表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
oh! 銭ぜに銭 ぜに銭ぜに。  作者: 渡良瀬ワタル
202/248

(西から迫る兵火)15

 荒廃していた都であったが、久方ぶりに、平穏に春を迎えた。

尼子家の努力が功を奏し、盗賊の類が駆逐され、修理修繕も成され、

都大路が安全になったからだ。

が、それで終わりではない。

信用を得た尼子家は、禁裏にその一帯の建て替えを提案した。

 それを狙ってか、啓蟄に合わせたのか、様々な虫が這い出て来た。

尼子家の財力にたかる公家衆、僧兵等の武力を見せつける寺社勢力、

土倉に代表される口煩い町衆、地縁血縁で繋がる国人地侍等々。

これら面従腹背の輩が尼子家に擦り寄って来た。


 対照的に、明確に敵対する者達も現れた。

尼子家の手配により修理修繕された箇所に火が放たれた。

鳴りを潜めていた盗賊が出没し、

土倉や座の商家が襲われる様にもなった。

気付くと都の諸物価が上がっていた。

都雀が、両細川がその背後にいる、そう噂した。


 私の執務室に猪鹿熊久が現れた、都の状況を説明してくれた。

書類もあるので、分かり易い。

「ところで、諸物価の値上がりだが、そちらでの儲けはどうだ」

 熊久がニコリとした。

「ぼちぼちです」

 当家には商家と取引する産物取締役方がある。

しかし、そこは小回りが利かない。

そこで忍び役方にもその役目を与えた。

当家の領地外での商いをだ。

忍び宿兼商家だ。

猪鹿の爺さんの話では、「大いに儲けています」とのこと。

熊久の答え、「ぼちぼちです」は商人そのものの口振り。

うちの忍びは半分、商家に転進したらしい。


「尼子の兵糧は」

「何とか遣り繰りしていますが、夏まで持つかどうか」

「こちらが買い集めた兵糧は」

「西方の物は播磨に、東方の物は駿河に、それぞれ集積しています」

 忍びなのに手広い商いの伝手。

「目を付けられてないか」

 その地の有力者に目を付けられると、万一の際の矢銭や、

お召し上げがある。

そこは警戒せねばならない。

「鼻薬を効かせておりますので、その心配はございません」

「売り払う時期は」


 熊久は暫し考えて答えた。

「西方は細川の動きしだいです」

「また動くのか」

「禁裏の建て替えが受け入れられれば、

覚慶様への将軍宣下も決まったも同然です。

それを潰すには、両細川は動かざるを得ません」

「まだ力を残していると思うか」

 熊久は当然の様に述べた。

「尼子にも、三好にも付けない国人や地侍は多うございます。

それらが最後の御奉公に出る、そう考えております」

「面倒だな、御奉公という考え方は。

下の者達が迷惑するだけだ」


 尼子家や両細川家を考えていたら、別方面で火種が見つかった。

在小谷の重臣達や、報告面会の為に来ていた重臣達が急遽、

私の居館大広間に集められた。

大人衆筆頭の伊東康介が皆を見回した。

「報告は芹沢嘉門が行う」

 参謀役方筆頭が私に低頭した。

「知らせは南近江から参りました。

伊賀にて惣国一揆が起こったとの事です」

 私の認識とは違っているのか。

「待て待て、前にも惣国一揆が起こり、成ったと聞いたが」

「はい、それで間違いございません。

此度のは、急ぎ調べさせたところ、一揆内での一揆でございます」

「地侍共の仲間割れか。

狭い地で相争うのか」

「表向きには、飢饉でございます。

働き手が、昨年の畿内の争いに出稼ぎに出ましたので、

充分に田畑を耕せなかった様でございます」

「出稼ぎで稼いだのだろう。

それで米や塩味噌を買えば済むだろう」

「諸物価高騰により、手が出ぬ様でございます」


 誰かが買い占めているのか。

そうか、抜け目のない商家か。

それも大金を懐に抱えている、・・・。

あっ、うちの産物取締役方と忍び役方か。

私は猪鹿熊久に目をくれた。

熊久は気まずそうに目を逸らした。

私は黙った。


 芹沢が皆を見回した。

「尼子の手が伊賀に入りました」

 私は思わず口を開いた。

「確かなのか」

「地侍の家々を回っているのを確認しております」

「その思惑は」

「伊賀の地から避難民を出す事でしょう。

隣接する近江、大和、山城、伊勢へ出して、撹乱するつもりかと」

 伊東が口を差し挟んだ。

「尼子からすると、近江と大和へ誘導するつもりで、

地侍の家々を回らせているのかも知れません」

 近江は当家。

大和は三好家と在地勢力。

伊賀に火を点け、都に手出しさせぬ様にするつもりなのか。

「些か緩い手だが、一定の効果は見込めるな」

 芹沢が再び口を開いた。

「それだけに騙されてはなりません。

他にも手を打っていると見るべきでしょう」

「二の手、三の手か」

「相手は尼子ですので、忍びと銭金には不足しておりません」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ