第1話
「お兄ちゃん、起きてるのー?」
下から秋穂が階段をのぼる足音が聞こえてきた。
俺はとっさにベッドの中にもぐりこんだ。
ガチャッ
「あれ、お兄ちゃん寝てるの?おかしいな。確かに声がしたはずなんだけど。」
秋穂がベッドに近づいてくる。
バサッ
毛布をはぎ取った。ついに見つかってしまった。秋穂はしばらく茫然と立ち尽くしていた。
いくら年頃とはいえあまりモテない兄の部屋にあり得ないほどの美少女が兄の服をきてベッドで寝ていたらだれでもこんな反応をするだろう。
「あ、あの…これは、そのぉ」
勇気を振りしぼって話しかけたが、すぐに秋穂の言葉に遮られてしまった。
「ご、ごめんなさいっっ勝手に人の部屋にはいっちゃいけないですよね。まさかこんなかわいい人がいるとは思わずに、すいませんっっ」
急いで出て行こうとする秋穂を呼びとめた。
「あ、待って」
「な、何でしょうか?」
「秋穂、信じられないかもしれないけど、俺は優だ。なぜだかわからないけど、女になっちまったみたいなんだ。」
「お兄ちゃん?ウソでしょ?」
「いや、本当なんだ。証拠ならあるよ。秋穂がまだ小さい時だった。あのときのお前の将来の夢は…」
「あぁーー!!!それ以上言わないで!」
「じゃあ信じる?」
「信じるよ。」
それにしても、案外簡単に信じてもらえたな。あれはそんなに恥ずかしいのか。まあいいか。
などと考えてると
「それにしても、お兄ちゃんのしゃべり方おかしいよ?なんか全然合ってない。」
「合ってないって言われても…」
「やっぱり女言葉で話さないと、こんなにかわいい女の子が“俺”とか言ってたら絶対に変だって」
「じゃあどうすればいいのさ」
俺は投げやりな感じで聞いた。
「今から女の子として生活すること。まずは服と下着ね。とりあえず学校には行きましょう。」
「制服ないからいけないんじゃ?」
「私2着持ってるから大丈夫!」
これで俺の学校行きは確定してしまった。
「でも先生にはなんて言うんだ…言うの?」
話している途中で秋穂が睨んできた。きっとこれからもこんな感じで“女の子”にされていくのかとおもうと悲しくなってくる。
下着の付け方も半泣きになりながら教わり、腕をがっちりつかまれて学校へ連れていかれた。スカートというのは実に足がスースーする。しかも視線が痛い。周りの人がみんなこっちを見ているような気がする。
学校へ着くとまず校長室へ行った。浜崎高校の校長は神崎雄一郎という。準の伯父さんだ。なので小さい頃からよく知っている。だから、校長室の扉を開けるのを躊躇った。しかし、いっしょについてきた秋穂が、思いっきり扉を開けて中に入って行った。もちろん腕をつかまれている俺も引きずり込まれた。これまでのことは秋穂がすべて校長に説明してくれたので、あまり話がこじれずに済んだ。
「いや〜しかし、とてもかわいいな。」
「確かに、かわいいですね。」
担任の高岡先生もいる。
雄一郎おじさんがこちらをじーっと見ている。何かとても嫌な気分だ。
「転校生にするのは少し無理があるから、女子として登録しなおすからそれでいいだろう。」
個人的には全然よくない。
(その体で男を主張したって無理な話だから諦めなさい)
秋穂の目がそんな事を言っているような気がしたので「はい。」と答えるしかなかった。
「じゃあそろそろHRがはじまるから教室に行きなさい。高岡先生、あとはお願いします。」
「わかりました。宮沢、いくぞ。」
[[はい]]
「じゃあ、秋穂は先に教室に入って席に着いとけ。優はここでまっていろ。」
先生は秋穂を教室に入れて、自分も入って行った。
「みんな席に着けー。今日はちょっとした知らせがある。」
「知らせって何ですか?」
口々にクラスのみんなが疑問を口にする。
「転校生っぽいのがくるぞ。」
ぽいってなんですかその表現。外で聞いててあきれた。これは入りずらい。
「入ってきていいぞ。」
先生がそう言ったので、俺はみんなが待っている教室へと足を踏み入れた。すると、みんなが注目するので顔から火が出るほど恥ずかしかった。
[[かわいい…]]
(うわ、ますます言い出しづらくなってきたぞこの雰囲気)
そう考えているうちに先生が言った。
「自己紹介をしてください。」
はぁ…なんか嫌だけどしょうがないか。秋穂も若干睨んでるし。
「宮沢 優です。えっと、いろいろあって話すことがたくさんあるんですけどっとりあえず話を聞いて下さいっ」
教室がしーんと静まり返ったとおもったら、クラスメイト全員の[[えぇーー!!]]という声が響いた。