、この様な小技は苦手らしい。

他の者達は晴久が暴れぬ様に手足を抑えつけていた。

彼等は彼等で必死だ。

晴久は一身をその者達に委ねる事にして再び痛みで気を失った。


 無事に弾は取り出せた。

その代償として熱が出た。

供回りの者達は話し合いの末、晴久を動かせないので、

最寄りの寺社の宿坊を借り受けた。

勿論、明智忍びへの警戒は怠りはなし。

前線へ赴いた軍勢を呼び戻し、宿坊を中心に防御陣を構築させた。

蟻の這い出る隙間一つない態勢。

これには明智忍びも手も足も出なかった。


 衰弱した晴久であったが、七日目には半身が起こせた。

それを聞いた重臣共が寝所に押し掛けた。

「「「殿、ご回復なされた様で、我ら一同、安堵致しました」」」

 中には涙声も混じっていた。

それを見逃し、晴久は一同に尋ねた。

「あれからどうなった、お上は」

 古手の多胡辰敬が代表して答えた。

「お上はご無事で御座います。

供回りの者共や、仮御所に入った者共にも聞いたところ、

殿への襲撃が終わると同時に、明智忍びは一斉に引き揚げたそうです。

これは内緒なのですが、特にお上にはご内緒で願います。

どうやら、お上は釣り餌で、殿が本命であったと皆が噂しております」

 その言葉が晴久の腑にスッと下りた。

しかし、言葉にはしない。

話題を変えた。

「当方の軍勢の動きは」

「禁裏より内々の使者が仮御所に入られました。

その方が申されるには、留守を狙われるとは何たる事かと。

おそらく、都から全軍が発した事を言われておるのでしょう」

「それでお上は」

「平身低頭で御座いました。

直ちに軍を戻すと必死で確約されました」

「あれだけの大軍、戻すにも段取りが必要だろう」

「そこはあれ、奉公衆任せです」

「丸投げか、儂も見習いたいものだな」

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