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悪女には死がお似合い~偽りの聖女に嵌められた令嬢は、獣の黒騎士と愛を結ぶ~  作者: 香月深亜
第二章

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58. 悔しみから出た解決策

「なんとか言ったらどうなの?」


 皇后陛下からそう言われたニナは、再び「申し訳ございません」とだけ答えた。そしてあとは頼みの綱であるアルフレッドに視線を送り、助けてくれることを願うばかり。


(……お願いだから早くこの場を切り上げてよ……)



「……謝ることしかできないのね」


 はあ、と皇后陛下が大きなため息をつく。


「それで、伝染病の件はどうするつもり? アルフレッドの言った通り『知らなかった』と言ったって、そんな理由じゃ民は納得しないわよ?」

「なら父上から皆に言ってもらいましょう!」

「アルフレッド。そういうことじゃないわ」


 アルフレッドが出した案は即却下された。


「陛下からなんて言ってもらうの? 『聖女は伝染病の件を知らなかったから対応できなかった』と? わざわざ聖女の無能さを盛大に発表することになるわ」

「あ……え。しかし、それが本当なのですから、」

「本当だからなお悪いのよ。少しでも何か対応していれば良かったのに、全く関わることもなく収束してしまった。それを知った民の中にはこう思う者が出てくるでしょうね。『皇子妃さえいれば聖女なんていらないのでは』と」


 たった一度、対応ができなかっただけなのに。

 民心はそんなことで離れてしまうのかと、ニナの表情が歪む。


(私が今まで捧げた祈りなんて関係ないのね……。偽物だけど、偽物なりに、みんなのためを思って動いてきたつもりだったのに……)



「それは聖女への侮辱です! そんなことを言いだす輩は即刻処罰すればいいのです!」

「何度言ったら分かるの? 権力は無闇に振りかざすべきではないわ」

「ですが、今回の件は本当にニナに落ち度はないのですよ!? そもそも、皇子妃たちの行動が早すぎたのです!」



(………………あ)


 ふと、ニナはあることに気づいた。


「…………あの。皇后陛下」


 おずおずとニナは手をあげ、ここで初めて意見を述べる。


「こういうのは、いかがでしょうか?」


 そうしてニナは、奇しくも馬鹿なアルフレッドが何の気なしに発した言葉のおかげで、この状況を一変させる解決策を思い付いたのだった。



***


 この日、ギルバートやアリシアの帰りを心待ちにしているレイラの元を兄のルーファスが訪ねてきていた。


「調子はどうだ?」

「特に変わりはありませんわ」

「……次は何をするつもりだ?」

「次?」


 ルーファスから『次』を尋ねられ、レイラは何のことかと首を傾げた。


「伝染病の次だ。毒に倒れたと思ったら、まだ完全に回復しない内に伝染病を解決した。だからこの次は、一体どんな無茶を計画しているのかと思ってな」

「ふふ。計画だなんて」


 心配性の兄から出てきた言葉に、レイラは笑みをこぼす。


「どれも計画なんてできませんわ。偶然立て続けに起こってしまっただけです」

「……本当に? ならなぜ、サプレスの準備をしていた?」


(! お兄様……)


「父上経由で話は聞いた。グランヴィル公爵からカルダール内部の話を聞いたことも大きかっただろう。だがなぜ、俺や父上に何も話してくれなかったのだ?」


 勝手にサプレスを作っていたことではなく、レイラがそれを秘密にしていたことがルーファスは気になっていた。

 それに秘密は、サプレスに始まったことではない。


「かなり前。以前お前に頼まれて聖女様と親しい神官を調べたこともあったが、その時も理由は話してくれなかったな」


 あれはレイラが回帰してすぐのこと。

 ニナの裏にいる人間を探ろうと、ルーファスに神官を調べてもらったときのこと。


 あのときも、レイラは何も話せずルーファスには『秘密』と突き通していた。


「頼むレイラ。隠していることがあるなら教えてくれ。……皇子妃となっても、お前は可愛い妹なんだ。俺の知らないところで危険な目に遭って欲しくない」


 兄に本気で心配そうな目を向けられては、レイラも言葉に詰まってしまう。


(もう……いいかしら……)


 兄を巻き込まないようにと固く口を閉ざしていたが、そのせいでかなり心配と、迷惑をかけてしまった。

 きっと、毒を飲んで倒れてしまったから、心配は余計大きくなったのだろう。


 考えてみれば、回帰前の大きな問題は聖女殺害未遂事件と伝染病の二つ。この二つが解決できたのだから、あと残っていることとすればニナの正体を暴くこと。


 それにはまだ証拠が足りないけれど。

 でももしかしたら、ルーファスの力を借りたら何か証拠が手に入る可能性だってある。すでにギルバートも知っている事実なのだし、ルーファスに教える良い時機なのかもしれない。



「お兄様。実は、」


 熟考した末にレイラが口を開こうとしたその時、外の兵士から声が掛けられた。


「レイラ様。アルノー宰相様がお見えです」

「お父様が?」


(会う約束はしてないけれど……)


 兄に用事かと思いレイラがルーファスを見るも、ルーファスは両手を上げて自分にも何の用かは分からないという様子を見せた。


 双方覚えがないが、とりあえずレイラが扉を開けて父を迎え入れる。



「お父様。一体なんの、」

「大変なことになった」


 話し方は冷静であるものの、アルノー宰相はなんだか芳しくない表情を浮かべている。


「聖女様が、この前起きた服毒事件や伝染病の件は皇子妃の自作自演だと言い出した」


「なっ……」

「なんだと!?」


 レイラよりもルーファスの反応の方が早かった。


「レイラがそんなことするはずないじゃないですか!」

「それはもちろん、私だってそう思っている。ただ、聖女様の発言は陛下も無下にできない」


「お父様。彼女はどんな話をされたのですか?」

「それは……」


 慌てて意見をする前に、状況は正確に把握するべきだ。レイラは宰相から仔細を聞いた。


 ニナと陛下の会話はこうだ。



『今回の伝染病の件、解決があまりに早すぎると思うのです』

『何が言いたい?』

『本来伝染病を治癒するのは聖女の務め。それなのにどうしてか、私の元には伝染病の情報が来ず、気づいたときにはすでにレイラ様方が解決しておりました。大変申し上げにくいのですが……自ら伝染病を流行らせてそれを解決することで、彼女たちは名誉を得ようとしたのではないでしょうか』

『……いや。伝染病はカルダールが仕組んだことだった。レイラが流行らせたわけではない』

『まあ、なんということでしょう! それではレイラ様は、カルダールと内通していた可能性がありますね』

『一体何を、』

『それに……言わないつもりでしたが、以前起きた毒の事件についても……。犯人は捕まらぬまま迷宮入りとなりましたが、正直私は、レイラ様の自作自演を疑っておりました。あの場でお茶に毒を入れられるのは部屋にいた私かレイラ様しかいませんから。自ら毒を飲むことで、私を陥れようとしたのだと思います』

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