第二話
開いた白い壁の向こうには椅子があり、誰かが座っていた
正確には人型の何かと言うほうが正しいだろう
白いモコモコとした感じの服で頭部は黒い球体の様な物が載っている
「誰だ?ルーシーの保護者か?」
そう聞かれたルーシーは少し悲しそうな顔になった
「これは以前グイグ様が使用されていたパイロットスーツです」
ルークは初めてルーシーが表情らしい表情を見せたのに驚く
『ズゴン』
後ろから大きな衝突音と共にガラガラと岩が崩れる音が聞こえてきた
憑依獣が岩を崩し始めたのだ
『ズゴン』『ズゴン』『ズゴン』
連続した音が聞こえてくる、ルーシーの言うように数匹居るのは間違いなさそうだ
「コスモイーターの攻撃によりこの周辺の岩が崩れ始めました」
「分かってるよ!」
慌てたルークはルーシーに強くあたってしまうがルーシーは気にした様子は無い
「緊急避難用装備の着用を強く推奨します」
ルークは藁にもすがる思いでルーシーの指す箱を取り出した
『緊急避難装備を展開します』
手に持った箱からルーシーの声よりももっと無機質な女性の声が聞こえると同時に箱が溶ける様に両腕を流れルークの全身を包みルーシーの様な服に変わる
顔まで覆って来た時は息苦しい様な錯覚を感じたが実際は普通に息が出来、視界もクリアに見えた
ルークが自分の全身を慌てて見ていると視界の端に小さなルーシーが見えた
こうすぐ目の前に小さくなったルーシーがいる感じだ
「ルーシー?」
「MT917リンクしました、以後このディスプレイを使いナビゲートします」
目の前のルーシーの向こうで白い壁が閉まって行くのが見える
『ズゴン!ガラガラガラ』
すぐ後ろから岩が崩れる音がする、すぐ近くまで岩が壊されて憑依獣が前足を隙間に突っ込んでいるのが見える
「なんだか分らんがもうどうにでもなれだ!ルーシーどしたらいい!?」
ルークは半ば自暴自棄になり叫んだ
「スーツ着用の際にお手持ちの武器にもコーティングされています、通常攻撃で討伐可能です」
手持ちの武器って木剣!?
「この剣は木製だぞ!?何か他に無いのか!?」
「MT917の装備は使用出来ません、他の携帯武器もエネルギー不足で同じく使用できません。なお脅威度1のコスモイーターではこのスーツは破壊されません、ご安心を」
安心は全く出来ないがこのまま戦えって事は分かった・・・俺はここで死ぬのかな?
『ズドン!』
ルークがそんな微妙な覚悟を決めていた時だった憑依獣の体当たりをし吹き飛んだ岩がルークに飛んでくる
ルークの上半身程はある大きさだ、咄嗟に木剣を手放し両手でガードするが岩の自重だけでも防ぎきれる筈がない
(っ!・・・・???)
岩がぶつかった瞬間、感じるはずの衝撃が無く動揺するルーク
飛んで来た岩は確かに自分にぶつかった
しかしルークが感じたのは丸めたタオルが飛んで来た程度だった
(この服のお陰か?これなら!)
ルークは木剣を拾い上げルークを捕まえようと伸ばされる憑依獣の腕に切りつけた
『スン』
そんな音と共に憑依獣の腕が切断され少し飛んで『ボト』っと落ちる
「ギャン!」
憑依獣は悲鳴を上げ後ろに飛びずさり余りの痛みに転げ回る
刃の無い木剣である
正直痛みを与えればいい追い払えればいいと思い牽制のつもりで振るった剣が憑依獣の腕を切り落とした
驚くルークに目の前の小さなルーシーが声を掛ける
「追撃を!」
腰に手を当てビシッ!っと外を指さす・・・正直違和感が半端無い
「アイツ以外にも居るんだろう?大丈夫なのか?」
ルーシーは後ろを向き上を指さすを複雑な線と赤い点が三つ出てくる
その一つ真ん中の点を指さし「これが先ほど貴方が切りつけたコスモイーターで・・・」
ルーシーの説明を聞くとどうやら線はこの周辺の地図で赤い点は憑依獣らしい
ずっと疑問に思っていた事が一つ分かった、ルーシーの言うコスモイーターとは憑依獣の事だ
ルーシーがコスモイーターと戦ったと言っていたのを思い出しこの服は憑依獣と戦う為の装備なのかと聞くと「少し違いますが間違いではありません」
戦闘が終わったら訓練プログラムを使うので今は追撃をとの事
「分かった信じる、後で色々教えてもらうからな!」
飛んで来た岩を防ぐ防御力に憑依獣を簡単に切り裂く攻撃力がある
ルークは人間が不通に出入り出来る程に広がった入り口から飛び出した
赤い点を信じるなら出てすぐ右!
飛び出したルークはすぐに右に向きを変え木剣を振るう
獲物が出てきたらすぐに飛び掛かるつもりだったのだろう、ルークが出てきた瞬間に後ろ脚を蹴り飛び込んできた
その獲物が逆にこちらに向かってくる、仲間が重症を負った事で警戒していただけに驚き向きを変えようとバランスを崩す
勝手に横を向いてくれた憑依獣の首をルークの木剣が捉える
『ヒュン』
勢いがのったルークの木剣が空気を切り裂く音と共に憑依獣の首を半ばから切り裂く
ルークの背丈程もある狼の首は太く切断には至らなかったが完全に致命傷だ
さっき腕を切り落とした時もそうだが憑依獣は切られても血が出ない
不思議に思いながらルークは倒れている獣を見つめていた
「後ろから接近してきます!」
ルーシーが俺の方に向かって指さす
(しまった!)
赤い点を見るのを忘れていた慌てて振り返りながら木剣を振るう
『ボコッ』
木剣の柄の部分が当たり憑依獣が3メートル程吹き飛ぶ
(凄い力だ・・・)
ずっと憑依獣を殺せる力が欲しかったルークは興奮していた