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oh! 銭ぜに銭 ぜに銭ぜに。  作者: 渡良瀬ワタル
103/248

(狸ヶ原)4

 右翼の最前線には近江衆が布陣していた。

率いるのは藤堂虎高。

進路変更して襲来した信濃諸将隊は左斜行陣の美濃衆に任せ、

彼は前方から来る敵に備えていた。

それが来た。

信濃諸将隊が敗走するのと入れ替わるように、

一条信龍隊が隊伍をしっかり組んで攻めて来た。

更にその後方には小畠虎盛隊。

数がちと多いが、相手にとって不足なし。


 藤堂虎高は近江生まれながら、流浪の末、

かつては甲斐武田家に仕えていた者。

当時の守護・武田信虎に偏諱を授けられるほどの働きをしたが、

古い家風に馴染めず、ついには武田家を辞した。

 戻った近江でも頭角を現した。

武田家での経験を活かし、地侍として名を上げた。

そこへ侵攻して来たのが明智家。

目新しさで一杯の家風であった。

そこに惹かれ、臣従の道を選んだ。


 藤堂虎高は一条信龍隊を観察した。

流石は信虎の実子にして、信玄の実弟。

軍気旺盛にして、隊伍に乱れなし。

しっかり隊を掌握していた。

そんな一条信龍隊を藤堂は近江衆でもって、しっかり受け止めた。

 小畠虎盛隊が迂回して側面から攻めて来た。

武田家の戦略戦術は理解していた。

ここは闇雲に退くでもなし、無謀に攻めるでもない。

現状維持が最善手。

余裕を持って、そちらも受け止めた。

 時間は味方。

竹中重元が近江衆の再編成を終えた。

それを見て取るや、藤堂は加勢を求めた。

竹中に否はない。

即座に了承し、小畠虎盛隊に攻めかかった。


 左翼最前線で防御陣を敷いていたのは長倉金八の組。

ところが想定していた馬場信春隊が来ない。

だけではない。

馬場隊の後方にいた真田幸隆隊襲来に期待したが、そちらも来ない。

来ないどころか、中央に移動して行くではないか。

もしかして、武田軍は中央からの攻めに徹するのか。

これでは完全な肩透かしだ。

 よくよく見ると前方には、距離はあるが、小荷駄隊のみ。

その後ろには武田軍本陣がある。

長倉は思わず舌舐めずりした。

自分の組のみで小荷駄隊は蹴散らせる。

問題は武田軍本陣にまで届くかどうか。

もう少し数が欲しい。

使番を土方へ走らせた。


 使番が増援を連れて戻るかと思っていたら、土方が来た。

長倉の言い分を確認すると、最前列から敵情を見渡した。

「三千もいれば本陣には届く」土方が断言した。

「なら」

「これは撒き餌だ。

俺達をここから引き剥がすつもりだ」

「んっ・・・。

だから真田幸隆隊を中央に移動させたのか」長倉も理解した。

「そうだ、中央からの攻めを厚くしたと見せて、俺達を引き剥がす。

俺達が小荷駄隊を蹴散らし、本陣に迫ったところで、

真田幸隆隊が再び進路変更する。

そして鉄砲隊を側面より襲う」

「そっちが本命か、俺達は無視か」怒りが垣間見えた。

 土方がニヤリとした。

「信濃諸将隊が二つあった。

何れも潰走したが、どこに向かったのか分かるか。

再編成している場所が見えるか」

「見えん、どこにも見当たらん」

「だとすると、本陣後方で再編させていると見るべきだ」

「本陣の後方に一部隊が出来上がる訳か」

「だろうな、どうだ、俺達は三千で足りるか」

「とても足りん。

それに、撒き餌だとすると、蹴散らした小荷駄隊も怪しい」

 土方が鼻で笑う。

「ふっ、おそらく、それなりの将を置いてる。

蹴散らかされたと見せて、俺達の背後を塞ぎにかかる」

「そいつは弱ったな」顔は弱っていない。

「虎穴に入らずんば虎子を得ず、どうする」

 土方が子供のような笑顔で長倉を見た。


     ☆

     ☆


 武田信玄は本陣の仮櫓を指揮所にしていた。

敵味方の旗指物の動きで戦場全体の流れが分かった。

左翼で入り乱れ、中央は膠着、右翼は動きなし。

各隊に付けた戦目付からも報告が適時に届いた。

目と耳で把握に努めながら、鼻と肌で勘も働かせた。

 今のところ、こちらが分が悪い。

六四で負けている。

特に足軽雑兵の戦線離脱が痛い。

信玄でも目が届かぬところで逃げる者を止めるのは至難の業。

 とっ、敵右翼で動き。

敵右翼が陣を払い、隊列を組み始めた。

騎馬の集団が前に出て来た。

これは攻めに転じたと判断すべきか。

確か敵右翼の指揮官は土方。

足軽上がりではなく、当主の側仕え上がり。

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