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oh! 銭ぜに銭 ぜに銭ぜに。  作者: 渡良瀬ワタル
221/248

(西から迫る兵火)33

 討伐軍の足が止まったままだ。

初日より先へ全く進めない。

無理して進もうとする軍勢もいたが、結局押し戻された。

武力によってではない。

搦め手の火攻めであった。

明智忍びは領地外であるので容赦なく火を放つのだ。

そして、軍勢が退却しても消火には関わらない。

自然に鎮火するのを待つ姿勢。

 土地の者達から怨嗟の声が上がるが、

それを聞かされるのは明智忍びではない。

討伐軍であった。

お前達が居るから火が点けられた、そう直接は言えないが、

それとなく態度で示されるのだ。

土地の者も討伐軍も被害者なのだが、

明智忍びによって完全に分断された状態。

こうなると土地の者達の協力は望めない。

特に道案内。


     ☆


 遅滞したある日の昼間。

寂れているとはいえ都大路、人出はそれなりにあった。

昼日中の方が安全だからというのもあった。

用件を手早く済ませ、待つ者の居る家屋敷へ戻る。

戦乱の世、それで命を繋いで来た。

そんな人々が避けたのが二条の仮御所。

そこは元は武衛陣で、尼子家により改築中であったものに、

足利義昭が古い建屋の方へ無理して移り住んでいた。

都人は危難を恐れて敢えて遠回りしていた。

 仮御所の周囲の家々や寺社は徹底して調べられた。

屋根裏から床下、そして住む者の為人まで。

辻々には番所が置かれ、不定期の巡回も昼夜を問わずに行われた。

警戒は厳重であったが、所詮は人のやること。

幾つも穴があった、否、開けられた。


 昼日中、仮御所近くの寺で幾人もの明智忍びが蠢いていた。

彼等は、仮御所以前にこの寺を忍び宿としていた。

都の根拠地の一つで、住職からして本物の僧侶であったが、

本職は明智忍びであった。

勿論、小僧や下男も。

勿体ないが、今回の件でここを捨てる事になった。

訪れた檀家の一人が言う。

「華々しくやろう。

だが、無駄死には禁じられている。

その辺りの塩梅は分かってるな」

 甲賀者だ。

かつては将軍家の忍びとして働いていたが、それは遠い昔の話。

今は明智家に抱えられ、足軽身分としての家禄で働いていた。

二十人頭なのでその分の役職手当ても付く。

彼の言葉に住職や小僧、下男等が頷いた。


 各々が得意の武器を手にした。

大きいのは投石機。

本格的な物ではない。

人三人分ほどの大きさだ。

焙烙玉に着火し、複数の石と共に投擲した。

距離的には十分。

仮御所に着弾し、破裂した。

これが合図になった。

 陰から陰へ移動しながら、

仮御所の近辺に接近していた者達が姿を露わにした。

番所や巡回の兵を襲う。

突然の真昼の凶行に幕府方は面食らった。

迅速な対応が出来ない。

各所で怒鳴り声が上がるも、指揮系統の乱れを露呈した。


     ☆


 近場に尼子家が屋敷を構えていた。

その日、尼子晴久は屋敷に居た。

この所の深酒が覿面で、ここ二三日は、

仮御所への出仕は昼過ぎであった。

そこへ焙烙玉の破裂音。

寝起きの晴久は目を剥いた。

「何事だ」

 側仕えと共に音が聞こえる方へ顔を向けた。

どう考えても仮御所とか考えられない。

鉄砲の轟音が続き、その合間合間に焙烙玉の破裂音か聞こえた。

廊下を走って来た供回りが晴久に向けて叫んだ。

「仮御所が襲われております。

明智忍びが多数、包囲して襲撃している模様です」

「奉公衆はどうした」

 供回りが膝をついた。

「旗色が悪い様です」

「向かうぞ」

 ここでお神輿を失う訳にも行かない。

晴久は手早く身支度すると玄関に出た。

供回りの者達も、万端ではないが、それなりの戦仕度をしていた。

「お上をお助けする」

 透かさず鬨の声が上げられた。

隊列を整えている時間も惜しい。

晴久は命じた。

「個々に駆けよ、お上を救え」

「「「それではお先にご免」」」

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