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影の聖魔  作者: 霊王
第壱章
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第11話 〜物語は序章〜

 


「……危ないっ!!―――――」



 私は咄嗟にリンを馬から引きずり下ろすと乗っていた馬が吹っ飛び倒れた。

 倒れた馬は切り裂かれたような傷があり血を流して絶命していた。おそらく魔法による攻撃だと思われる。



「ふむ……その察知能力、《魔力感知》ですか。しかも精度もなかなか。これはやはりどうにかして意識を…………」



 何やらブツブツと呟く白服のスセサリウス司教。


 その言動に注意を向けすぎていた私たちは後ろに忍び寄る気配に気づかなかった。



「あうッ……!」



 私を庇うように前に居たリンが突如として倒れる……剣の男だ。剣の男がリンの上に乗り、組み伏せていた。



「リンッ!」


「最近の若い奴はしぶといねぇ、オジサン疲れちゃったよ。」



 ミーシャは剣の男を見るな否やドームの方を振り向く、そう……この男は先程までレイが相手していたハズだからだ。


 すると黒いドームは解除されたのかその場に無く中の現状があらわになる。そして、真っ先に目に入ったものが無惨に倒れるラミエット王国の騎士たち……そして……



「レイッ!!」


「聖女様、そろそろご決断の方をお願い致します。私どもも何も強引に物事を進める野蛮人ではないのです。あくまでもこれは同意の上でのお話でございます。しかし、こちらも大事な任務。多少の無礼ならば我らが主神も許してくれるでしょう。」



 スセサリウス司教の目線からミーシャは内容を悟った。まだ抵抗するのならばリンを……



「聖女様、ご検討のほどを……」


「いけません! 姫様ッ!」



 リンがスセサリウス司教の言葉を遮るように言い放つ。それに苛立ち剣の男に合図を出す。



「やめてッ!!」



 ミーシャの叫びにも目もくれず男は、剣を突き立てた。



 ドスッ



 剣は容易(たやす)くリンの体をを(つらぬ)き引き抜かれる。



 先程まで見えなかった月光に照らされた剣の先には紅い、紅い血が着いていた。



「リンッ!!!」


「ひめ……さ……ま…………」



 その光景を目の辺りにし、ミーシャはほぼ無意識に『影の聖女』を発動させ剣の男に襲いかかる。



「うぉ、さっきより早ぇーな。」


「ふむ、そういえば忘れていましたね。魔道具を持ってきなさい。」



 駆け寄るミーシャは急いでリンに治癒魔法を施す。



「“光よ、癒しの力を”《治癒ヒール》ッ……!! な、んで……血が、血が止まらない!」



 何度も治癒魔法をかけるも一向に傷は塞がらず、血が流れ続ける。



「んぁ? 聖女ならあの程度治せるはずだが……俺の剣に何かしたか?」


「えぇ、貴方の剣に“呪怨カースド”を付与させて頂きました。」


「…………ッチ、勝手に人の剣を。」



 何か話しているようだったが今のミーシャにはそんな暇はなかった。ついにはリンの身体から力が抜け事切れてしまった。



「リンッ! 嘘でしょ、リン……お願い目を覚まして。お願いだから……」



 侍女、そんな肩書きを通り越してリンはミーシャにとってのかけがえのない存在だった。


 家族とはまるで違う容姿のミーシャが産まれ、その際に力尽きてしまった王妃の事もあり最初の頃は忌み子、悪魔の子などの言われも流れていた。国王や第一王女のエルナもミーシャを見ると王妃のことを思い出してしまうため、近づこうしとなかった。


 しかし、ミーシャには生まれた時から前世の記憶があり、それにともない自我があった。赤子の身体のせいか精神的にも子供に近くなっていたミーシャにとってその環境はとても辛くなっていた。


 そして、そんなミーシャに最初に寄り添ったのはリンだった。

 リンの家系は代々王族に使える家系で新人ながらも王妃の出産に居合わせたりとミーシャとの関わりが深かった。そんなリンが一人前としての最初の仕事は隔離された第二王女の侍女。


 ずっと一緒に居た。会わない日なんて一度もなかった。



 リン…いやだよ……死んじゃ……いや…………




 そこが、ミーシャの記憶の最後だった。




 いつの間にかミーシャの鳴き声は止み、また月に不穏な雲がかかる。



「……………………」


「ふむ、意識を失いましたか。仕方ありませんね、丁重に扱うように。」



 ミーシャの意識が途絶えたことにスセサリウス司教が気づき指示を出す。指示に従い数人の邪教徒がミーシャに近づいた時だった。




 ゾワッ




 月の光が指すと同時にミーシャの身体から魔力が溢れる。その魔力に反応した剣の男がスセサリウス司教を後ろに引っ張る。その反応に遅れ、ミーシャの近くにいた邪教徒たちは全員が“影”の串刺しになり死んでいる。



「あっぶね、今日で何回目だよ。」


「ドームを展開しろ!」



 忘れていたかのように魔道具の起動を支持する。当の本人(ミーシャ)は力尽きたように倒れていた。数人の邪教徒がミーシャに近づいた時、鳴き声が聞こえた。



「キュウ。」



 ちいさな生物がコチラを見ている。月が雲に隠れてしまい姿がよく見えないが、確かにふたつの光る瞳がコチラを見つめているのが分かる。そして一瞬、その目が大きくなった。



「……あぁクソ。」



 僅かに雲が切れ月の光がその正体を照らした時、剣の男から漏れた言葉だった。


 ドゴッ


 一瞬だった、ムチのようにしならせた尻尾により剣の男の体が吹き飛ぶ。

 その光景に邪教徒たちが悲鳴を上げるも声を上げた者から次々とその姿を消していった。



「なんだッ!! 何が起こっているッ!!? おい!お前たち!!」



 最後の一人、スセサリウス司教が戸惑う最中、その生物は目の前に現れた。



「ド、ドラゴン――――!!」



 畏怖、恐怖……生物としての本能が司教の脳に警報を鳴らす。しかし、絶望の感情とは裏腹に司教には別の感情が湧き上がっていた。



「まさか、ハッ……ハハハハッ! ついに、ついに現れたのかッ! 予言・・通りだ……」



 ーー 歓喜



「ついに、ーーの移し身が……」



 ーー 愉悦



「これで、我らが願いがッ!ーーー」



 ーー 死



 まるで羽虫を叩き落とすが如くドラゴンが前足を振り下ろす。それだけで司教の姿はその場から消え失せた。



 静まり返った辺りに馬の軍勢の足音が近づき始めていた。


 その音に気がついたドラゴンはミーシャの元へ近づく。そのミーシャに反応はなくドラゴンは頭でそっと背中に乗せると二つの翼を大きく広げ月の出ている方向へと羽ばたいた。





《――第1話 へ――》

――魔法――


付与魔法(エンチャント)呪怨(カースド)


武器・防具などの物体に一時的に魔法の力を宿らせる魔法。その一つである呪怨は呪いの一種で相手の治癒能力や魔法を一時的に無効化する。

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