(西から迫る兵火)11
竹中が慇懃無礼な態度で、飯母呂と小笠原の一行を下がらせた。
そして私に上座を譲った。
床几に腰を下ろした私に山南の配下が紅茶を持って来た。
なので砂糖を入れて掻き混ぜた。
アッ熱い、ふー、ふー。
飲むと、笑いを堪えて捻じれた腹筋が息を吹き返した。
そんな私に竹中が尋ねた。
「独断で話を進めましたが、宜しかったのでしょうか」
「いいもなにも、この方面の軍配は竹中に預けたんだ。
与力として付けた藤堂、酒井、魚住と相談の上、行動すれば良い。
失敗したら竹中に預けた私の責任。
上手くいったら竹中達の手柄。
・・・。
注意点は一つ、無駄死だけはするな。
お前達も、配下の足軽達もだ。
とにかく一人でも多く生還すること。
生きてさえいれば挽回の機会はあるんだ。
とにかく無駄死にだけはするな」
私は指揮に来た訳ではない。
早い話、視察。
四つの与力衆が一つになったので、その連携具合の確認だ。
個性の強い四人だが、今のところ問題はない。
問題ないので引き上げようとした。
そこへ外から難問が投げ込まれた。
山陽道から来た尼子本隊が丹波口へ向かっているという。
てっきり、播磨から摂津、河内、そして山城へ至ると思っていた。
それが丹波口とは。
私は供回りに紛れ込んでいた忍びを呼び寄せた。
「掴んでなかったのか」
「はい、お恥ずかしながら」
「だとすると、多くの味方にも事前に伝えてないか」
「その様に思えます」
摂津の最大武力は石山御坊で衆目が一致してした。
私はその点についても質した。
「尼子は、石山御坊とは話をつけたと聞いたが」
「はい、尼子の使者が入りましてから、その様な噂が流布しております」
「噂か、どちらかが流したか、尼子だろうな。
真偽はともかく、その実はどうなのだ」
「先代の経久様の頃よりの付き合いとも聞いております」
嫌な汗が流れた。
「右手に出雲大社、左に石見銀山、そして石山御坊か」
本当に石山御坊と通じているのなら、
摂津から河内を通っても問題はないはず。
私の疑問を察したのか、魚住が口を開いた。
「石山御坊は困っておるのでしょう。
三条公頼の長女が細川晴元の正室、次女が甲斐武田の正室、
三女が石山御坊の正室。
さらには三好家、堺の会合衆とも深い関係で、身動きが取れない、
そう睨んでおります」
「しかし、何れは一つを選ばなければならなくなる。
そのところ、どう思う」
私の問に藤堂が応じた。
「結局、その時の強い方ではないでしょうか」
「当家が強いと見れば」
「当家はございません。
余りにも多くの一向一揆を討ち取りましたので」
「そうだな。
どこかで決着を付けるか」
酒井が重々しく口を開いた。
「両細川が山城で陣を敷いている様ですな」
これに忍びが応じた。
「摂津の国人衆が中心になっております」
「数は」
「万は超えますが、尼子に太刀打ちできぬと思えます」
尼子は公称十万。
賦役の小者・雑兵が多いので、それに近い数にはなる。
私は肝心の事を尋ねた。
「将軍宣下を受けられるのか」
「積み上げる金子しだいでしょう」
石見銀山が力を発揮する訳か。
竹中が私を見た。
「将軍宣下よりも管領職ですな。
尼子がそれを受けると困ったことになります」
「どうなる」
「田植えが近いので、兵は一時国元へ戻します。
しかし、兵が減っても、管領となれば力が増します。
政所を牛耳り、書状一つで色々と悪さを仕掛け、
三好と当家を追い込むと見ています」
それはある。
お手紙管領様だ。
口と筆で味方を募り、自分は出ずに、釣り上げた奴をぶつける。
実に陰険な手口だ。
「しかしだな、そうなると当家と三好が組む事になるが」
「いいえ、互いに争う様に企みましょう」
そうか、もしかして、・・・仕込み済みか。
当家か、三好家か、
それは誰だ。
縁戚か、重職か、




