(稲葉山城)2
妻子の消息を心配する義龍の代わりに長井が質問した。
「その姿だが、武具を身につける暇もなかったのか」
「いいえ、そう言う訳ではありません。
負けたので身包み剥がされました。
刀も腹当ても取り上げられて城を放逐されました」
「全員か」
「全員です。
戦死した者もです」
「徹底してるな」
「代わりに負傷者は全員手当てを受けています。
その薬代と手間賃だそうです」
「珍しいな。
敵にも治療を施すとは。
しかも薬代と手間賃か」
「死体は全て城から出されております。
その担ぎだしは我等に課されました。
一晩だけですが、我等は城下での宿泊を許されております」
珍しい事ばかりを聞かされ、皆して相手の正体を掴み兼ねた。
翌朝はせわしなかった。
陣払いを済ませると、全軍で稲葉山城へ急いだ。
道三軍や織田軍は敢えて無視した。
追撃して来れば反転して殲滅するだけ。
気概が見て取れたのだろう。
両軍はおずおずと距離を空けてついて来た。
昨日の一戦で疲弊したのか、動きがのろい。
一足先に城下町へ向かわせた物見が次々に戻った来た。
「城下町の入り口にお味方の死体が山積みされています」
「城門は閉まっています。
掲げられている旗印は赤い桔梗紋二つ。
城内各所に兵が配置されています」
「城下町に伏兵はおりません。
お味方の兵が続々と城下町から出てきます。
何れも平服です」
「山の手に伏兵はありません」
斎藤義龍は決めあぐねた。
「長井」発言を促した。
長井道利が献策した。
「城攻めは性急すぎます。
まず道三軍と織田軍への備えを置き、残りで城を囲みます。
それで降伏勧告の使者を送りましょう。
何者なのか正体を探らなくては対処の仕様がありません。
その話し合いの間に味方を収容する、如何でしょう」
「誰を送る」
「一人は私。
他に幾人か。
見る目が多い方がいいでしょう。
ついでに山伝いに物見を送りましょう」
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