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影の聖魔  作者: 霊王
第壱章
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第7話 〜騎士は自由〜



 昼過ぎ



 私は誕生日会に招待する貴族に招待状を書いていた。



「失礼します。用紙の追加を持って参りました。」


「ありがとう、リン。」



 机にひたすら向き合いペンを滑らせること約五時間。貴族全員へ全て手作業はやはり疲れる。今のところ四割は終わったかな。あ、あと六割……



「姫様、少し休まれては?」


「待って、あともう少しだから終わらせたい。」


「姫様……服装や生活サイクルはいつも適当ですのに仕事(こういう)ところは真面目と言うか、加減を知りませんのね。」



 服装と生活サイクルはおそらく前世の名残りだと思う。それと、私はそこまで真面目ではないんだけど。



「わかりました。姫様の熱意に賛同して陛下に勉強と稽古時間も見直してもらいましょう。」


「よしリン休憩しよう、うん。」



 その言葉に私はサッとペンを止めた。どうも脅迫されたような気もするが……勉強時間を増やされて本を読む時間が減るのは困るし休もう。



 ガタッと私が部屋の中心に置いてあるテーブルに座ろうとするとリンは慣れたように椅子を引いて私を手伝う。大理石のテーブルに置かれた紅茶を一口飲むと私はこの部屋を見渡した。


 いつもの寝ている部屋とは違うこの部屋も私の部屋だ。白とピンクを中心に使われた装飾に広い部屋。置いてある物は全て高級品。光が程よく差し込むカーテンがその光に反射しより一層と部屋を明るく照らしていた。



「お勉強や仕事などはこちらのお部屋でするのに何故お休みになられる際はあちらの部屋なのですか?」


「分からないけど落ち着かなくて……仕事とかは良いのだけれど。」


「姫様は変わってらっしゃいますね。」



 そう言われるのも仕方ない。自分でもわかってないのだから。

 最初から過ごしていた部屋はここだ。もちろん、ベッドもタンスも生活必需品は全て置いてある。さほど使ってないから綺麗だけど。物心ついて間もない時だったかな。この部屋に息苦しさを感じたのは。それで寝る時だけは空いている狭い部屋を使っている感じ。本を読むのもその部屋だ。だけど、そこは物置に使われていたみたいで最初はみんなに反対された。そりゃ、一国の姫がの物置部屋で寝てるなんて知られたら変な噂が私だけでなく城のみんなにもつく。姫も楽じゃない。ま、私が掃除なんかをしていたらみんな手伝ってくれて今では立派な部屋と化したから大丈夫だと思うけど。



「あと手紙を書くのは第一王国と第三王国と獣王国と……帝国?」


「はい、ですが帝国とは…………」


「うん、分かってる。停戦って形になってるだけでまだ睨み合っているんでしょ?」


「はい……」



 そう言えば、リンは生まれが帝国だったはず。多分、帝国と三立国のアルトス・ラミエット・エムルドアが仲が悪いのを気にしているのかな?


 いつも凛とした佇まいの彼女が若干だが暗くなっている。私はその空気に耐えられずティーカップの紅茶を一気に飲み干す。行儀悪いけど。



「あともう少し……終わらせる!」



 ガバッと席を立つミーシャの行動にリンがその意味を察する。

 いつも書庫やら部屋やらに閉じこもり引きこもり気味なこの姫様は時々、十歳とは思えない気の配り方をする。そんな不思議な自分の君主に惹かれながらもリンは珍しく口角を上げた。



「リン、終わるまで付き合って。」


「かしこまりました。」



 ―――――――――――――――――――――――



「お、終わった…………」



 最後の一通を書き終えた途端カクンッと机の上に倒れ込んだ。せっかく書いた招待状を下敷きに。



「あぁ、姫様汚れてしまいますよ。」



 リンの言葉にハッと気づいた私は机の上を片付け、テーブルに移りリンが注いだ紅茶を飲み始める。



「いま何時?」


「16時です。」


「……レイは?」


「先程まで部屋の外に()られましたが、体を動かしたいと兵舎に向かわれました。」



 なんだろ、アレは。この間リンに私の護衛騎士としての自覚がどうのこうのと言われていたのに自由にも程がある。


 いや、王女としての自覚が足りないと言い返されそうだからやめとこ。






「ハアァァ!!」


「グァッ……!!」



 男たちの威勢のいい声が辺りで聞こえてくる。ここはラミエット王国の訓練所、兵士や騎士たちが練習場所である。私とリンはレイを呼びにここに寄ったのだ。



「こんにちは、ウォンレット団長。」


「おぉ! これはミーシャ姫様、ご息災で何よりですぞ!」



 私は騎士たちに指示を出していた筋肉モリモリマッチョマンの男性に話しかけた。彼はウォンレット・ハールスミス。三つある騎士団の団長であり、この国を守る(かなめ)となっている存在である。



「レイは……いる?」


「レイですか……でしたら――――「あ、ミーシャ姫様ッ!!」」



 騎士団長の言葉を遮り元気の良い声が聞こえてきた。彼女はサリス・バーミリオン。この男だらけの団の中、数少ない女性の騎士で腕もたつ美人さん。



「レイでしたらあちらの方でムルアードと訓練しておりますよ!」



 彼女(サリス)が指した方向には二人の男が木剣で戦っていた。



「おいおいミーシャ様の護衛で腕が(なま)ったンじゃねぇか!? レイ!!」


「ハハッ、舐めんじゃねぇぞ、ムルアッ! こちとら本の虫姫様に付き合って忍耐力が鍛えられているんだよ!!」



 へぇ~レイそんなこと思ってたんだー。確かに丸一日書庫に篭って外に立たせたままだったこともあったけどレイも別に嫌々じゃなかったよねー?なんなら他の奴に交代してほっつき歩いてたよねー?違ったらごめんねー?



「おうおう! 惚気(のろけ)話とはいいご身分だな! 我等がお守りする美少女姉妹姫の妹姫(まいひめ)、色白い肌に目が合ったものを引き込むような深い赤紫色の瞳、そしてそれを引き立てる銀を薄く伸ばしたような細長い髪、幼きながらも美しさが際立つそのお姿はまさに妖精!!」


「戦ってる時に余裕だなッ!!」


「あぶねぇ!!」



 いや……恥ずかしい。本人の前でそんな口説き文句を語らないで欲しい。いや、本人たちは先頭に集中してるから気づいてないんだろうけどね。にしてもムルアードがかなりえげつない角度から攻撃してるけどそれを捌き切ってるレイもすごい。ほら、周りで練習してた人たちが手を止めて見だしてるよ。



「俺はな、専属護衛になってあの姫様たちが可憐な花になる成長過程を間近で見たかったのに! そんな姫様の専属護衛になったお前は心底憎たらしいッ!!!」


「舌噛むぞ!」


「うをぉッ!!」


「それにな、姫様の専属護衛ならいつでも変わってやるよ―――」


(えッ!?)


「何ッ!!?」



 まさかの言葉に私も含め周りの人たちが反応する。さすがにその言葉には私でもこたえるものがある…………



「まぁ、()()()()()()()()()()!!!」




 木剣と木剣の押し合いになっていたが、レイが急に横に逸れたものだからムルアードがよろける。その隙に背後に回り剣の柄で背中を殴った。



「いでッ!! ちくしょう………本気で言ってるのか? お前から一本取ろうなんて―――」



 背中をさすり、武器を構えながら訪ねる。先程までヘラヘラしていたムルアードの表情はどこかに行き戦士の顔になる。体勢を低く落としレイを睨みつけた。レイもそれが分かっていたかのように構える。周りの人も見入ってしまうほどの期待と緊張感。



「手加減してくれるんだよなッッ!!!!」



 ムルアードが叫んだと思ったら全速力でレイのもとまで跳び剣を突き出した。その速度に驚くこともなく冷静に避け腹部に打ち込むがムルアードもレイの腕を抑え防いだ。



「ッ!!!?」



 しかし、その行動も予測したようにレイは剣を左手に持ち替えムルアードの腹部に叩きつけた!



「ぐはッッ!!」



 ムルアードの体は宙に浮き何メートルか飛んでいった。やっぱり私とでは筋力に差がありすぎてあんなことはできない。いや、普通の人でもできないだろう。鍛える人だからだろう。それよりも……



「手加減するわけないだろ。ましてやお前みたいな邪念ダラダラのやつを姫様の近くになんか俺がさせねぇ。」



 これは……私は嫌われてなかったって事でいいのかな?少しホッとした自分がいる。



「あ、ミーシャ姫!」


「あ? うわ!」



 うわって、いや確かに話の内容の本人が居たら驚くけどその反応は傷つく。



「あいや……姫様なぜここに?」


「終わったから呼びに来た。レイは私の専属護衛だから。」



少しむくれながらレイを見つめる。やっぱり身長も高くて首が疲れそう。



「もう遅くなっちゃったし、レイが居ないと行動が制限されてるから早く。」


「あ……いや、すみません。」


「ヒューヒュー! いだッ!!」

【第7話】あとがき


ーー人物ーー


レイ・ソルジャード・マリン


第二王女専属護衛兼第一騎士団副団長

侯爵であるソルジャード家の長男。当主である父の反対を押し切り騎士団に入団。その剣の才は国の中でも屈指の実力。最年少で副団長となり顔良し、収入良し、性格は少し軽いけど良しの優良物件としてその手のご令嬢には注目の的となっている。ミーシャは少し気がある。



リン・ケイアス


第二王女専属侍女

伯爵であるケイアス家の次女。幼い頃からミーシャの世話係として教育され完魔法も使える璧人、今では侍女メイド長の次に偉い。

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