Third break
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「そういえば!」
「なんだい?」
「昨日、レベルアップしたんですよ」
「本当かい?」
キャイアさんが疑いの目を僕に向ける。
「ほら、見てください」
僕はステータス画面を開いて、見せる。
「本当だわ。レベルが三になってる」
「でも、いつ上がったんだい?」
「イチローと戦っているときです」
「おかしいわね。レベルはモンスターを倒したときにしか上がらないはずよ」
「もしかして経験値って……」
「経験値がどうかしたのかい?」
「ええと……たぶん倒すのではなく、戦うことでも経験値を得られるんじゃないかなって」
「なるほど。面白いわね」
「もし僕の考えが正しいなら、モンスターを殺さずにレベルを上げられるかも」
「それはシャロールも……」
「本当!?」
シャロールが起きてきた。
「お、おはよう。シャロール」
「ねえ、佐藤! 本当なの!?」
「な、何が?」
「モンスターを殺さずに済むって!」
「まだわからないけど、そうかもね」
「わーい!」
シャロールは自分のことのように喜んだ。
「それはそうと……」
「なんですか?」
「そろそろ旅の準備をした方がいいんじゃないかい?」
「あー……」
「その顔、何も考えてなかったわね」
「あはは……」
「まずは移動手段の確保よ」
「「移動手段?」」
シャロールも僕と一緒に首を傾げた。
「そうよ。なにせあそこまでは徒歩で行くと何日かかかるのよ」
「それに、夜は危険なモンスターが出てくるからあなた達だけで行かせられないわ」
キャイアさんは僕達を心配してくれているのか。
「それで、あたしが馬車を頼んであげるわ」
「馬車ですか」
「そうよ。あたしの知り合いにいるのよ」
「お母さん、すごーい!」
「ただ、彼は自分が認めた人しか馬車に乗せないのよ」
「「え!」」
「だから、今からあいさつに行くわ」
「「……」」
「わかったら、早く食べなさい! 行くわよ!」
――――――――――――――――――――
「ここが彼の家よ」
てっきり家に馬を飼っているのかと思っていたが、普通の家だ。
「おじゃましま~す」
「おお、キャイアか。久しぶりだな」
中にいたおじさんは僕とシャロールをじろりと見た。
「で、お前らは?」
「僕は、佐藤と、申します!」
「わ、私は、シャロールです!」
「あたしの娘とその彼氏よ」
「「え……」」
おじさんも目を丸くしている。
そんな中キャイアさんはいつもと変わらぬ様子で続ける。
「この子達があんたの馬車に乗る資格があるかどうか、見てくれないかい?」
「あ、ああ。わかった」
そう言って、おじさんは僕達に近づいてきて
「これからお前らには三つの質問をする」
と言った。
ゲームでありがちな展開だ。
「まずは一つ目だ」
「目の前に困っている人がいる。お前はまず最初に何をする?」
「えーと、助ける!」
シャロールが答えた。
「もっと具体的に」
「んーと、手伝う!」
「はぁ、まあいいだろう」
おじさんはやれやれと言った顔だ。
「で、あんたは?」
「話を聞きます」
「ほう、そうか」
「では、二つ目」
「その人の子供が今日殺されるらしい。どうする?」
「もちろん、助ける!」
「……」
おじさんは失望している。
「……あんたは?」
「もっと詳しく話を聞きます」
「なるほど」
「では、最後だ」
「その人の子供は罪を犯したので、殺されるらしい。どうする?」
「……え……わかんない」
シャロールが戸惑っている。
そして、おじさんはもうシャロールには期待していなかったという顔をしている。
無言で僕の方を向いた。
「僕は……」
シャロールがもうダメっぽいから、僕の返答で今後が決まりそうだ。
ここでミスをすれば、どうなるかは検討もつかない。
このおじさんに殺されることはなさそうだが、そのせいでやり直しは不可能だ。
かといって、また明日来てね、なんて言いそうな人じゃないし……。
ここは、一か八かだ!
「旅をします」
「ほう」
「僕とシャロールとその人の子供で旅をします」
「なぜだい?」
「広い世界を見て、いろいろな価値観を知り、改めて自分の犯した罪と向き合ってほしいからです」
「……う~む」
おじさんは険しい顔をしている。
だめだったのか?
「シャロール……と言ったか?」
「は、はい」
「お前さん、いい彼氏を持ったな」
「へ?」
「合格だよ」
「やったー!」
「あんたは絶望的にダメだったが、彼氏がこんなにいい奴だとはね。せいぜい彼氏に感謝するこったな」
「佐藤! ありがとう!」
「ど、どういたしまして」
あれでよかったのか。
まったく、このおじさんは人をひやひやさせる。
「……こんなところまでキャイアに似ているとはね」
「え?」
「いや、独り言だよ。それより、シャロール」
「はい?」
「お前さんは彼氏と一緒じゃないと危なっかしすぎる。絶対に彼氏の側を離れるなよ」
「は、はい」
シャロールはそう答えると、顔を赤くした。
「で、佐藤。どこへ行くんだい?」
「ホロソーです」
「なるほど。で、いつ出発するんだい?」
「ええと……」
僕が悩んでいると、おじさんは急かすようにこう言った。
「明日じゃないなら、二、三週間待つことになるよ」
そんなに待っていると、管理人に怒られる。
「じゃあ、明日でお願いします」
「明日だね。それじゃあ、朝の五時にここに来な」
「えー……」
シャロールの叫びはおじさんの鋭い眼光でかすれていった。
「今日はありがとうございました」
「おう。明日はよろしくな」
こうして、僕達はおじさん(名前聞かなかったな)の家を出た。
「お花買いに行こう! この前の花屋さんに!」
「どうして今なんだい? シャロール?」
「お父さんにプレゼントするの!」
「シャロールはお父さん思いだな」
「うん」
「それじゃあ、買っていこうかね。その花屋さんに案内しておくれ」
「こんにちはー!」
「いらしゃいませ」
あれ?
この前の人じゃない。
新しい従業員さんかな?
「あの、ロイアさんはいらっしゃいますか?」
「ええ、今呼んできましょうか」
「はい、お願いします」
そうして、しばらく待つと……。
「あら、お久しぶりですね」
「お久しぶりです」
「今日は何の用で?」
花屋さんに来たんだから、花を買いに来たに決まっている。
「お父さんにお花をプレゼントするの!」
「それはいいことですわね」
「どんな花がいいんでしょうか?」
「あなたは?」
「あたしはシャロールの母だよ」
「ということは、あなた方二人からのプレゼントですね」
「まあ、そうなるわね」
「うん!」
「お父さんに伝えたいメッセージなどはありますか?」
ロイアさんが質問をしながら、花選びを始めた。
「なんだかすごいなー」
「すごい」
テーブルの上には色とりどりの花がまとめられた花束がある。
何もこんなに豪華な花束にしなくてもよかっただろうに。
「喜んでくれるといいな、シャロール」
「うん」
「明日は早いんだからもう寝なさい」
「「はーい」」
僕たちは少し早く布団に入った。




