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悪女には死がお似合い~偽りの聖女に嵌められた令嬢は、獣の黒騎士と愛を結ぶ~  作者: 香月深亜
第二章

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37. 二つの丸薬

「まさか伝染病の研究に皇族である妃殿下が関わっているとは思いませんでした」


 ネイトがそう言った。

 他の貴族からだと「皇族が研究なんて」という嫌味に取られかねない言葉も、ネイトから出ると単なる感想を口にしただけなのだろうと思える。


「アリシアさんの研究はとても興味深いので、少しお手伝いをさせていただいています」

「それは確かに。アリシアの話は掘れば掘るほど新しいことの発見でワクワクしますよね!」


 恐らく三十代前半くらいだと思うが、興奮して話す姿は無邪気な子供そのもの。新しいおもちゃを手に入れたような様子だ。


「しかし、隣国の公爵様がこちらの国まで来られるなんて大丈夫だったのですか?」

「それははい。さっきも言った通り、うちには俺より優秀な部下が何人もいるので問題ないんです。後はほら、一応貿易を営むものとして、外で流行ってるものを知ったりするのも仕事の内でして」


 ネイトは、グッと親指を立ててレイラに向けた。


(いくら部下が優秀と言えど、そんな自信満々に……)


 ネイトの言うことも分からなくはないが、やはり公爵自身が隣国を訪れるのはどうかしている。でも、彼の無邪気な笑顔や、公爵家を空けることに何の躊躇いもない言い様に、レイラはふふ、と笑いを漏らす。


 レイラの笑顔を見て、ネイトは更に口角を上げて笑う。


「グランヴィル公爵、早速ですがあの話を」

「あ、そうですね!」


 ネイトとレイラが少しは打ち解けられたと感じ、アリシアは話を前に進める。

 そしてアリシアに促されたネイトが、伝染病に関するあることを話し始めた。



「カルダールでは最近、ある二つの丸薬の輸出を禁止する法律が制定されました。一つは人間が飲めば獣人の能力を得られるとされる『エヴォル』。そして二つ目はその逆で、獣人が飲めばその血の効果を抑えられるとする『サプレス』という丸薬です。どちらも効果は一時的ではありますが、それぞれ希少な薬草が原材料となっているので我が国の市場でもあまり出回らない代物です」



──『エヴォル』と『サプレス』。


 レイラはその名前を初めて聞いた。


「実物はこちらです」


 そう言いながら、ネイトは懐から二つの巾着袋を取り出して机の上に置いた。レイラやアリシアに中を見せるように袋の口を開けると、そこにはそれぞれ白と黒の丸薬が数十粒程度入っている。


 見たところ直径五ミリほどの小さな丸薬。

 飲みやすそうな大きさだ。


「輸出禁止では……」

「はは。ゼイン帝国の市場には出せませんが、個人的にアリシアに渡して研究に使ってもらう分にはいいかなーと」


 輸出禁止の法律が出来たと言いながら、目の前に実物を出されてレイラは困惑した。

 しかし聞いてみればネイトはあっけらかんとしている。


「まだ制定されて間もないですし、そこまで厳しく取り締まられてはなかったので大丈夫でした!」

「実は、公爵に無理を言って実物を持って来てもらったんです。ありがとうございました」

「なんのこれしき!」


 そう言ってアリシアがネイトに礼をすれば、レイラの中でもある合点がいく。


 アリシアがなぜ休暇を延長していたのか。


 ネイトがカルダールに戻り二つの丸薬を持ってきてくれるまでニギラ村で待っていたということだろう。

 レイラが「そうだったんですね」と言えば、アリシアは黙って頷き、自分の考えを述べ始める。

 


「……サプレスには獣人の血を抑制する効果があり、主に、人間の姿でいたい獣人に需要があるそうです。そしてこれが、私たちが研究している伝染病に大きく関わっているんです」

「俺は、エヴォルとサプレスの輸出禁止は、将来カルダールがゼイン帝国を討つための布石ではないかと考えています」


 アリシアの言葉を引き継いで、ネイトが発言した。その言葉を聞き、レイラは膝の上に置いていた手で無意識にドレスの裾を強く握った。


「妃殿下も獣人の強さは知っていますよね? 言葉を選ばなければ、獣人は兵器にもなり得ます。エヴォルを使えば、力を持たない人間を兵器にすることができる」

「……ではサプレスは」

「そこが問題です」


 ネイトは苦笑いを浮かべて説明を続けた。


「一番分かりやすい理由としては、他国に渡ればいざというときにこちらの力を半減させられる可能性が生まれるというところでしょうか。ですが、実際のところその奥には、隣国の獣人を減らす動きが隠れているようなのです」

「それはどういう、」

「仕事柄顔が広いので、日々いろんな情報が入ってくるんですがね。カルダールの国立研究所で働いている友人から不穏な話を聞きまして。彼らは王命で、隣国の軍事力を減らすため、獣人にのみ効果がある毒を精製しているとかなんとか」


 アリシアは視線を落とし、レイラは驚きを見せる。


「そして突然、二つの丸薬の輸出禁止。これらの情報を鑑みるに、現在精製しているという毒と二つの丸薬に何か関係があると思いませんか? 例えば、輸出禁止とする丸薬には解毒の効果があるとか」


(! アリシアはこの話を聞いて、カルダールが伝染病を仕掛けたと……)


 軍事力を減らすには獣人の数を減らすのが手っ取り早いのは事実だ。敵国の獣人の数を減らすため、獣人にのみ効果のある致死性の毒をカルダール帝国が精製しているとすれば……。

 きっとそれが後にゼイン帝国にばら撒かれ、獣人のみが罹る伝染病が流行ることになるのだろう。


 もしもネイトの話を信じるなら、事態は非常に深刻である。


(私が処刑される前はカルダールに攻め入られたりはしなかったのに……。伝染病を流行らせて、こっちの獣人の数が減るのを待っていた? それこそ黒騎士と呼ばれているギルを恐れていたとか? そうだとすればギルが亡くなるのを待って……つまり私の処刑後に帝国は攻め入られていたと言うの……?)


 回帰前には伝染病の件でカルダールの名前すら挙がっていなかった。

 勿論、カルダールの公爵がゼイン帝国に来たこともなかった。


 それがどうして、今回は伝染病が流行ってもいないのにこんな展開になっているのか。


 想定外のこの状況に、レイラの脳内は忙しなく働く。

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