ある夫婦の一日
夫婦のすれ違いを面白可笑しく書いた話ですが、決してそういう悩みを持つ方々を卑下した物ではありません。
一生を添い遂げる仲であれば、真剣な悩みほど明るく解決して欲しい。と言う私の願いが込められております……。
タバコのヤニで黄ばんだ麻雀牌をかき混ぜながら、俺は後二局で18000点をまくる算段を考えていた。
親番は既に過ぎている上に、トップから満貫直撃は望み薄だろう。やはり高めのツモ上がりを狙うのが一番か……。
「わり、カミさんから電話だわ」
手配を倒し窓際へ行く同僚。どうやら電話の向こうでは嫁さんが怒っているようだ。焦る様子でひたすらに謝っている。
「スマン! 俺の一人負けで良いから今日はもう終わりで良いかな!?」
現状三着の俺としては異存は無い。後の二人の同僚も『仕方ないな』と言った感じで牌を伏せ帰り支度を始めた。
「アイツこの前子ども産まれたばかりだからな~。夜遊びもキツいんだろな……」
独身二人組が他人事の様に話す中、既婚者でまだ子どもの居ない俺は複雑な思いだった。俺も子どもが出来たら飲み会も麻雀も競馬も出来なくなるのかぁ……。
深いため息を着きながら、俺は家賃2万円のボロアパートのドアノブへと静かに手を掛けた。
忍び込むように、そそ~っと家へと上がる俺。どう見ても怪しい……。何故自分の家でこんな事をせにゃならんのか…………。
「おかえり」
起きてた……
「遅かったわね!! 仕事!? 麻雀!? 酒!? 仕事!?」
「……仕事……かな?」
俺は唾を飲み込み取り調べの時を待つ。
「右手の親指!」
嫁が素早く俺の右手の親指の腹を取り上げて見た。
盲牌で酷使した親指の腹の色が少し赤くなっていた。
「右の唇!」
嫁が指差した唇の隅には、煙草を咥えすぎて火傷した痕があった。
「よって……麻雀!!」
俺は有罪となった……。もはや言い逃れは出来ない。俺は素直に麻雀を認め、勝ち分の五千円を嫁に渡した。
「子ども貯金入りました~♪」
子ども貯金とは、子どもを授かった時の為の貯金である。そのまんまやんけ。
「で!? 今日は……するの!? しないの!?」
でたぁ……。
俺はうんざりした目で嫁を見た。最近は何かとあれば子作りをせがまれる。『田舎の両親に孫の顔を早く見せてやりたい』とか『友達は皆子ども産まれて羨ましい』とか『早くしないと体力的に厳しくなる』とかとかとか……。
正直、俺はもう少し遊んでいたいのだ。
「今なら設定6よ!! さあ!私で遊びなさい!!」
「ごめん、今日は麻雀の気分なんだわ」
「丁度良いわ! 今なら国士無双13面待ちよ! さあ!私に放銃しなさい!!」
……俺のギャンブル好きに合わせて嫁のボキャブラリーが日に日に増えていってて困る。俺は鞄をテーブルの上に伏せて風呂へと向かった。
―――ドンッ!!!!
突然顔の横の壁に突き刺さる包丁。俺は慌てて振り向き引き下がるが、蹴躓いて尻餅を着いてしまった!
「あ、危ねえだろ!? 何考えてんだ!!」
「それは私の台詞よ……」
嫁はエプロンを脱ぐとキッチンの椅子に置き、更に服を脱ぎ始めた……。
「ここでアンタから息子を切り落として代わりに育てても良いのよ?」
嫁の視線が俺の股間を狙い澄ます。考えただけでも恐ろしい……。
嫁は話しながらも更に服を脱ぎ続ける。
「それとも、大好きな近藤君にトレパネーションをしても良いのかしら!?」
止めろ……それだけは止めろ……。
「私でパチンコするか、好きな牌をぶっ放すか……近藤君に死んでもらうか…………今すぐ選べ」
もう脱ぐ服が無くなった嫁は再びエプロンを着けると、壁に刺さった包丁を静かに抜き、逆手に持ち―――
―――ドン!!
俺の股間の真ん前に突き刺した!!
築30年の腐りかけの床に包丁が深々と刺さり、俺は恐怖で奥歯がガタガタだった…………。
「大丈夫。今日は青天井よ♡」
冷蔵庫から次々と出て来るドリンク剤。赤マムシ、マカ、亜鉛剤、謎の瓶、ハブ酒、謎の瓶。その全てをジョッキに注ぎ、嫁は俺に差し出すが、その毒々しい臭いと色が俺の脳に危険信号を灯らせる。
「飲めばヤる気が出るわ! さあ!」
「あの~……」
それでも口篭もる俺に、嫁は無言でエプロンのポケットからカードを一枚床に投げた。
『スマッタさんのパイケーキ』
裏にはご丁寧に『また来てね♡ あかね』と手書きで書かれていた……。
「ははは」
「ふふふふ」
二人は笑い、一瞬で真顔に戻る。
「すいませんでしたぁぁ!!」
俺は深々と土下座をし、ゆっくりと顔を上げた……。
「……(ニコッ)」
「…………へへ……」
「ご新規一名様 フルコース入りまーす♡」
「いやぁぁぁぁぁ!!」
俺は寝室に引きずり込まれ、特製ドリンクを流し込まれた!
そこから先は、覚えていない…………。
読んで頂きましてありがとうございました!
これ、色々と大丈夫かな?かな?