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悪女には死がお似合い~偽りの聖女に嵌められた令嬢は、獣の黒騎士と愛を結ぶ~  作者: 香月深亜
第一章

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7. お酒の力

 その夜、ギルバートは訓練でかいた汗を流し終え、まだ濡れた頭にパサッとタオルを乗せただけの状態で自室にいた。

 持ち帰った仕事をいくつか処理して、もう寝ようかと部屋の明かりを消したそのときだった。


 コンコン、と扉を叩く音。


 叩かれたのは、廊下に繋がる扉ではなくもう一方の扉。ギルバートとレイラの部屋を繋ぐ扉が、かちゃりと開かれる。


 結婚後一度も開くことのなかった扉。

 同時に入り込んでくるレイラの部屋からの光。


「レイラ……?」


 来るはずのない人物が扉の奥から姿を現し、ギルバートは目を見開いた。 


 こんな夜に、レイラの姿を見るのは初めてだ。


「どうした? 何かあったのか?」


 突然の訪問に動揺しつつ、ギルバートはレイラに聞く。


「でんかぁ……」


 レイラは間延びした声を出しながら、たたっとギルバートに駆け寄った。

 そしてそのまま、両手を広げて抱きついた。


 咄嗟に仰け反ったギルバートだったが、彼の後ろにはちょうど良く大きな寝台があった。

 レイラに押し倒される形で、ギルバートは寝台の上に倒れ込む。


 一瞬の出来事に、ギルバートの理解が追いつかない。


「っ……なに、」

「でんか!」


 ギルバートに覆い被さったレイラが、彼の顔の横に腕を立て、上から見下ろす。


「わ、わたし……わたしを……」


 レイラはギュッと気合を入れて、ギルバートに請う。



「わたしをだいてください!!」



 聞き取れはしたが、一体どういうことだろうか。


 レイラは愛のない結婚を望んでいた。

 それにもう一つ。

 獣人のギルバートにはある秘密があった。


 だから、そういうことはしないつもりでいた。なのに今更、なぜこのタイミングで?


 部屋に入って来た時すぐに気づいたが、レイラはお酒を飲んでいる。

 酔っ払って変なことを言い出しているのか?


「そなた……大分酔ってるみたいだな」

「よってませんわ! ……ひっく」


 酔っている者ほどそう言うものだ。


 ギルバートは上体を起こし、レイラと向かい合って座る姿勢に直した。


 すると、窓の外から月明かりが差し込み、レイラの姿を煌々と照らした。


 彼女は白のナイトドレスを身につけていた。そこからのぞく陶器のような白い肌はひどく魅力的で。まどろんだ瞳と、上気した頬、それから潤んだ唇。


 ギルバートはごくりと唾を飲む。


 レイラは美しい。

 公爵家の令嬢だった頃はまだ可愛らしい部分も残っていたが、妃となってからはその美しさに磨きがかかっている。


 幼い頃から皇太子アルフレッドの婚約者だったから誰も手を挙げなかったのだろうが、もしそうでなかったならば、その美しさを知った者は皆結婚したがっただろう。


(自分が何を言っているのか分かっているのだろうか?)


 こんなにも美しい女性が、こんな夜更けに男の部屋に入ってきて「抱いてほしい」だなんて。

 礼儀作法を厳しく躾けられてきたレイラなら普通では起こり得ないことだ。


(ああ。だからお酒の力を借りたのか……?)


 ギルバートの中で、この状況とレイラの言動が結びついていく。



「レイラ。侍女に水を持って来させよう。明日また話を、」

「……す」

「ん?」

「いやです」


 なんとかレイラを部屋に戻そうとするギルバートだったが、レイラはてこでも寝台の上から動こうとしない。


「この結婚に愛はいらないと言っただろう?」

「でもこどもは……」


 困ったギルバートが説得を試みたところ、レイラからは思わぬ返し。

 その単語は予想外だ。


「……子供がほしいのか?」


 その質問にレイラは、こくんと小さく頷いた。


「獣人の子でもか?」


 ギルバートがレイラの気持ちを確かめる。

 獣人が忌み嫌われる存在だということは、ギルバート本人が一番分かっている。


 生まれた子供は大変な思いをするだろうし、それ以前に獣人の子供を産む人間の母親は、周囲から悪意ある視線を向けられる。



「でんかはかっこいいですわ」


 レイラはにこっと笑顔を見せる。


「そのくろは、けだかいいろです。でんかのようにかっこよくてつよいこどもがうまれたらうれしいです」


 ふふふ、と笑い声も漏れる。


 レイラがそんな風に自分を見ていたことに、ギルバートは驚いた。

 そして、目の前で無邪気に笑うレイラから、目を離せなくなる。


 レイラは普段あまり表情を変えない。

 だから、笑顔を見せること自体が珍しい。

 それなのに今日は声を出して笑い、獣人の証である黒色を『気高い色』と言い、ギルバートを『かっこよくて強い』と褒める。


 酒に飲まれているからこそ、恐らくそこに嘘はないだろう。


(まあ、この会話を覚えているかは分からないが……)


「レイラ。誘ったのはそっちだからな?」


 念のためそんな保険をかけながら、ギルバートは手を伸ばす。

 大きく骨張った手が、レイラのやわらかな頬に優しく添えられて。そのまま流れるように、ギルバートはレイラの唇にそっとキスをした。


 口と口が軽く触れただけのキス。

 ギルバートがゆっくりと顔を離すと、レイラはくすぐったそうに、だけど嬉しそうな顔をした。


(可愛いな。……もっと)


 もっと見たい。

 美しいのに、可愛い反応を見せるレイラをもっと……。



────翌朝、レイラはギルバートのいる寝台で目を覚ました。

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