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悪女には死がお似合い~偽りの聖女に嵌められた令嬢は、獣の黒騎士と愛を結ぶ~  作者: 香月深亜
第二章

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44. ニナの悩み相談

 季節は巡り、ネイトがカルダールに戻ってから、気付けばもう半年が経過しようとしていた。


「ようやくここまで来ましたね」

「はい」


 研究室の横に新しく建てた温室の中で、サプレスの原材料となる薬草が大量に育った姿を見て、レイラとアリシアが感慨深げに話している。


「グランヴィル公爵から卸していただいた分も申し分なかったですが、それをさらにここまで増やせたなんて素晴らしいですわ。さすがアリシアさん」

「とんでもない。この薬草自体は、育てるのが大変な品種ではありませんでしたから。それよりも妃殿下がこうして、薬草を量産するための温室を作ってくれたことの方がさすがです」


 ふふ、と二人は笑顔を交わす。


 グランヴィル家とアルノー家との間で取り決めた契約通り、ネイトはカルダールに戻ってすぐにサプレスの原材料となる薬草を卸してくれた。

 そしてそれがアルノー家に届くのと同時期に、レイラは薬草を育てるのに快適な環境を与えられる温室を出来上がらせていた。契約が決まった瞬間に温室の工事計画を進めていたのだ。

 カルダールからの輸出にも頼りはするが、レイラたちはその薬草をさらに増やさなければならなかったからだ。


 将来、国中の獣人を助ける薬の原材料となるかもしれない薬草だ。その量は、多ければ多いほど良い。

 そんな考えの元、段々と数を増やした温室は、今では五棟に及んでいた。


 五棟もの温室をアリシア一人で管理することは到底無理なので、新たに人も雇っている。ついでに、出来た薬草からサプレスを作ってもらう薬師も手配した。

 温室を作るところから人の手配までかかった予算は、余っていた皇子宮のものを使った。


「半年でこれだけ作れたのですから、来たる日までには十分な量が出来そうですね」


 伝染病が流行るまであと五ヶ月くらいだろうか。それだけあれば、もっと作れるはずだ。


 とは言え、いつカルダールがゼインに毒を撒いたとしても、すぐに対応できるだけの量を作っておくに越したことはない。


「ええ。油断はせずに、着実に量を増やしていきましょう」


 レイラは力強く頷いた。


「では、今日はこれで失礼します」

「あら、お昼まで召し上がっていかないのですか?」

「……この後、皇太子妃殿下からお茶に誘われてまして」


 レイラは苦笑いを浮かべながらこの後の予定を話す。


 先日ニナからお茶に誘われた。

 断る理由もないので承諾したものの、乗り気にはなれないお茶会だ。


「それは珍しいですね」

「ええほんと。どんな話をされるのか……」


 眉尻を下げ、げんなりした顔をするレイラ。

 それを見てアリシアは励ましの言葉をかける。


「単なる世間話かもしれませんし、気楽に向かわれればよろしいと思いますよ」

「……そうですね。では行ってきます」

「はい。行ってらっしゃいませ」


 アリシアに見送られながら、レイラは皇子宮へと向かった。



***


「……今日はあの神官はいらっしゃらないんですか?」


 ニナの部屋に通されたレイラは、お茶の準備をしていたニナに尋ねた。

 神官どころか、双方の侍女すらも下がらせて、今この部屋にはニナとレイラの二人だけ。


「ああ、今日は気軽に話したいと思っただけなので呼んでません。だからほら、侍女にも下がってもらいました」


 ほら、と言われても、下がらせたのはニナだったからその真意はレイラには分からない。


「そうですか。てっきりまた皇宮管理のお話かと思って来たのですが、どうやら違うようですね」


 ニナがレイラに話すことと言えば、もっぱら皇宮管理……もっと言えばレイラが奪った予算の話くらいだったのに、今回は違うらしい。


 ニナとは気軽に話すような間柄でもなければ、気軽に話せる話題もないのにどういうつもりなのか。


 とりあえずレイラはにっこりと微笑んでおいた。


「さ、どうぞ。アルフレッド様から美味しいお茶の葉をもらったので淹れてみたんです」


 ニナもにっこりと笑みを浮かべながらレイラの前に淹れたてのお茶を差し出して、自分もソファに腰を下ろす。


「ありがとうございます」


 礼儀として、レイラは一口だけ飲み、ティーカップをテーブルの上に戻した。とりあえず飲んでくれたことを嬉しそうに見て、ニナが話を切り出す。



「……実は最近、アルフレッド様とのことで悩んでいるんです」


 わざわざレイラを呼んで話したかったのはアルフレッドについてなのか。


「半年前の夜会での一件以来、私とあまり会ってくれなくて」

「……はあ」


 レイラはその話に全く興味が持てず、適当に相槌を打った。


 カルダールを侮辱したアルフレッドは皇帝陛下からきついお叱りを受け、一ヶ月の謹慎処分を言い渡されていたが、その処分は既に終わっていて今は自由の身になっているはずだ。

 なのに、ということだろうか。


「私、毎日神殿で祈りを捧げて、皇宮管理も頑張っているんですよ? それなのに全然会ってくれないから労ってももらえないんです。レイラ様はどう思いますか?」

「……」


 自由に動けるはずのアルフレッドがニナに会わない理由なんてレイラは知るよしもないし、そこに対して意見も何もない。

 しかしこの場面ではどう答えるべきか……。


 レイラが返答に困っていると、そのままニナが話を続けた。


「………百歩譲って公務が忙しいと言うなら理解できなくもないんですが。でも、彼は馬鹿だから、そんなに公務は与えられていないし、忙しいはずがないんです」

「!」


 グッとレイラの眉間に皺が寄る。


 アルフレッドの頭の悪さは折り紙つきだ。

 だけど、それをこの場で、曲がりなりにも彼の妻であるニナが言ってはいけない。


 妻は常に夫を立て、夫を支えるべきである。

 夫がこの国の皇太子となれば尚のこと。



「皇太子妃殿下。今の発言は、」

「あーあ。結婚するまでは彼の馬鹿さに助けられたのになあ」

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