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oh! 銭ぜに銭 ぜに銭ぜに。  作者: 渡良瀬ワタル
101/248

(狸ヶ原)2

     ☆


 武田信玄は本陣に設置した仮櫓にいた。

高所から一部始終を見ていた。

結果に思わず目を剥いた。

遠山一族隊が壊滅してしまった。

それは橋頭堡の潰えを意味した。


 初手は瀬踏みであった。

相手の力量を測り、次に活かす。

なのに遠山一族隊があっさり壊滅した。

扱き使うつもりではいたが、壊滅までは望んでいなかった。

東濃の支配に支障をきたすからだ。

 困った。

取り敢えず止太鼓を打たせた。

全軍を一時停止させた。


 信玄は今回の美濃侵攻で明智家を倒せるとは思っていない。

相手は倍の領地を持つ国。

五年ほどの長期戦になると踏んでいた。

その為の橋頭堡が東濃の遠山一族。

それが戦場にて一瞬で散った。

 領地に地縁血縁の者達はいるだろう。

だが、戦力としては甚だ心許ない。

今回の侵攻には一族の主力が参じていた。

それが壊滅した。

 残っている者達は多くが老人か、若年の者達。

彼等に期待はできない。

我らが退けば直ちに明智家に粉砕されるだろう。

残念な結果になった、が、後悔する前にすべきことがある。

目の前の状況の打破だ。


 信玄は使番達を呼び寄せた。

それぞれに口頭で新たな指示を持たせ、各隊に走らせた。 

ついでに乱太鼓を打たせた。

総攻撃前の触れ太鼓。

癖になりそうな拍子を刻み、聞く者の心を躍らせる。

そして死地に赴かせる。


     ☆

     ☆


 鉄砲隊を指揮していた山南は敵陣の動きを観察していた。

武田軍は味方の壊滅を目の当たりにして、激しく動揺していた。

それが走り回る使番と、この乱太鼓の影響で減じた。

浮足立っていた足軽雑兵の類が姿勢を正して行く。

 山南は耳に心地好く響く敵の太鼓に感心した。

当家の太鼓とは趣きが違う。

これが旧家が積み重ねて来たものなのだろう。

太鼓の拍子に知らず知らずのうちに、身体が反応していた。

 

 武田軍から鬨の声が上がった。

一度だけではない。

二度三度と上がった。

自然、武田軍全体から軍気が沸き上がって来た。

それを見て取ったかのように太鼓の打ち方が変わった。

懸太鼓。

攻撃の合図。

 まず中央の信濃諸将隊が動いた。

前進開始。

左の先鋒・馬場信春隊も遅れて動いた。

右の先鋒・内藤昌豊隊も同じように遅れて動いた。

二つの隊の遅れには意味があるのだろう。

 中央のもう一つの信濃諸将隊も連動した。

間隔を置かずに続いた。

真正面から二つが波のように押して来た。

各個に雄叫びを上げ、戦意を維持しようと図る。


 山南は慎重に見定めた。

射程のうちに入れたら一人も逃さない。

それが自分の仕事。

 突然、信濃諸将隊の動きが変わった。

射程の手前で進路を変えた。

左斜めに変更した。

向かう先には土方の旗本隊三千。

 後続の信濃諸将隊も迷いなく進路を変更した。

こちらは右斜め。

向かう先には美濃与力衆二千、近江与力衆二千。


 驚きはそれだけでは終わらなかった。

二つの信濃諸将隊の後方に第三陣がいた。

秋山虎繁隊。

 本陣の盾の役目を捨てて攻めに転じて来た。

先頭には一塊になった騎馬隊。

およそ千。

騎馬の足が温まったのか、速度を上げた。

 遅れじと徒士組も血相を変えて続いた。

こちらは二千。

死地に赴くと理解しているのか、怒鳴り声のような雄叫びが随所で、

手前勝手に上がった。


 驚きは更に続いた。

左の先鋒・馬場信春隊が中央に進路を変更した。

右の先鋒・内藤昌豊隊も同じように中央に進路を変更した。

秋山隊の後方に馬場隊が入り、その後方に内藤隊が入った。

慣れているのか、遅滞なく進路変更を完了した。

中央に武田軍三将が集まった。

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― 新着の感想 ―
[一言] >相手は倍の領地を持つ国 それが5年と計算する信玄の方が基地外だわ。 しかも、短期決戦を挑んでいれば、滅ぼして下さいと言わんばかり。
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