第2話 〜見慣れた朝〜
自分は長男として武術の家系に生まれた。そのせいか子供の頃から稽古やら作法やらを叩き込まれる日々だった。
別にそれは嫌では無かった。何かに没頭して励むことは好きだったからだ。それに自分を支えてくれる同い年の妹や友人がいたのもあるかもしれない。
そんな日々を積み重ね、高校生になり二年が経った。母は病で他界し、父は酒に溺れ自分や妹に手を上げ始めていた。自分は伯父に相談し父とは別居し今では妹とこの家で暮らしている。
「……よし。」
姿見に映る見慣れた制服姿、色々ゴタゴタはあったが問題なく暮らしてはいる。妹は朝部活か何かで先に行ったのだろう。そうだ、今日の帰りは買い出しに行かないとな。そんなことを考えているともう行く時間になってしまい高校へと向かった。
「行ってきます。」
高校近くまで来ると大勢の高校生が歩いて大渋滞を起こしていた。そして、ソレは起きた。
少し前を歩く集団から一人女子生徒が道路に弾き出された。
「ッ!!」
咄嗟に彼女を歩道側へと引き戻したものの、彼女と入れ替わりで自分が道路に出てしまった。そして、自分の後ろにはトラックが迫っていた。
――――ドンッ――――――――
鈍い音が立つ。
その瞬間、体中に激痛が走ったかと思うと視界がぐるぐると激しく回った。
どこかにぶつかり視界が落ち着く。
「――――ッ」
頭が回らない。どうにか周りを見渡すと自分を吹き飛ばしたと思われるトラックが横のビルに突っ込んで止まっていた。さらにはガソリンらしき液体が漏れ出し、近くには火がついている。おそらく、このままでは数分と経たない内にガソリンに引火して爆発するだろう。
しかし体を動かそうにもピクリともしなかった。動くのは首くらいだ。それに今、痛みもさほど感じなくなっていた。先程まで感じていた激痛が嘘のように感じない。
その事に恐怖と焦りを覚えながらも、どうしようも出来ずに仰向けの状態で空を見上ていた。
ふと、昔の記憶が頭を過ぎる。
これが、走馬灯と言うやつか?思い返せば本当に薄い人生だ。ほとんど稽古の記憶ばかりしかない。
――――なにか聞こえる
頭を動かして横を見たら大勢の人混みの中に妹が見えた。自分に気づいたのか妹がこっちに来ようとしているが周りの人に抑えられていた。泣きながら何か言ってるが、よく聞こえない。
そう言えば妹には何もしてやれなかった。ホント、何やってんだろう。
ダメな兄ちゃんでゴメンな、妹の方を向きながら呟いた。
だんだん眠くなってきた………
寒くもなってきた………
……ほんと……酷い人生だ…………
そして自分、東羅 蒼太は
一度目の人生を終えた――――――