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oh! 銭ぜに銭 ぜに銭ぜに。  作者: 渡良瀬ワタル
11/248

(開演)11

 私が稲葉山城を欲しいと思ったのは、

道三が家督を義龍に譲って隠居した年だ。

城主交代は家臣にも影響を及ぼす。

道三系の家臣が去って義龍系の家臣が新規に入る。

そこに付け込めればと思い、猪鹿虎永に相談した。

聞き終えた猪鹿虎永は笑った。

「あくどいですな。

でも面白い。

試しに手の者を入れてみますか」

 地縁血縁のない仕官は無理なので下男下女から始めた。

手始めは城内の人間関係の情報収集。

誰しも付け込む隙はあるもの。

そこから堕とす人間を見定めた。

猪鹿虎永は豪語した。

「銭の力で城を落としてみせます」

 内部対立を煽り、都合の悪い奴を追い落とし、

空いた席に買収済みの奴を就ける様に工作した。

そしてその伝手で経歴詐称の甲賀者を仕官させた。

一度成功すれば後は簡単なもの。

次々に仕官させた。


 本来であれば斎藤義龍軍を後方より襲うつもりでいた。

この先の浅瀬で道三軍と対峙しているところを奇襲し、

あわよくば義龍の首をと胸算用していた。

駄目でも稲葉山城の攻城戦に参加し、

内部に仕込んだ内応者の手引きで本丸を落とす。

それが変わったのは織田軍の存在だ。

これを活かさない手はない、幸運の女神がそう私に囁いた。

そこへ兄が援軍要請に戻って来た。

これ幸い、私は織田軍が救援に向かっていると漏らした。

 幸運の歯車がクルク~ル回った。

戦場が下流に移動した。

天秤が傾いた。


 表の我々は経験だけでなく、陽動も兼ねていた。

別動隊が二ついる。

一つは城内の内応者。

数は下男下女も含めて六十。

もう一つは足軽に組み入れてない山窩衆。

数は千。

その山窩衆が山伝いから城に侵入する手筈だ。

 頃合い良く、別の場所で法螺貝が吹かれた。

稲葉山城の背後の山からだ。

山窩衆が侵入に成功した。

城内が一気に騒がしくなってきた。

城内の内応者も行動を開始したのだろう。

私は攻撃の懸太鼓を打たせた。


 城内も城外も慌ただしくなった。

私は刀を手に立ち上がった。

猪鹿虎永の声が飛んで来た。

「いけません。

大将は本陣でジッとしているものです」

 面々が深く頷いた。

側仕え筆頭の近藤勇史郎が私に両手を差し出した。

刀を受け取ると言うのだろう。

「私も初陣を飾りたい」抵抗した。

 猪鹿虎永が毅然とした態度で言う。 

「駄目です。

若は木っ端侍じゃありません。

立場を弁えてください」

「しかし」

「しかしもかかしも、とにかく駄目です。

陣頭に立つのは武将の役目。

若は大将、大将の役目は本陣にて全体に目配りすることです。

違いますか」畳み掛けてきた。

 私はぐうの音も出ない。

言い負かされた。

素直に刀を近藤に渡した。


 私が腰を下ろすと長倉金八と斎藤一葉の両名が立ち上がった。

私に正対して片膝ついた。

「これより参ります」

「えっ、どこに」

「城攻めに加わります」

「ええっ、そうなの」

「はい、それでは」

 両名は良い笑顔で陣を出て行った。

私は猪鹿虎永を見た。

「あの二人は出陣してもいいのか」

「当然です。

銭雇いがここで働かねば、どこで働くと言うのですか」

 う~む。

確かにそうなのだが、う~む。

私の初陣はこれか、これなのか。

叫びたい。

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― 新着の感想 ―
[一言] 対象が槍働きするのでは 基本的にその戦は敗色濃厚ですから 先陣きる一部の武将は除く
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