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Fifth day

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「今更になるんだが、ギルドの依頼について説明してもいいかい」

「はい」

 改まってなんだろう。

「ギルドにある依頼は大まかに分けて三つあることは知ってるかい?」

「はい。モンスター討伐、素材調達にその他ですよね」

 ここに来たばかりのころ、ヘルプで見た。

「その通りよ。そして、この町のモンスター討伐は四つに分けられるわ」

「スライム、ワイルドウルフ、イビルバットと……?」

「それは後のお楽しみだよ」

「お楽しみ……」

「そして、素材調達は二つに分けられるわ」

「そうなんですか」

「薬師がポーションの材料となるヒールグラスの採取依頼をする場合と……」

「他には、学者が鉱石の研究をするために採取依頼をすることもあるの」

「へー」

「最後にその他よ」

「荷物運びの他にもあるんですか?」

「それともう一つ、臨時労働ってのがあってね」

「りんじろーどー?」

「おや、シャロール。おはよう」

「その臨時労働って何?」

「これは簡単に言うとお店の手伝いをすることだよ」

「仕事なの?」

「ええと、それを説明をする前に冒険者についての説明をするわ」

「冒険者は職業の一つなんだよ。それで、冒険者としての仕事に集中してもらうために兼業、つまり他の仕事をすることが許されていないんだよ」

「え、じゃあ……」

「ただし、この臨時労働は例外なのよ。一時的にお店の手伝いをするだけ」

「報酬はもらえるんですか?」

「ええ。ただ、あくまでお手伝いだから多くはないわ」

 まあ、アルバイトみたいなものかな。

「で、一番の問題は……」

「何ですか?」

「管理人の言う依頼の達成が可能かどうかよ」

 あれ? 

 この前大丈夫って言ってなかったっけ……。

「モンスター討伐は常設依頼が四つあるから、それを達成すればいいと思うわ」

「素材調達も2つ共大抵いつも依頼されているから、それを受ければいいわ」

「けれど、臨時労働や荷物運びは依頼主がいなければそもそも依頼を受けられない可能性もあるのよ」

「まずいですね」

 昨日は偶然大丈夫だったのか。

 それとも、ゲームだからご都合主義にできているのか?

「そうなのよ。早くそれに気づけばよかったのだけれど、すまないね」

「いえ、いいんです。探したらあるかもしれないじゃないですか」

「そうだよ、お母さん」

「二人共、ありがとうね」

「じゃ、臨時労働探しに行くか。シャロール」

「うん」

「あ、ノーブとホープは今日もお留守番よ。何かあったらいけないから」

「「えー!!」」


「すみません、現在臨時労働はございません」

「そうですか……」

 僕はがっくり肩を落とした。

 ゲームだからってそんなに都合良くはいかないか。

 まずいな。

 今から他の依頼に行くか?

「あの……では他の……」

「あら、あなた達は昨日の……」

 振り向くとそこにはロイルさんが立っていた。

「そうだ。あなた達、今から暇ですの?」

「はい」

「では、臨時労働に私のところに来ませんか?」

「え、いいんですか!」

 ロイルさんが天使に見えた。

「もちろん。ちょうど今店員が足りてないんですの」

「彼らに臨時労働ということで、私のお店に来てもらってもよろしいですか? 職員さん」

「はい。では、こちらの臨時労働依頼書にサインを」

「わかりましたわ」

 こうして僕たちは幸運にも臨時労働を見つけることができた。


「私はお花の世話をしますので、あなた達は接客をお願いしますわ」

「「はい!」」

 僕たちは即席のカウンターに立って、お客さんを待つ。

 その間、ロイルさんは奥の部屋で花の世話をするようだ。

 しばらく待つと、ドアを開けてお客さんが入ってきた。

「「いらっしゃいませー!」」

 最初のお客さんは背が高い男の人だ。

「どんなお花をお探しですかー」

「妻に誕生日プレゼントを送りたいのですが……」

「わかりましたー」

 シャロールはにっこり営業スマイルを浮かべてロイルさんを呼びに行った。

 取り残された僕と彼の間に沈黙が流れる。

「どうやら君たちは花屋さんの店員ではないようだね?」

「はい、そうです」

「まだ若いのに、仕事を頑張っているね」

「ありがとうございます」

「私も若いころはいろいろなことに挑戦したものだよ」

「そうですか」

「お金を貯めた後は、各地に旅をして……」

「お待たせしました、お客様」

 ロイルさんがこれまた営業スマイルで現れた。

「奥さんにどのような気持ちを伝えたいのですか?」

「う~む。日頃の感謝、それと私の変わらぬ愛情を伝いたいね」

「それでしたら……」

 なかなか見ることができない花屋の仕事は見ているだけでも楽しかった。


「あら、もう暗くなってきたわね」

「あなた達、今日はもうおしまいよ」

「お、終わった……」

「案外疲れたね、シャロール」

「ちょっと待っていてください。報酬を用意しますわ」

「「はーい」」

 ロイルさんが戻ってくるまで、僕達は話しながら待つ。

「冒険者って大変だよね」

「そうだね、佐藤」

「冒険者になるって相当な覚悟がいるんじゃないかな」

「そう……だね」

「そういえば、シャロールはどうして冒険者に?」

「え……」

 シャロールがうつむいた。

 何か言えないことでもあるのだろうか。

「ごめん、言いたくないなら言わなくてもいいよ、シャロール」

「……」

「ああ言ったけど、僕はなんとなく冒険者になったんだよね」

「……」

「まあ、そのおかげでシャロールと出会えたし、よかったんじゃないかな」

「私は……うぅ」

 シャロールが涙ぐみ始めた。

 一体なぜ……。

 もしかして……シャロールは僕を、もしくは僕みたいな初心者をだますために冒険者になったんじゃないか?

 とすると、この質問は地雷だったか……。

「ごめん、シャロールの気持ちも知らないでこんなこと訊いて」

「いいの……私が悪いから……」

「あらあら、どうしてシャロールちゃんが泣いているんですの?」

 戻ってきたロイルさんは蔑むような目で僕を見た。

「女の子を泣かせるなんて最低ですわね、あなた」

「ご、誤解です!」

「何はともあれ、今日は解散ですわ。これが報酬です」

「ありがとうございます」

「それより、シャロールちゃんにはちゃんと謝るんですよ」

「はい……」

 ロイルさんにとんでもない誤解を与えてしまった後、僕たちは店を出た。


「シャロール、あんまり気にしなくていいのよ」

「僕は責めてないんだよ、シャロール」

「どうして許してくれるの?」

 シャロールがうるんだ瞳で僕の顔をじっと見つめた。

「ど、どうしてって……」

 考えたことなかったな……。

「友達だから……かな?」

「友達……なんだ」

「佐藤さん……?」

 ん?

 なんだか微妙な空気が流れている。

 選択をミスったか?

「なー、寝よーぜー」

「眠い」

 ノーブとホープがそんな空気をぶち壊した。

「そうね、寝ましょうか」

 僕たちはすっきりしないまま床につく。


「佐藤、眠れないの」

 布団に入ってからしばらく経っていたので、シャロールはもう寝ていると思っていた。

「そ、そうなの?」

 僕は急に話しかけられて動揺し、変な返事をしてしまった。

「手、つないでいい?」

「え、う、うん」

 そんなことを言うなんて、シャロールは甘えん坊だなー、まだまだ子供……。

 いや、これって恋人がよくやる奴では?

 手をつなぐなんて、今までやったことがないからわからない。

 でも、漫画とかだと恋人がやってない?

 まさか、さっき友達って言って変な空気になったのって……。

 シャロールの柔らかい手が僕の手に触れる。

 暖かく、緊張のためか震えている。

 そんな手を僕の手と絡める。

「佐藤……」

「シャロール……」

 僕が彼女の名を呼ぶと、彼女は握る手に力を込めた。

 そのまま二人は何も言わない、言えないまま、夜が過ぎていった。

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