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悪女には死がお似合い~偽りの聖女に嵌められた令嬢は、獣の黒騎士と愛を結ぶ~  作者: 香月深亜
第二章

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47. 推理

 それは、誰も予想していなかった。


 ニナが倒れると思って外で待機していた侍女も、レイラが牢獄に入ると思って知らせを待っていたソルも、そしてニナ自身も。


 誰も、こんな展開は予想できなかった。



「なぜ彼女が倒れているんですか。まさか毒を入れ間違えたり、」

「有り得ない! 間違いなく私のカップに入れたわ。テーブルの上に置くときも間違いのないように気を付けたのに。なんで……」


 まさかの知らせを聞いたソルが早急にニナの部屋を訪れ、侍医がレイラを診ている間に、二人は部屋の隅に行きひそひそと話し合う。


「ではそのあとは? ずっとカップから目を離しませんでしたか?」

「そ、れは……」


 そう聞かれると、自信はなかった。

 何しろ、自分が本物の聖女じゃないのだと悦に浸りながら暴露していたのだから。

 ソファから立ち上がり、レイラに背を向けた瞬間も……あった。


「もしあなたが目を離したのであれば、その隙に彼女がカップをすり替えたということでしょう」

「!」


 ソルの見立てに、ニナは絶句した。


 するとそこで、ギルバートが部屋に入ってきた。



「レイラ!!」


 知らせを聞いて慌ててやって来たのだろう。

 息も整わないままレイラが横になっている寝台まで歩を進め、苦しんでいる様子のレイラを見て顔を歪ませた。

 そしてその勢いのまま、ギルバートは侍医を怒鳴りつけた。


「一体どういう状況なのだ! 説明せよ!!」


 人目も憚らず吠えたギルバート。

 興奮を抑えきれずに耳や牙が生え、彼も無意識のうちに、その姿は獣と化していた。


 ギルバートに吠えられた侍医は、その姿と怒号に震え上がりながら回答する。


「は、はいっ! 今はまだ原因を探っており、原因が分かり次第薬を処方いたします」

「まだ分かっていないのか!」

「もも、申し訳ございません」


「落ち着いてください団長」


 それは、ギルバートと一緒に駆け付けていたアリシアの声だった。今にも侍医に噛みつきそうなギルバートの背中をポンと叩き、ある提案をする。


「私が代わりに診てもよろしいですか?」


 通常、皇族のレイラを診れるのは侍医だけなので、獣人騎士団所属の医師であるアリシアは本来彼女を診てはいけない。

 しかし今は、事情が事情である。

 ギルバートの圧に萎縮し、まだレイラが倒れた原因も突き止められていない侍医よりは、自分に任せてもらった方が良いと思っての提案だろう。


「ああ……頼む」


 ギルバートは頷き、アリシアに託すことにした。


「妃殿下なら大丈夫ですよ。どうか落ち着いて、いつもの姿に戻ってください」

「! ……すまん」


 レイラを診る許可を得たアリシアが、おそらくギルバートを安心させるためにふふっと微笑みながらそう言うと、言われたギルバートはなんとか精神を落ち着けて人間の姿に戻っていった。


 そしてアリシアは、レイラの診察を始めた。


 脈や熱を計り、呼吸音を確認し、それから周りを見渡して、ある物を視界の隅で捕らえる。

 アリシアの中である可能性が浮かび、確認を行う。



「……妃殿下が倒れたとき、この部屋にはどなたがいたんでしょうか?」


 アリシアがレイラの侍女に尋ねると、侍女はすらすらと答えてくれた。


「あのときは、皇太子妃殿下と皇子妃殿下の二人だけが部屋におりました。私たち侍女は部屋の外に控えていたので、中の様子は分かりません」

「そうですか。……では、皇太子妃殿下」


 今度はニナに質問を投げる。


「皇子妃殿下は、倒れる前に何かを口にしましたか?」


 テーブルにお茶やお菓子が置かれているから、それを口にしたのかという単純な質問だ。

 しかしニナはすぐには答えず、グッと唇を噛む仕草をした。


「皇太子妃殿下? お答えいただけますか?」

「……っ、お茶を飲んでいたわ」


 アリシアから催促され、ニナは渋々そう答える。


「なるほど」


 聞きたかった言葉を得られ、アリシアは侍医が持ってきた医療鞄を勝手に漁り始め、ある物を手に取って言う。


「ではこれで、そのお茶を調べましょう」

「「!」」


 アリシアが取り出したのは、銀針だった。

 銀針を見た皆が、アリシアが言おうとしていることを悟った。


「アリシアまさか、」

「団長。すぐに分かりますからお待ちを」


 結果を見る前に口に出そうとしたギルバートを優しく静止して、アリシアは銀針をお茶に付けた。そしてゆっくりと持ち上げれば、銀針は真っ黒に染まっていく。


 アリシアの予想通りだ。


「妃殿下は、毒を盛られたようですね」


『毒』という決定的な一言を受け、部屋の中は騒然となる。


「それならすぐに解毒を、」

「はい。すみませんが、解毒薬を持ってきてもらえますか?」

「わ、分かりました」


 ギルバートから言われたアリシアは、そのまま侍医に伝えて解毒薬を持って来させることにした。

 侍医が戻ってくるまでの間、アリシアはここに残ってある確認をしたかったからだ。



「……さて、それでは。この状況をご説明いただけますか? 皇太子妃殿下」


 名指しされ、ニナはびくりと肩を竦ませて目を泳がせる。


「状況とは……一体、なんの……」

「先ほどこちらの侍女は、部屋にはあなたと皇子妃殿下しかいなかったと言いました。侍女がいなかったのであれば、そのお茶を淹れたのはこの部屋の主である皇太子妃殿下ではないですか? そして、あなたが淹れたお茶に毒が入っていた。……状況は、あなたが毒を混入したのだと語っています」

「いいえそんな、」

「ありえない!!」


 ニナがアリシアの推理を否定しようとしたそのとき、今度はアルフレッドが部屋に突入してきた。

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