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oh! 銭ぜに銭 ぜに銭ぜに。  作者: 渡良瀬ワタル
212/248

すまんです。

データが消えました。

アップ寸前でした。

ごめんなさい。

次回までお待ち下さい。

なんとか復旧させます。


以下は文字数稼ぎです。


 ヤマトの走り方が変化した。

地表すれすれを飛ぶように、軽やかに駆けて行く。

まるで黒い影。

行き交う人々は足下の影に微塵も気付かない。

 あっという間に追跡者に追いついた。

追い抜きついでに、足首に爪を突き入れ、えぐった。

深傷。

皮膚が裂けて骨が露呈し、飛び散る鮮血。

上がる悲鳴。

男は倒れ伏した。


 ヤマトは後ろも見ずに、何食わぬ顔で駆け去った。

次なる獲物は前を行く二頭。

その一頭が飼い主の異常に気付いた。

直ぐに方向を転換した。

そして飼い主とヤマトの双方を認めた。

一瞬で理解した。

ヤマトに対して低く唸って牙を剥いた。

躊躇いはない。

獰猛な顔でヤマトに向かって来た。


 忍犬の目色は殺意でギラギラ。

相手は吹けば飛ぶ様な小さな猫。

自分の勝利を信じて疑わないのだろう。

行き交う人々が引き返して来た忍犬に悲鳴を上げて道を譲った。

誰もが難を避けようとした。

中には腰を抜かす者もいた。


 ヤマトは足を緩めない。

人よりも厄介な相手であると承知で真正面から挑む。

はっきりとした体格差があるにも関わらず、真っ直ぐに突き進む。

 と、前方のもう一頭が意外な行動に出たのを視界に捉えた。

躍りかかるかのように、大きく跳躍した。

一体なにが起こったのか。

何者かを襲ったとしか思えない。

血飛沫が舞った。

忍犬の身体が両断された。

瞬時の出来事。

そこには女かと見紛うばかりの傾奇者が立っていた。

男は刀を一振りして血を払い、こちらに視線を向けて来た。

 ヤマトは男に見覚えがなかった。

しかし男に感謝した。

理由は分からないが、手間が省けた。

残りは目の前の一頭のみ。

これを始末すれば終わる。


 忍犬は仲間の最期に気付いていない。

低い態勢で地を蹴り、背中を屈伸させながら、跳ぶように駆けて来た。

前足でヤマトを捕らえて嬲るのではなく、

頭突き一発で極めると見て取れた。


 ヤマトは応じた。

大きな体格差があうるにも関わらず頭から、ぶちかまして行く。

予想していたように激しい衝撃。

ヤマトがただの猫であったなら一撃で首の骨が折れていた。

ところが引き分け、共に弾き飛ばされた。

軽い分、ヤマトの方が大きく飛ばされた。

ヤマトは地を二転三転したものの、直ぐに態勢を整えた。

身震いして砂を振り払った。

忍犬も同様。

 両者共に息つく間もなく再度挑んだ。

二度目も同じ結果。

再び引き分け。

意地なのか忍犬が後退りして距離を空けた。

極めるつもりなのだろう。

雄叫びを上げた。


 ヤマトは退かない。

忍犬も退かない。

前回と同じ距離を空けて、三度挑む。

 軒下に難を避けていた者達が固唾を吞んで見守るなか、

一匹と一頭が互いを求めて突進し、ぶちかました。

激しい衝撃と何かが折れる音。

忍犬が大きく後方に弾き飛ばされた。

二度と起き上がれない。

声一つ立てられない。


 ヤマトは横たわった忍犬の上に立って雄叫び。

「ににゃ~ん、にににゃ~ん」

 長々と雄叫びを上げても、周囲への警戒は怠らない。

もう一頭を血祭りに上げた傾奇者への警戒は尚更。

味方ではあるとは感じているが確証がない。

その確証を得ようと、試しに武士の方へ殺気を放った。

 すると武士が応じた。

ニコリと笑って刀の柄に手を添えた。

軽く腰を落とし、いつでも抜く構え。

売られた喧嘩は買うにゃ~ん。

ヤマトは嬉々とした。

と、背後に新たな殺気が生じた。

振り返った。

 異様な集団が目に映った。

武家の身形ではない。

商人、僧、百姓姿の者達が五名。

有り得ない組み合わせ。

其奴らが目を血走らせて、こちらに駆けて来た。


 ヤマトは彼等を敵と見定めると、傾奇者の足下に歩み寄り、

無造作に腰を落とした。

傾奇者は苦笑いでヤマトを見下ろすが何も言わない。

五名が手前で足を止め、往来の真ん中に立つ傾奇者を睨み付けた。

商人が詰問した。

「お主、我等の邪魔をするのか、何者だ」


 慶次は柄から手を離して彼等を堂々と見回した。

「天下の往来を狂った犬が駆けて来たので屠っただけのこと。

礼は無用」どこ吹く風。

 血の気が多いのか、商人が素速く腰の後ろに手を回し、

脇差しを抜いた。

ヤマトの方がより早かった。

脇差しが抜かれた瞬間には跳んでいた。

其奴の右太腿を爪先で切り裂き、柄を握る手に噛み付き、

指の一本を噛み落とした。

商人は悲鳴を上げて転げまわる。

残った四名が次々に腰の後ろから脇差しを抜いて身構えた。

「我等は所司代の手の者、神妙にしろ」一人が叫ぶ。


 慶次が応じた。

「どこからどう見ても悪党の類ではないか。

それが所司代の名を騙るか。

笑わせる。

閻魔大王に代わって裁いてやろう」

 聞いた四名の目色が変わった。

互いに顔を見合わせると残忍そうな表情で慶次を取り囲む。

戦い慣れているようで油断はない。

ヤマトをも視界に捉え、慎重に輪を縮めて行く。


 都大路で往来する人波を止めての睨み合い。

一方は傾奇者と黒猫。

もう一方は所司代の手の者と称する者達。

双方共に引く気なし。

なかでも所司代を自称する者達は忍犬二頭を失っただけでなく、

一人が手傷を負わされているので余計に退きにくい。

それに既に脇差しを抜いてしまった。

忍者といえど、衆人環視の中で抜いた刀は戻せない。

勝とうが負けようが血を流さずには終われない。


 包囲の輪の中にいても前田慶次はジッとしていた。

野太刀の柄に手を添えているだけ。

悠然と相手に先手を譲っていた。

 ヤマトも似たようなもの。

一人に手傷を負わせると慶次の足下に戻り、

再びチョコンと腰を落とした。

そして我関せずとばかりに、慶次の左の足首を甘噛みした。

「にゃ~ん」と鳴いた。

 慶次とヤマトは内心で膠着状況を大歓迎した。

時間さえ稼げれば、それだけ五右衛門が遠くへ逃げられる。


 対して四名の方は焦っていた。

犠牲を出した上に、口が過ぎて所司代の名まで出してしまった。

加えて脇差しも抜いていた。

これ以上の下手は打てない。

挽回するには傾奇者と黒猫の首しかない。

少しずつ包囲の輪を縮めて行く。

四名共に刀術には自信を持っていた。

一人が囮になれば勝てると踏んでいた。

その一人が間境を越えた。

気合いをかけ、背後より傾奇者を襲った。

それを合図に全員が動いた。


 慶次が右に跳ぶ。

刀を抜くと半拍遅れるので素手のまま跳んだ。

右から来た奴が刀を振り下ろすより早く、その懐に入った。

掌底で顎をかち上げ、足を払った。

相手は朦朧としながら起き上がろうとした。

慶次は其奴の顔面を蹴りつけた。

悲鳴と一緒に欠けた歯が飛ぶ。


 ヤマトも跳んだ。

思い切り跳んで小柄な身体を宙に舞わせた。

左から来た奴の刃先を飛び越えると身体を翻して背後に回り込み、

爪を背中に突き入れた。

皮膚に爪を食い込ませたまま、

衣服ごと引き裂いて真っ直ぐに降りて行く。

猫の爪だから浅傷と言えるが、当人にとっては堪ったものではない。

爪の数だけ傷がある。

しかも長い。

甲高い悲鳴と噴出する鮮血。


 ヤマトは相手の尻まで切り裂くと、

爪を抜いて離れた所にポンと降り立った。

視界の片隅では傾奇者が正面の忍者と斬り結んでいた。

打ち合う金属音、一合、二合。

そこでヤマトは残った一人に軸足を移した。

その者は傾奇者にするか黒猫にするか迷っていた。

 ヤマトは、「ニャー」と一声鳴き、相手に注意を喚起した。

望み通り相手の表情が一変した。

腰を落として脇差しを中段に構えた。

油断ない相手にヤマトは突進、跳ぶ。

相手も応じた。

宙にあるヤマトに切っ先を向けて、躊躇いのない鋭い突き。

ヤマトは刺される寸前、両の前足で切っ先をチョンと掴んだ。

真剣白刃取りの様に掴むと切っ先を軸にして前方へ一転、

峰にスッと乗り、トッと跳んで相手の右目に爪を突き入れた。

神速の早業、誰も正確には捉えていないだろう。

 爪で深く抉って目玉を刳り貫いた。

異常な悲鳴が上がり鮮血が飛び散った。

跳んで離れようとしたヤマトも鮮血を浴びた。

しかし鮮血でヤマトは汚せない。

全身を覆う漆黒の艶々黒毛は一つの汚れも許さない。

ブルッと身震いすると全てを弾き飛ばした。


 近くでは慶次の戦いが続いていた。

優勢なのは慶次。

たんなる勝ち負けであれば、とうに終わっていた。

慶次はここが戦場ではなく町中なので綺麗に極めようとした。

野太刀を下段に構えジリジリと歩を進める。

押される様に相手も下がる。

相手は力量の差が分かるらしい。

それでも意地か、逃げない。


 ヤマトは勝負を一瞥しただけ。

もうここには用がないとばかり、スッと踵を返した。

大路を駆け、辻を曲り、屋根の上に跳んで甍の波に乗った。

まるで一陣の風。

「にゃっにゃ~」


 心配は杞憂に終わった。

先に逃げた五右衛門は隠れ家で待っていた。

ヤマトを見ると飛び込めと言わんばかりに両腕を開いた。

その胸にヤマトは飛び込んだ。

「無事で良かった」と五右衛門。

長い牢獄暮らしのせいか、臭い、臭い。

虱もいた。

けれど我慢、我慢。

下手は打てない。

五右衛門が胡散臭い猫を傍に置くはずがない。

化け猫と露見すれば捨てられる。

ヤマトの居場所は大好きな五右衛門の傍。

そこを失うつもりは毛頭ない。

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