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「おはよう、シャロール」

「あ、佐藤。おはよう」

「やっと起きたわね」

 僕が寝室を出ると、みんな起きていた。

「早く行こうぜー」

「行こう」

 そうだ。今日はあそこに行くんだった。

「わかった、わかった。ちょっと待ってくれ」

 僕は朝ごはんを急いで食べて、みんなと家を出た。


「ワイルドウルフはここら辺にいるはず……」

「あ! いたわ!」

 目の前を見ると、一匹の……じゃなくて群れているワイルドウルフがいる。

 そういえば、群れでいるって言ってたな。

「あの……大丈夫なんですかね?」

 ちょっと不安だ。

「シャロールがなんとかしてくれるでしょ」

 いや、そうなんだけど……。

 僕は動物園のふれあいコーナーぐらいの気持ちで来たが、実際は命がけだったりする?

「ガウ!」

 群れのリーダー的な一匹がこちらに歩み寄る。

 本当に大丈夫なの?

「シャロール?」

「な、なんとかなるよ」

 もしかして、前回のイチローはたまたまいいやつだったけど、目の前のこいつは……。

「ガウ、ガウ」

 シャロールがそう言うと、目の前のワイルドウルフは驚いた。

 ワイルドウルフの表情なんて知らないが、驚いたように見える。

 そこから、しばらくシャロールは話し始めた。


「ワオーン!」

 シャロールと話していたリーダー格のワイルドウルフが後ろの群れに向かって吠えた。

「もう大丈夫だよ」

「本当か?」

「うん。ほら」

 シャロールがワイルドウルフの頭をなでる。

 ワイルドウルフに全く敵対心はないようで、目をつぶって気持ちよさそうにしている。

「あっちのワイルドウルフも大丈夫なのか?」

「うん。もちろん」

「わーい!」

 ノーブがワイルドウルフに近づいたが襲われることはない。

 本当のようだ。

 ノーブとホープはワイルドウルフに乗って、遊んでいる。

「モンスターにもいい奴がいるのねぇ」

 キャイアさんは不思議そうな顔で、ワイルドウルフを見ている。

「そうだ。シャロール」

「なに?」

「イチローのこと、聞いてみたら?」

「あ~、それいいかも」

「訊いてみる!」

 そう言って、シャロールはワイルドウルフと話し始める。

 一体どんなことを……。

「ワウ!!」

「そうなの!?」

「ガウガウ!」

 何を驚いてるんだ?

「佐藤!」

「どうだった?」

「イチローってね! 有名人なんだって!」

「つまり?」

「イチローは人間に襲われた仲間を助ける正義の戦士なんだって」

「なるほど」

「ワワウ!ワウ?」

「なんだって?」

「この前イチローが人間に敗れて、けがをしたときに助けてくれた女神様はあなたですか? だって」

 ワイルドウルフを助ける人間なんてそうそういないだろうから……。

「シャロール、お前じゃないか?」

「そうだよね? でも……女神って……」

 シャロールが照れている。

「ワウ?」

「ほら、答えてやらないと困ってるぞ」

「ええと……」

 シャロールが説明をし終えると、そのワイルドウルフは仲間に向かって一言遠吠えをあげた。

「ワオーン!」

 そして、シャロールの服を引っ張り始めた。

「え? ワウ?」

「ワワウ」

「どうしたんだ?」

「ついてこい……だって」

「あ〜、これは浦島太郎や舌切り雀のパターンだな」

「? なにそれ?」

「ついていって、損はないんじゃないかってことだよ」

「いいのかな?」

「面白そうじゃない、シャロール」

「行こう、行こうー!」

「私も行きたい」

 どうやらみんな賛成のようだ。

「まあ、いっか」

 シャロールもそう言って、歩き出した。


 ワイルドウルフ達は、ちょっとした林の中へ入っていく。

 まさに獣道を通った先には、洞穴があった。

 ここが彼らの家か?

 入り口はものすごく狭く、入るのに苦労する。

 まぁ、人間がここに出入りすることなんて滅多にないだろう。

 しかし、中は意外にも広く、頭が天井にぶつからないほどだ。 

 中を進んで行くと、別のワイルドウルフの群れが……。

「ガルルルル」

 やばいんじゃない?

「あ、あれイチローだよ!」

「イチロー!」

 シャロールはワイルドウルフの群れに入っていった。

「お、おい! シャロール!」

「大丈夫かい?」

「あはは、イチロー! 元気にしてた?」

 僕たちの心配をよそに、シャロールはワイルドウルフとじゃれている。

「もう仲良しね~」

「そうですね」

「ワワウ、ワウワウ」

「ワウ? ガウガウ」

「ワオワオ」

「なんて?」

「えぇ……恥ずかしいよぉ」

 シャロールが顔を赤くする。

「気になるじゃない、シャロール」

「……う~ん」

「イチローがね、ここら辺のワイルドウルフに女神シャロールの伝説を話したって言ってるの」

「もう伝説になってるのか」

「すごいわ、さすがあたしの娘ね」

「も~からかわないで!」

 からかっているわけではないのだが……。

「ガウ! ガウ!」

 イチローが僕を見て、吠えた。

「僕に何か用か?」

「お前に女神様をお守りする実力があるか見極めてやるって」

「ガウ!」

「ついてこい、だってさ」

「えっと……」

「女神様をお守りするには強くなくっちゃね、佐藤さん」

「からかわないでくださいよ!」

 そんな会話をしながら、僕たちはさらに洞窟の奥に進んだ。


「こんな場所が……」

 洞窟の奥には、広く開けた場所があった。

 ここなら、人間でも動き回れる。

「ガオガウ」

「これより訓練を始める」

「ワオワオ」

「早く装備をつけろだって」

 僕は言われた通り、剣と防具を身に着ける。

「これ、本気でやっていいのか?」

「そうだね……聞いてみる」

「ガオウウググ?」

「ガオ!」

「真面目にやれ! だって」

「わかった、わかった」

「ワオーン!」

「はじ……」

「それはわかったよ!」

 僕はそう言って、イチローに向かって行った。

「そりゃあ!」

 しかし、僕の剣は空を切る。

 なぜならイチローが僕の目にも留まらぬ速さで避けたからだ。

「ガウ!」


 ドン!


 背後に回ったイチローが僕に突進した。

 てっきり僕は鎧に牙を立てるかと思ったが、さすがにそれは見くびりすぎたようだ。

「おっとっと」

 バランスを崩した僕にイチローがもう一度突進をくらわせようと向かってきている。

「そうは問屋が……え!?」

 突進をしてくると思って、僕は身構えたのだが……。

 イチローは僕の近くに来ると、突進せずに僕の周りを回り始めた。

 一体何を企んで……。

「うわ!」

 目をまわしかけている僕は、横からとびかかったイチローにバランスを崩され、倒されてしまった。

「グルルルル」

 イチローは倒れた僕の体に飛び乗った。

「こんなものか? だって」

「あらあら」

 くそ~、悔しいが完敗だ。

「もう一回!」

「ワンワウ」

 シャロールがイチローに向かって何かを言った。

「ガガウ、ガウ」

 そう言って、イチローは僕の上からどいて、最初の位置に戻った。

「いいだろうって」

 よーし、次こそは。


 結局、イチローには一撃も入れられなかった。

「やっぱり強いな~」

「ガウオウガ!」

「なんて?」

「そんな実力ではシャロール様を守れんぞって」

「く~、今度は負けないからな!」

 僕はイチローを見て、こう宣言した。

「ワオウ!」

「いつ……」

「いつでも受けてたつ……だろ?」

「わかるの?」

「勘だよ」


 僕たちは家への帰り道で今日を振り返る。

「今日は楽しかったわね~」

「オオカミと遊ぶの楽しい~」

「楽しい」

「イチローも元気でよかった」

「そうだな」

「が! あんたたち、家に入る前に一つお知らせがあるわ」

「「「「?」」」」

 四人同時に首をかしげた。

「帰ったらすぐにシャワーを浴びるのよ。私たち、とてつもなく獣臭いから」

 僕たちは自分のにおいをかいでみた。

「本当だ!」

「くさい!」

「くっさ!」

「くさいね」

 それぞれが悲鳴を上げる。

 キャイアさんの言うように、すぐにシャワーを浴びた方がいいようだ。


「ホントに臭くない?」

「ああ、大丈夫だよ」

 シャロールからワイルドウルフのにおいはもうしない。

 その代わり、今まで嗅いだことのない不思議ないい匂いがする。

 これが女の子のにおいってやつかな?

「もう! いつまで嗅いでるの!」

 シャロールが僕から離れる。

「佐藤の変態!」

「あはは、つい……」

 確かに今のはシャロールに引かれても仕方ない。

「さ、今日はもう寝よう」

「うん、そうだね」

 僕たちは布団に入ったが……。

「嗅がないでね!」

「嗅がないって言ってるだろ、早く寝てくれ」

「む~」

 シャロール、やたらこだわるな。

 何かあるのか?

 僕はそう思いながら、眠りについた。

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