(稲葉山城)8
実家との話し合いがもたれた。
私と父抜きで双方の実務者が顔を合わせた。
先方は兄と叔父。
こちらは参謀の芹沢嘉門と大人衆筆頭の伊東康介。
私と父がいないので短い時間で合意に達した。
明智領での私の事業は継続する事になった。
技術はこちらの物だが土地は向こうの物。
父を納得させる為に五分五分、対等と言うことにして、
明智領地の事業から上がる純利益を折半することにした、
まあ、会計業務はこちらなので数字はどうにでも弄れる。
嬉しかったのは側仕え全員が私の直臣になったことだ。
近藤勇史郎、土方敏三郎、沖田蒼次郎、お園、お宮。
五名は幼時から私を優しく、かつ厳しく、教え導いてくれた。
彼等彼女等が側にいるだけで安心できた。
加えて、その伝手で女中が六名、下男が八名、下女が五名、
計十九人が明智領から来た。
紐付きが含まれているかも知れないが、素直に受け入れよう。
私の懸念を聞いた猪鹿虎永が胸をドンと叩いた。
「任せて下され。
遊ばせておいて、まず紐の先を探る。
しかるのち、こちらの利を鑑み処理いたします」
利を鑑み処理か。
怖い、怖い。
何を、どうするんだ。
城を得て終わりではない。
ここから新たに始まるのだ。
明智光国家の第一歩が。
銭雇い達に仕事を振り分けた。
優先は城の守り。
次は城下町の活性化と治安維持。
そして周辺の村や集落の掌握。
周辺とは北が長良川、南が木曽川。
今のところは、これで限界だろう。
なにしろ人手が足りない。
そこで河川を越えないように指示した。
人手が増えれば、その限りではないけど。
最後は当然、銭儲け。
こちらでも明智本家と同様の事業を行う。
増やしても共倒れになる懸念はない。
予想される消費量に比べ、圧倒的に供給量が少ない。
積極的に生産量を増やす事にした。
それとは別にして、地元の有力者と親睦を深める必要もある。
城下町や村、集落の肝煎りや年寄り衆を招こう。
酒宴で持て成し、腹を割って話し合おう。
明智光国家の領地の将来を。
私は酒宴には慣れてないけど、我慢、我慢。
なにしろ美濃には売れる物が多い。
関の孫六に代表される刀工、美濃和紙、陶器の美濃焼等々。
畿内も近いので銭儲けの種には事欠かない。
これらに私の明智印を加えたら、えへっ、涎た~らたら。
銭が貯まる、銭が貯まる、銭が貯まるぞう。
斎藤義龍が意外と早く軍勢を解散させた。
徴用した農民を領地に戻したい国人や土豪の不満を、
国主の権威を持ってしても抑え切れなかったらしい。
地団駄を踏んでいると言う。
お気の毒さま。
でも、こちらとしては大歓迎。
一方の斎藤道三も尾張に去ったので、暫くは平穏であると思いたい。
願望は叶えられなかった。
一月もせぬうちに足下が揺らいだ。
五日前、私が近江の国主・六角氏が発布した楽市令を手本に、
一歩進めた楽市楽座令を発したのに対し、
城下町の商人達や寺社勢が公然と抗議行動に出た。
集団で城門に詰めかけた。
武装した僧兵の一団が商人達と交替し、
制止しようとする城兵達を押して行く。
これは強訴だ。
私は執務を中断して指示を出した。
「城兵は門内に引け。
門を閉じ、決して手出しするな。
ただし、押し入ろうとする者がいれば、容赦なく斬り捨てて構わん」