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もう良いよー

作者: 有江静録

読んでいただきありがとうございます。

病院やホラー要素あるので登場人物に名前はつけませんでした。



夏も終わりの昼下がり、私は病室のベッド周りを確認してリンゴとコップを持ちながら入院した息子に伝えた。


「それじゃあ、お母さん、コップ洗ってリンゴ剥いて来るから。絵を描いててね」

「うん!!」


女の子っぽい髪の長い子を描いてるようだ。

病院の遊び場にあるアニメのキャラクターだろうか。


熱中してる息子を確認してドアを閉じた。


そうだ、リンゴ剥くならウサギさんとか凝ってみよう。喜ぶ顔を思い出しながら丁寧にリンゴを切っていった。



病室へ戻ると息子は絵を描くのを辞めていた。


「どうしたの?」


何故か雰囲気が違うように感じた。

さっきまでの暖かな空気ではない。

寒い。

思わずエアコンの吹き出し口を見上げてしまう。

温度は26.5度に設定されている。


「かくれんぼ、ちてるの」

息子は小さな手のひらで両目を覆っていた。


「そう、かくれんぼしてるのね。隠れてるのはお友だち?」

小さな息子に説明させるのは難しい。言葉使いもまだまだだ。

息子以外に誰もいない部屋でかくれんぼとは。

一人遊びなんだろうが、目を隠したままだと私も付き合うのも難儀だ。


「さあ、かくれんぼは一旦辞めてリンゴ食べよう。お母さん、張り切ったのよ」

笑顔を作って、テーブルにリンゴの入ったお皿を置いた。


でも息子は見てくれない。

それどころか息子は強い口調で拒否をした。

「ダメ!」

「ダメって何が?」

「ブゥーーー!!…いいって!ダ!メ!なの!!」

何を言ってるのか…理解したいけれどこれ以上聞くのは無理そうだ。

ずっと目を両手で塞いでいる状態から動かない息子に私は疲れを感じてしまった。

「ふざけているのね。リンゴ美味しいよ。食べましょう。ほら、手を離そうね」


息子の手を離そうとすると、息子が手に力を一層強めた。

びっくりした私は

「どうしたの。離して良いのよ」

と、少し強めに息子の腕を揺すった。



「んんんー」

駄々をこねる息子から腕を離すとそこには無かった。

「え??」


何で無いのよ

息子の目が無かった

真っ暗な暗闇があるだけ…


「どうしたの?何なのこれは!い、痛くないの?」

「いたくない。何も見えない。夜なの?」


私は自分がもっと取り乱すかと思った。

取り乱す前に理解ができなすぎたのだ。


「アーア、ザンネンダッタネ」

小さな女の子の声がした。

姿は見えない。


私は声を荒げた

「誰?どこにいるのよ!出てきなさい!息子の目を元に戻して!早く!!」


言いたい事を全部言った。

誰だって良い。目を戻さないと!


「フフフ、ムリダヨ」

楽しそうに答える。相手が絶対的に優位。何が何でも戻してもらう。

「何でもします。お願いです。私はどうなっても良いんです。助けて下さい」


今度はだるそうな声で

「コンドハ アナタガ ヤル? カンタン 。メ ヲ フサイデ 。イイヨッテ イワレルマデ」


良いと言われるまで目を瞑っていれば良い。

ルールは簡単そうだ。


「目を瞑ることが出来れば息子の目を返してくれるのね」

「デキタラ カエス。トクベツ。ダカラ スコシ ムズカシクスルヨ」

意地悪な声で返ってきた。

できる。やってみせるわ。


「ハ ジ メ」


私を目を閉じた。息子と同じように両手で目を塞いだ。


絶対に成し遂げる。

目を開けない。

何があっても。



静寂な時間がゆっくりとゆっくりと過ぎていく。

時折、空調調節のためにエアコンが動いたり、停止したりする音だけが気休め程度に気分を変える。


何分経ったのか分からない

5分?10分?30分?


私は耐えられるわよね。

こんなに自分は弱いのか。息子の顔を思い出し気力を奮い起こす。



ドアが不意に開く。

「体温測らせて下さいねー」

看護師さんだった。

「あら、親子で寝ちゃったのね」


他の人にはそう見えるのか。息子の目が…言いたい。

でも騒がれて、このチャンスがダメになったら…

目がない状態で回復するのは医師にも出来ないだろう…眼球は必要だわ


私が悩んでる間に看護師さんはササっと検温して部屋を出て行ってしまった。


これで良い。

私ががんばれば、救えるんだ


「お母たん、リンゴ、おいちいね」

笑顔で食べる息子を見て私も笑顔になった

「貴方も食べなさい」

無意識に私は隣にいる一人の女の子に話しかける

「イイノ??」

思わず私は拒否した

「いいえ。だめよ」


夢を見てた

何時間たったかわからない。

一体、いつまで…

良いと言われるのは今日中なのか。

明日明後日…泣きそうになる。




それから数時間後

「失礼します。面会時間終わりですよ。起きて下さい」

看護師さんから注意を受けるが辞めるわけにはいかない。

私は懇願した。

こうしないと息子が治らないと、必死に。


千羽鶴を始め色々な治療法を試す患者さんもいるため、看護師さんも危険でない限り許容している。


だが、息子さんは不治の病ではない。

もうすぐ退院する子。

なぜ、そこまで意固地になるのか。

規則は守っていただきたい。


看護師さんが言いたいことはわかる。

私の息子の目が無いんです。

女の子に取られたんです。

戻すには良いと言われるまでこうしてないといけないんです。


そこまで話を聞いた看護師さんは首をかしげて言う。

「女の子?目?何を言っているんです?

この部屋にはいませんよ。

息子さんもいますよ。ほらお母さんが剥いたリンゴ食べてますよ。美味しいねぇ」


シャリっとリンゴをかじる音が聞こえた。


私はそれ聞いて目を開けた。


何も見えない。




「アーア。イイ ッテ イッテナイヨ」




女の子

この子も昔この部屋で長く入院していた子。

難しい病気みたいで治療の費用もとっても高い。

色んな補助を貰っても全然足りない。

お父さん、お母さんは必死に働いた。

お見舞いに来る暇なんてなかった。

でも女の子のため。

女の子は一人でベッド。

身体はだるい。天井しか見えない。

寂しさも両親の愛情も理解できる年齢じゃない。

目で見えるものしかわからない。

いっぱいお目々があればいいかもしれない。


読んでいただき、ありがとうございました


また頑張ります

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