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影の聖魔  作者: 霊王
第壱章
16/17

第15話 〜別れの前日〜

あれから2ヶ月が経ったーー 


 ガランゴロン、と鈍いベルの音が孤児院前の森から聞こえてきた。



 それに反応した子供たちは……



「あ、おじさんがきたー!」


「シスターよんでくる!」



 全員が急に大はしゃぎになった。私はとりあえず怪我しないように見守りつつ音のなる方角を見つめた。森の中からは数名の人と大きな荷物の山が運ばれてくるのが見えた。



「ふぅ……ココこんなに生い茂っていたかねぇ。」



 真ん中の小太りなおじさんが独り言を呟く。丸い髭に丸い鼻、いかにもファンタジー世界の商人ってかんじの人だ。



「おや、新顔だね?」



 その人が私の顔を見るやいなや話しかけてきた。少し驚いたものの私は落ち着いて答える。



「はい、少し前からお世話になっています……ミーアです。」


「ふむふむ、礼儀正しいね。おっとこれは失礼…私は“商人団バドバル”経営者 バド・ルーカス。よろしくねお嬢さん。」


「はい。よろしくお願いします。」


「ふふ、本当に礼儀正しすぎる子だ。」


「え?」


「そうですよね〜、外に出した時に色々厄介事を招きそうな体質っぽくてですね〜。」



 いつの間にか来たシスター・ネルキーが口を割り込む。事前に手紙か何かでやり取りしていたのだろう、シスターの言葉に納得したバドさんは髭に手を当てる。



「ふむ、やはりこの子が例の相談したい子かね。まぁとりあえず荷物を運んでからにしよう。お〜い、頼む。」


「「「ウースッ!!」」」



 一緒に来ていた男性達が荷台から木箱等を運び出す。どこかで見たことある箱だと思ったら前にシスターが教会で片付けていた箱のマークと類似していた。あれもバドさんからの荷物なのだろう。



「……!!」


「ん、あぁフミちゃん久しぶり。君のお兄さんだったら今別口で働いてるよ。何でも学園都市に入学したいからお金を貯めると言っていたよ。はいコレお兄さんから預かった手紙だよ。」


「…………(コクリ)」



 最初は少し不貞腐(ふてくさ)れ、悲しそうな顔をしたが手紙もらい笑顔になったフミちゃん。それを見てニコッと笑い頭を撫でるバドさん。いい人そうだ。

 その後、私の口からバドさんに詳細を話した。目的地は『王都・アルトス』。



「ふむ、アルトスまでしか同行できない私が言うのもなんだが、大丈夫なのかい?」


「はい、伝手(つて)の可能性があります。」



 嘘ではない……アルトス第一王国ならば国王ロアル・アルトス・フォン・ムルターナが居るはず。面会さえ取り付ければなんとか……



「えぇ! ミーアお姉ちゃんもう行っちゃうのッー?」



 話を聞いていたのかライラ、ミナ、フミが近くにおり他の子供たちも後ろからこちらを見ていた。



「ごめんなさい、戻らなきゃいけない所があるの。」



 自分勝手に動いてリンとレイを死なせてしまった。そんな私がどの顔を見せて帰っていいのか分からない……それでも、父と姉が居る場所に帰りたい。その気持ちがどうしてもあった。



「ねーちゃんが居なくなるとオレらのメシが……」


「ゲッ……そうじゃん、シスターのか……それはマズいな。」


「あら〜? 誰のご飯が不味いのですかぁ〜?」


「あいや! マズいって言ったのはそういう意味で、もあるけど!」



 私の後ろで怒るシスターと怒られる最年長組男子ラータとリド。けど安心して、頼もしい彼女たちが居るから。



「「ふっふっふ……」」


「「お、お前たちは……!」」


「ひかえなさい、男子たち!」


「ミーアお姉ちゃんに頼み込んで一通りの料理は作れるようになったわよ!」


(コクコク)


「「なっなんだって〜!?」」



 そう、シスターの了承を得て最年長組女子のライラとミナとフミにここ一ヶ月教えていた。といってもたった一ヶ月なので基礎を教えて後は紙に書いて渡しておいた。一応と言ってはなんだけどシスターにも教えた……うん。



「ともあれ、少しの間だがよろしくねミーアちゃん。」


「すみません、お願いします。」


「おっと、その礼儀正しいのも直そうか。聞いたところラミエットのご令嬢だったかな? これからは平民っぽくしないと目立つからね。」



 理由はすぐさま理解した。貴族の子供が普通に歩いていたら危ないのは当たり前。防衛手段もほぼ皆無の私がそんなんじゃ迷惑をかけてしまう。



「わかり……わかった。」


「ハッハッ、これは時間がかかりそうですな。」



 ――――――――――――――――――――――――――



 バドさんたち一行(いっこう)は一日泊まり、明日ここを出るそうだ。丁度、私も読みかけの本を読み終えれそうで良かった。流石は元教会、ある本はほとんどが宗教の聖書・教書ばかりだったけど魔法が載っている本もあった。



「ミーアお姉ちゃん……」


「ん?」



 ふと、声のした扉の方を見ると枕を抱えた最年長組女子三人がこちらを見ていた。本当に懐かれてしまったようだ、嬉しい。



「ミーアお姉ちゃん、またあえるよね?」



 同じベッドに入り聞いてくるライラ。



「うん、お土産持ってくるね。」


「ほんと!? わたしお洋服がいい〜!」


(コクコク)


「え! お菓子じゃないの?」


(……ッハ!)


「ふふっ……まかせて、いっぱい持ってくるね?」



 そんな話をしているうちに三人はいつの間にか眠ってしまう。私はそっと“影”を使い読みかけの本を手に収める。ふと、フミちゃんの顔をチラッと見て月の光を頼りに本を再度読み始めた。




――団体――


隊商キャラバン・バドバル商会


第一王国と獣王国を中心に経営する商会。食料・服・雑貨等を主に取引し各地に拠点を構える大企業。その責任者であるバド・ルーカスは元孤児院の出であり、とある貴族に養子として引き取られた。そこから彼は商人としての才を見出し商会設立までの地位に至る。

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