Third revenge
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「佐藤君にこれを預けるよ」
ヒュイさんがいつも使っていた剣を僕に手渡した。
「これ……大事なものなんじゃ……?」
「もしピンチに陥ったら、これを見て、私のことを思い出してくれ」
「私はいつだって君達を応援しているよ」
「ヒュイさん……」
「……もっとも、君にはシャロールがいるから大丈夫だと思うけどね」
「昨晩だって……」
「わー! わー!」
シャロールが突然大声を出して、ヒュイさんの言葉を遮る。
「早く行こうよ、佐藤!」
「……そうだな」
「それじゃあ、行ってきます!」
「行ってらっしゃい」
「必ず帰ってくるんだよ」
なんだか死亡フラグみたいなこと言われたな……。
大丈夫、大丈夫。
死んでもやり直せるから。
――――――――――――――――――――
いつものことながら、馬車の中では暇を持て余す。
「シャロールは……僕が魔王を倒した後は何をするつもりなんだ?」
「う〜ん、わかんない」
そうだよな。
僕もよくわからない。
「もし……僕がこの世界に残ったら、シャロールはどうする?」
我ながら、変なことを訊いたと思う。
そんなのシャロールの自由なのに、どうして……。
「私は佐藤の側にずっといたい」
え、それって……。
「プロポーズ?」
「……」
シャロールはうつむいたまま無言で、顔を赤く染めていく。
「結婚……考えたこともなかったな」
「……私も」
「なんか……恥ずかしいな」
「……うん」
僕はおもむろにシャロールの手を握る。
「佐藤?」
「僕達は、まだこのままの方がお似合いかもしれない」
「え〜、なんで〜?」
他愛もない会話がしばらく続いた。
――――――――――――――――――――
「二人共、おかえり」
キャイアさんは暖かく迎えてくれた。
「ただいま!」
「今日は何をするんだい?」
やることといえば……。
「これからジェクオルを……」
「佐藤さんならそう言うと思ったわ」
え?
「ダメよ」
「ええ!?」
どうして!?
「あなたはいつも真面目で、気負いすぎてるのよ。たまには、休憩でもしなさい」
「休憩なら……」
「つべこべ言わない!」
「今夜は出かける用事があるから、あなたもついてきなさい」
「……」
なんだか勝手に決められてしまった。
ま、いっか。
「ただ、まだ時間があるわ」
「シャロールと散歩でもしてきなさい」
散歩か……。
「わかりました」
「行こっか、シャロール」
「うん!」
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あてもなくブラブラとさまよっていると、ギルド裏の広場に着いた。
「僕達はここで出会ったんだよな」
「そうだね」
最初にシャロールが話しかけてきて……。
「あの後、殺されるとは思わなかったよ」
「……」
返事がない。
どうしてシャロールは黙っているんだ?
なにか……。
「あ、ごめん!」
僕は殺されてないじゃないか。
時間が戻っているから。
前もこれでシャロールを泣かしてしまったんだった。
申し訳ないことをした。
「ホントに忘れ……」
「いいよ」
シャロール?
「佐藤は私に騙されたんでしょ?」
「……」
「あのときの私は、お母さんのことで頭がいっぱいだったの。佐藤のことなんて、何も考えてなかった」
「だから、もし佐藤が私の言うとおりに動いていたら、きっと殺されてたはず」
「それでも、佐藤はこんな私を助けてくれた……嬉しかったよ」
嬉しかった……か。
「僕さ、殺される前にシャロールが言った言葉を覚えてるんだ」
「なに?」
シャロールは興味深そうに僕の顔を見ながら、次の言葉を待っている。
「ごめんなさいって言ってた」
「……」
「だから、僕はシャロールがほっとけなくなったんだ」
「そっか……」
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「さあ、出発よ!」
家に戻ると、キャイアさんがそう言った。
「「わーい!」」
ノーブとホープも大喜びだ。
「どこに行くんですか?」
「ノーチル果樹園よ」
リンゴでも食べるのか?
――――――――――――――――――――
「佐藤君の勝利を祈って、バーベキューじゃ!」
「ええ!?」
果樹園の目の前では火が焚かれて準備万端のようだ。
「佐藤君、乾杯の合図を!」
「か、乾杯ー!」
でも、こういうのって終わってからじゃない?
若干疑問に思いながらも美味しいお肉をたらふく食べた。
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「今日は外で寝てみるのはどうだい?」
「外?」
「でも、危ないんじゃ……」
「果樹園の周りは、モンスターが近寄らないように特殊な魔法がかけられているので大丈夫ですよ」
オリーブさんが説明してくれた。
「そうですか……」
「はい、これが二人分の寝袋よ」
「みんなは外で……」
「邪魔しちゃ悪いでしょ」
キャイアさんはそう言って、建物に入っていった。
「それじゃあ、寝るか」
「うん……」
なんか……ドキドキする。
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「わー! 星がきれいー!」
「こんなにきれいなんだな」
思えば、ここに来てから夜空を見上げたことなんか一度もなかった。
キラキラと空一面に瞬く無数の星を二人で寝転がって見渡す。
「手、つなごう?」
「わかった」
シャロールが寝袋から出した手を、僕は優しく、だけど力強くぎゅっと握る。
こういうロマンチックなときこそ、チャンスかもしれない。
よし、言おう。
「死亡フラグなんだが言ってもいいか?」
「なに? 死亡フラグって?」
「言うと死ぬかもしれない言葉」
「じゃあ、言わないで」
「いいや、言うね」
だって、言いたいから。
「これが終わったら、結婚しよう」
「シャロール」
「佐藤……」
「ダメ……かな?」
「そんなことないよ!」
「絶対……しようね?」
「……うん」
星空の下、僕の初めてのプロポーズは成功した。




