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oh! 銭ぜに銭 ぜに銭ぜに。  作者: 渡良瀬ワタル
203/248

(西から迫る兵火)16

 火が突として点けられた。

場所は山城国、都にほど近い一角であった。

尼子軍の宿営地が夜陰に乗じて襲われた。

当初、尼子軍は混乱した。

指揮系統が一時的に絶たれたのだ。

それでも数では勝っていた。

時間の経過とともに襲撃者側を押し、遂には撃退した。

そして残された敵の死体に尼子軍は愕然とした。

旗指物や装備から敵勢の正体が三好軍と判明したからだ。


 これを好都合と思う者達が敵味方双方に存在した

切っ掛けは何でも良かった。

嘘でも偽りでも構わなかった。

緊張続きの対峙に飽きていたのだ。

 尼子の一部隊が、近場の和泉国に侵攻した。

三好家寄りの国人衆の館や砦を襲撃し、焼き払った。

三好の一部隊も山城国に侵攻した。

尼子軍を見掛けるや、即座に戦端を開いた。

どちらが先だったかは問題ではない。

大切なのは手柄を立てること。


 そんな中で、両細川方も軍勢を動かした。

堺に滞在していた平島公方・足利義栄を担いで、山城国に押し入った。

国人や地侍の寄せ集めだが、優に二万を超えていた。

彼等は泰然とした隊列を組んで、都を目指した。


 私は執務室で山城国と周辺の地図を広げた。

囲碁の碁石だけでは足りないので、将棋の駒も使い、

現在判明している三つの軍を地図上に配置した。

なんて面倒臭い。

特に三好家の軍勢が。

周辺に尼子軍以外の敵対勢力を抱えているので、

駒数が余分に必要なのだ。

反対に数が少なくて済むのは両細川軍。

泡沫扱いなので、数は要らない。


 手伝っているのは参謀役方筆等の芹沢嘉門。

兵数を教えながら一緒に並べてくれた。

「殿、これを見て何か思うところは御座いませんかな」

「尼子方は万一の際の退路を確保してる」

「ほう、聞かせて下さい」

「新規に臣従した者共に愛想尽かしされぬ様にか、

山陰山陽の双方に兵を配している。

まあ、随分と贅沢だな」

 芹沢が含み笑い。

「むっふっふ、その通りです。

あそこは分限者ですから。

・・・。

一方の三好はどうですかな」

「あちらは近場だから退路の兵は最小限で済ませてるが、

代わりに四方を敵に囲まれてるのか、恨まれてるのか、

各地に守備の兵を残さざるを得なかったみたいだな。

実にお気の毒」

 芹沢だけでなく、居合わせた側仕えの者達までが盛大に笑った。


 地図を横から覗いていた土方敏三郎に言われた。

「何か忘れてませんか」

 ああ、忘れていた。

当家の軍の配置をすっかり忘れていた。

地図上に成駒を置いた。

山城口は南近江勤番の第五番隊。

丹波口は竹中半兵衛率いる与力衆に代わって、第六番隊。

丹後口は若狭勤番の第四番隊。

 そして控えを地図の脇に置いた。

北近江勤番の旗本隊のうち三千、十番隊のうち三千、

竹中半兵衛率いる与力衆一万二千。

これで賄えるか・・・、賄う予定だ。

こちらからの侵攻はない。

侵攻に意味を見出せないのだ。

国境の防御固めて、鉄砲主体で迎撃するつもりでいた。


 そこへドカドカと足音が響いて来た。

皆の視線がそちらへ向けられた。

廊下に控えている供回りの声。

「第五番隊からの使番です」

 ドンっと廊下に腰を下ろす音。

その者が襖越しに口上を述べた。

「南近江の第五番隊より参りました。

隊長・藤堂平太より書状を預かって参りました」

 土方が襖を開けて手早く書状を受け取った。

スリスリと膝を勧めて私にそれを差し出した。


 信じられない事が書かれていた。

私は再確認の為、書状を二度読みし、土方に戻した。

皆が土方の方へ集まり、書状を肩越しに読む。

私は右筆に指示した。

「まず南近江の五番隊への指示だ。

南近江に侵攻して来た三好軍を迎撃せよ。

殲滅しても構わない。

ただし、伊賀や大和への逆侵攻はするな」

 芹沢が私に尋ねた。

「殲滅には賛成します。

しかし、何か釈然としませんな」

「三好家の行動がか」

「はい、三好家は尼子との戦端が開かれたばかり、

その状況で当家へ喧嘩を売りますかな」

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