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Fifth mystery Ⅰ

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 昨日は一睡もできなかった。

 奴とあんな約束をしてしまい、決闘をすることになるとは。

 いくら装備を整えても、勝てるかはわからない。

 そんな不安が僕の心を満たしていた……わけではない。

 もっと重要な問題がある。

 なぜ僕はこの一つのベッドで彼女達と寝なければならないんだ。

 それに、僕が彼女達を襲わないとは言い切れないじゃないか。

 それなのに、なぜ僕が泊ることを許してくれたんだ?

 彼女達は僕を信用しているのか?

 そんなことを考えていると寝室のドアが開いた。


「フワ~」


 シャロールがあくびをしながら出てきた。


「あ、おはようございます。起きてたんですね」


「おはよう、目が覚めちゃってね」


 本当はベッドで眠れなくて、寝室を出て椅子に座ってうとうとしていたら朝になったんだけど。


「朝ごはんは……このパン食べます?」


 彼女は台所から硬そうなパンを持ってきた。

 おいしそうには見えないが、ぜいたくは言ってられない。

 僕はうなずいて、手を差し出した。


「はい、どうぞ」


「ありがとう」


 僕はパンを食べながら彼女に尋ねる。


「今日はどこに行くの?」


「どこって、武器屋に行くんじゃないんですか?」


「いや、あの~どんな武器屋に行くのかな~って思って」


「ああ、今から行くのは私の知り合いがやってるところなんです。そこそこの装備は整えられますし、私に割引をしてくれるんです」


 シャロールの顔が自慢げだ。

 しかし、何かを思い出したようでこう言った。


「そういえば、前から気になっていたんですけど……」


「その装備どこで手に入れたんですか? 特にそのきれいなネックレス」


 彼女が僕の首にかかっているネックレスを見ている。


「ああ、これは……」


 説明したいのはやまやまなのだが、どこから話したらいいか……。


「ちょっと長くなるから、武器屋までの道中で話していい?」


 僕は立ち上がった。


「いいですよ。でも、その前にお母さん起こしてきますね」


 彼女は寝室に入っていった。


「お母さーん! 起きてー!」


 シャロールの大声が聞こえる。


「私、今から出かけてくるからー!」


「むにゃむにゃ、女の子が一人で外に行くのは危ないわよ……」


「大丈夫よ! 今日は男の人がいるから」


「ん? じゃあ、デートかい? むにゃ……」


「デ、デデデ、デートじゃないもん!?」


「お母さんのばかー!」


 そう言って、シャロールは勢いよく部屋を飛び出してきた。


「さ、さあ行きましょう」


 シャロールは動揺しているようで、今までは気づかなかった腰にあるしっぽが激しく動いている。


「うん、行こうか」


 僕達は家を出た。


――――――――――――――――――――


「武器屋は町のはずれにあるので、ちょっと遠いんですよ」


 彼女が僕の前を歩き、道案内してくれている。これで迷う心配はない。


「さあ、早く話してくださいよ」


「ああ、そうだった」


「最初に……信じられないかもしれないけど、僕は異世界から来たんだよ」


 シャロールは黙って聞いている。


「いつの間にかこの世界に来ていたんだ」


 シャロールが突然立ち止まった。そして、振り向いた。


「じゃ、じゃあ、佐藤さんって勇者なの!?」


 シャロールが興奮して尋ねた。


「勇者かどうかはわからないけど……」


「ううん、きっと勇者なんだよ。だって、伝説でもそうなんだから」


「伝説って?」


「知らないんですか? 教えてあげますよ」


 シャロールは再び歩き始めた。そして、伝説を話し出す。


「昔、世界は魔王に支配されていた。しかし、異世界より召喚されし勇者が****により魔王を封印した。これがこの国に伝わる伝説なんです」


「だから、佐藤さんはきっと勇者ですよ」


「そんな……僕は普通の人だよ。勇者なんてほど遠い……」


「そんなことありません! 私をかばってくれましたし、お母さんの病気を治してくれたじゃないですか!」


「少なくとも私にとっては勇者ですよ」


 彼女の後ろ姿しか見えない僕は、今彼女がどんな顔をしているかが気になった。なぜなら彼女の声が震えているからだ。


「ありがとう、シャロールちゃん」


 彼女は僕の言葉に返事をせずに、黙って歩き続けている。


「大丈夫? シャロールちゃ……」


「あの」


「前から思っていたんですけど、その『ちゃん』ってつけるのやめてくれませんか? 私子供じゃないんで」


「ごめん、ごめん。シャロールちゃんが子供って言いたいわけではなかったんだけど」


「また言ってるー!」


「あはは……。じゃあ、僕からもお願いしていいかい? 僕と話すときはため口で話してよ、シャロール」


「そ、そんな……。勇者の佐藤さん相手に……」


「僕がいいって言うんだからそれでいいよ」


「わ、わかったよ。佐藤……」


 お互いしばらく沈黙が続く。

 先ほどのやり取りで照れくさくなってしまったからか、緊張しているからか。

 僕は何か話そうと思い、口を開いた。


「あ、あのさ。シャロールのスキルはなんなの?」


「知りたいの?」


「ああ。」


「まずは勇者であるあなたのスキルを教えてよ、佐藤」


 教えるのはいいが、納得してくれるかな……。


「僕のスキルは……『なし』だよ」


「からかわないで! ギルドで鑑定したでしょ」


「だから、それが『なし』なんだよ」


 彼女は振り向いて、僕の顔をじっと見た。


「本当に?」


「本当」


「ふーん」


 彼女はまた前を向いて歩き出した。


「佐藤って、不思議な人ね」


「そうなの?」


「うん、そうだよ。だって、スキルは誰でも持っているもの。ましてや、勇者ならすっごーいスキルをね」


「僕の『なし』がそのすっごーいスキルかもよ?」


 実際は僕もよくわからない。


「ふふふ」


 彼女は楽しそうに笑った。


「そういうシャロールは何かすっごーいスキルでも持ってるの?」


「私は……」


 彼女は言いよどんだ。


「言わなきゃダメ?」


 彼女は黙ってしまった。

 僕も無理強いするのは気の毒だと思い、話しかけなかった。

 いったい彼女のスキルはなんなのだろうか。


「……『話術』なんだ」


 彼女がぽつりとつぶやいた。

 彼女の言葉は暗く沈んでいる。


「へー、なかなかすごそうなスキルじゃん」


「そんなことない! だって、戦うこともできなければ味方のサポートもできないの。そもそもモンスターと話せるわけないし……」


「私のスキル……それに私も冒険者に向いてないの」


 だから彼女は自分のスキルについて話したがらなかったのか。


「冒険者に向いていないかはやってみないとわからないんじゃない?」


 僕は彼女を励ます。


「今度見せてよ。そのスキル」


 ついでに僕のスキルの練習にも付き合ってほしいな、なんて思った。


「ふふっ」


 シャロールは小さく笑った。


「何がおかしいんだよ、シャロール」


「佐藤ってやっぱり変な人ね」


「変って、どういう……」


「ほら、着いたよ」


 彼女はすぐ目の前にあるお店を指さした。

 そのお店はそこら辺にある家となんら変わらない中世ヨーロッパの建物みたいな外見だった。


「入りましょう」


 僕達は入口の扉を開き中に入る。 


「いらっしゃいませー!」


 カウンターに立っているおじさんが大きな声で声をかける。


「おっ、シャロールちゃん。久しぶりー!」


「お久しぶりです」


「それと、そっちは……」


「シャロールちゃんの彼氏かい?」


「な、違います!! おじさんまでそんなこと言って!!」


「ははは、冗談だよ」


「初めまして、佐藤と申します」


「おう、よろしく」


 そして、おじさんは僕のところまで歩いてくると耳元でこう言った。


「……シャロールちゃんは彼女にするにはもってこいの優しい女の子だぜ。チャンスは逃すなよ、兄ちゃん」


 おじさんは僕の肩を力強くたたいた。


「あはは……」


 僕は返答に困り、笑ってごまかした。

 シャロールはきょとんとしている。

 しかし、思い出したようにこう尋ねた。


「おじさん、何か強い装備を紹介して!」


「強い装備ね~」


 おじさんは少し困った顔をしている。


「おじさんだって、商売をしてるんだよ。そう簡単には強い装備を売れないのよ」


「つまり、予算はどれくらいなんだい?」 


「えーと、これくらい!」


 シャロールが財布の中身を見せる。

 おじさんはまだ顔が同じ表情だ。


「う~ん。すまない、シャロールちゃん。これじゃあ、そこの彼が着けている装備しか買えないよ」


 シャロールは見るからに落ち込んだ顔を見せた。

 僕もお金を持っていれば、よかったんだけど……。


 お金……。

 そうだ!

 ギルドに冒険者登録する前の日におじいさんのお手伝いをして、お金をもらったじゃないか!


 えーと、どれくらいもらったんだっけ?

 ステータスを確認してみる。


「すみません。1000ピローで何が買えますか?」


 僕はおじさんに尋ねた。

 するとおじさんはびっくりしてこう言った。


「1000!? そんなにあったらこの店で最高の装備を買ってもおつりが出るぜ、兄ちゃん」


「あったらだがな。冷やかしはやめてくれよ、おじさん怒るぜ」


 顔を見るに本当のようだ。

 しかし、実際に僕はそれだけのお金を持っている。

 アイテム欄から取り出しておじさんに見せる。

 おじさんは目を輝かしながら僕に近づいてきた。


「おいおい、まじかよ。あんた貴族のぼっちゃんか?」


「いいえ、違います。この前人助けをしたら貰ったんです」


「じゃあ、そいつはとんでもねー金持ちだったんだな」


「佐藤、すっごーい!」


 シャロールが隣で喜んでいる。


「じゃあ、この店に置いている一番いい装備を買うのかい?」


「えっと……」


 僕は横にいるシャロールをチラッと見る。


「シャロールの分も装備が欲しいので、このお金で二人分のできるだけいい装備をください」


 おじさんは一瞬意外そうな顔をした後、にやりと笑ってカウンターの奥に入っていった。


「どうして私の分まで頼んだんですか?」


 シャロールがわけがわからないといった顔で僕に問いかけた。


「なんとなくだよ。シャロールと一緒にモンスターを倒しに行ったときに二人の装備がばらばらだと困るかもなーと思って」


 シャロールはなぜか顔を赤くした。


「い、一緒に行くの? 私たち」


「ああ、友達だからあたりまえだろ」


「あ、あ~」


 シャロールは見るからに落ち込み始めた。

 なぜか気まずい雰囲気が漂う。

 そんな気まずい時間はおじさんが戻ってくるまで続いた。

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