表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
oh! 銭ぜに銭 ぜに銭ぜに。  作者: 渡良瀬ワタル
102/248

(狸ヶ原)3

 山南は昂りそうになる感情を懸命に抑えた。

早過ぎてはいけない。

遅くてもいけない。

大切なのは料理と同じで塩梅、頃合い。

 おっと、大事な班を動かす事を忘れていた。

新規の狙撃班に目をくれた。

一丁の狙撃銃に射手と補助員の二名。

それが三丁だから六名。

これに警護三名と班長、合わせて十名の小さな班。

その狙撃班を呼び寄せた。

「自陣内なら自由に動いて良し。

好きに動き回って、好きに放て。

武将を撃っても良し。

局面を変える一撃を撃っても良し。

一切を任せる」


 敵勢が遠山一族の死体が転がる地点に入った。

勢いの付いた馬足は全く緩まない。

死体を巧みに避けながら、怯みを見せずに接近して来た。

山南は片手を上げた。

「放て」

 筒先を揃えた第一組が立射、轟音。

心地好い硝煙が山南の鼻を擽った。

結果は見るまでもない。

射手達の狙いは馬。

大きな馬体なので狙い易い、外さない。

 悲惨なのは弾丸を喰らった馬。

ドッと倒れて騎手を下敷きにした。

あるいは狂ったように暴れて、騎手を振り落とした。

騎乗していた者達の多くは巻き込まれるか、

脱しても後続の馬の蹄にかけられた。

銃撃ではなく味方の接触によって落馬する者や、

回避に失敗して態勢を崩す者も見受けられた。


 馬群の中ほどに立派な甲冑姿の武者がいた。

付き従う者達は彼を守る隊列を組んで、一糸の乱れも見せない。

この隊の指揮官と供回りの者達であろう。

一人の腰の旗指物からすると、人物はたぶん、秋山虎繁。

先鋒の者達が銃撃で倒れても彼は前進を止めない。

顔色一つ変えず、周りに指示を飛ばし、前へ前へと軍勢を進めて来た。

 見ていた山南の耳に聞き慣れた銃声三発。

狙撃。

その秋山が一瞬、ビクッとし、動きを止めた。

そして、そのまま前のめりに落馬した。

慌てる供回りの者達。

 山南は順番が来た鉄砲隊第四組に指示した。

射撃を秋山が落馬した周辺に集中させた。

供回りの者達を一人残らず餌食とした。


 崩れる筈の後続の徒士組にその様子が見られない。

通常は指揮官を失うと継戦の気概も失うのだが、彼等は違った。

血相を変えて攻め寄せて来た。

訳は直ぐに分かった。

彼等を追い立てるように、その真後ろに馬場信春隊が続いていた。

それでは逃れようがない。

ちょっとでも隊列を乱した途端、後方の馬場隊によって斬られてしまう。

前方の鉄砲、後方の馬場隊、その選択肢は限られていた。

真っ直ぐ死地に向かうしかない。


 左翼指揮の土方敏三郎は信濃諸将隊の進路変更に戸惑った。

当初は馬場信春隊を迎え撃つつもりでいた。

それがこれだ。

小賢しい。

既に長倉金八組千に馬場隊想定の防御陣を敷かせていた。

これを軽挙に動かせば左翼全体の骨組みが狂う。

 第二陣の斎藤一葉組千を向かわせた。

信濃諸将隊に手間取る訳には行かない。

まだ武田主力が控えているのだ。

短期での殲滅の為、持ち駒の弓騎馬五百に支援させた。


 右翼指揮は地元美濃衆二千を率いる竹中重元。

こちらも敵の進路変更に戸惑った。

内藤昌豊隊ではなく、もう一つの信濃諸将隊が来たからだ。

それでも迂闊に動かない。

内藤隊に備えていた近江衆二千は動かさず、

自ら美濃衆に左斜行陣を組ませて迎え撃つ。

盾足軽五百、弓足軽五百、槍足軽五百、騎馬を含む本隊五百。

 まず弓足軽が迎撃した。

弓による長距離攻撃。

それを潜り抜けた敵勢は盾足軽が押し止める。 

盾を並べただけではない。

盾足軽は盾だけでなく短槍三本を持ち運ぶ。

そのうちの二本を投擲し、残りで盾陣を守備した。

熟練の投擲と堅実な守備固め。

 間隙を縫って槍足軽が各所よりと突撃攻撃を繰り返す。

打って出ては引っ込む。

打って出ては引っ込む。

亀、亀、亀。

それを何度となく繰り返した。

その辺りは歴戦の強者、竹中重元は一手も間違えない。

そして完全に崩したと見て取るや総攻撃を命じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ