表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
正義は悪魔の名のもとに  作者: 鬼崎祐佑
2/4

第1話 始まりと終わり









「・・・はぁ」



どこまでも青が広がる空を見上げて、榮守(さかもり) 駿夜(しゅんや)は何度目かわからないタメ息をついた。

誰がどう考えても“いい天気”に値する今日という日にタメ息ほど似合わないモノはないだろう。

自宅から学校へ行く途中に桜歩道と呼ばれる道がある。歩道に街路樹として桜の木が植えてあり、春になれば十メートル間隔で植えられている桜が満開の花を咲せ、桜歩道というその名に恥じぬ彩りを見せる。

そよぐ春風が心地よく、その風に乗り桜の花びらが宙を舞っている。駿夜は、そんな春の風景に感嘆するわけでもなく、ただただタメ息ばかりついていた。



(まったく、僕たちが入学式に行ったところでなんになるんだか)



そう、今日は駿夜が通う谷津那(たにつな)高校の入学式だ。ただし、駿夜は現在高校二年生。このイベントに参加しても意味がない。



(新入生を見てもなぁ。どうせ関わらないだろうし)



部活動に入っていない駿夜にとって、新入生の入学は心底どうでもいいことらしい。


そんな駿夜の気持ちを知ってか知らずか、道路を挟んで反対の歩道を和気藹々と登校する同じ制服を着た生徒の姿があった。見たことがない顔立ちなので、恐らく新入生だろう。駿夜は桜が舞い散る歩道の上で、再度タメ息をついた。


谷津那高校は自宅から徒歩20分程度の場所にある。正門が見え始め、ここまで来れば嫌だと言ってても仕方がないので駿夜は渋々自分の教室へと向かう。


教室の扉を開くと一瞬だけこちらに目線が向き、入ってきた人間が駿夜であることがわかると、視線は霧散した。駿夜にとっては慣れた日常の風景だ。


駿夜は日本人とイギリス人のハーフということもあり、綺麗な金髪だ。だが、顔立ちは母に似たのかほぼ日本人に近く、名前に至っては完全に日本人なため、あまりハーフだと思われない。その結果、入学時から黒に染めることなく、そのままの状態で登校したため、不良に間違われる始末である。


無論、教師には事情を話し金髪であることに了承を得ている。だがそんな理由など知らないクラスメイトは入学時から金髪に髪を染めている男、と認識しており、そんな男となど関わり合おうと思う者など居なかった。その結果、今やほとんどの同級生と疎遠になっている。



(まぁ、いいけど。それに、父さんから受け継いだこの金髪は誇りに思ってるし、これがありのままの自分の姿だ。染めようとは思わないし、これが受け入れられないなら、僕はそれでいい)



自分を殺してまで周りと親しくしなくてもいい。それが、駿夜の考えだった。



(それに、このままでも友達はいるしな。・・・一人だけだけど)



そんなクラスメイト達を気にも留めず、窓際最後尾という特等席にあてがわれた自分の席に着く。



「やぁ、駿夜くん。相変わらず憂鬱そうだね」



駿夜が頬杖をつきながら外を見ていると、横から声をかけられた。



「・・・おはよう、光助。余計なお世話だ」



声がする方を駿夜が振り向くと、そこには唯一の友、神近(かみちか) 光助(こうすけ)が立っていた。



「もっと楽しそうにしなきゃ。一日の始まりだよ?」


「とは言ってもな。わざわざ入学式に行かなきゃならない意味が見出せない」


「後輩になる子たちの顔くらい拝もうよ」


「必要ない。どうせ関わり無いからな」


「またそういうこと言う・・・」



やれやれとでも言いたげなジェスチャーをしながら光助は首を振った。


駿夜が光助と初めて会ったのは高校に入学してからで、周りから疎遠になっていた駿夜に声をかけた唯一のクラスメイトだった。この一年間で駿夜が光助に抱いた印象は一つ。幸助は完璧超人だということ。成績優秀、運動神経抜群、品行方正。誰にでも優しく、男女ともに人気が高い。だからこそ、駿夜は不思議だった。


なぜ自分に声をかけてきたのか。


何度か聞いたことはあるが、その度に何となくとはぐらかされてしまう。



(・・・まぁ、いいか。細かいことは気にしないことにしよう。なんにせよ、光助が友人であることには変わりない)



そんなことを思いながら会話を続ける。駿夜と光助が雑談をしている間に予鈴が鳴り響いた。予鈴と同時に周りのクラスメイトも着席し始める。



「予鈴か。じゃあ駿夜くん、また後でね」



そう言う光助に手を挙げることで駿夜は答えた。立ち去った光助と入れ替わるように、駿夜の隣席の主が席についた。高校の指定鞄を手にしているところを見るに今登校してきたようだ。


駿夜はその人物を思わず見つめる。すると視線に気づいたのか彼女は駿夜に話しかけてきた。



「・・・何?」


「いや、別に」



そう答えた駿夜はすぐさま彼女とは反対方向である窓の外へ視線を移した。すると彼女はそれ以上追及せずに自分の席に着いた。


その女子生徒の名前は加賀谷夏目(かがや なつめ)。駿夜が一年の時から同じクラスの女子生徒だ。駿夜と同じく周囲から孤立しており、積極的にコミニュケーションを取ろうとしない加賀谷には、駿夜が見る限り友人と呼べる存在が一人も居なかった。

しかし、駿夜は周囲から敬遠された結果、孤立しているだけだが彼女は違う。自ら周囲に壁を作り、周りを寄せ付けようとしないのだ。容姿が整っていることもあり最初のうちは男女から声をかけられたりしていたが、一月もする頃にはあまりに取りつく島の無い彼女に周囲は関わることを止めた。


それが、加賀谷 夏目とういう少女が孤立した事の顛末だ。


故に、彼女はちょっとした有名人であり、いくら周囲と関わりのない駿夜でも彼女のことは知っていた。



(加賀谷か。初めて喋った気がするな)



窓の外を見ながら、駿夜はそんなことを考えていた。


不意に、ガラリと教室のドアが開く音がした。その音を聞き、駿夜はドアに顔を向ける。どうやら担任が入って来たようで、教室のザワザワとした話声は無くなり、水を打ったかのような静けさに変貌した。



「おはようございます。それでは早速ですが、体育館に向かいましょうか」



担任の一言を受け、クラスの全員が立ち上がり移動を開始した。



# # # # # # # # # # # #



ほどなくして移動が終わり、体育館に入ると駿夜達はあてがわれた席へと着く。二、三年生全員が席に着いたことを確認した教師が前に立つ。



「えー、静かに。それでは新入生の入場です」



教師の声を合図に扉が開き、新入生が体育館へと足を踏み入れる。少しばかり緊張しているように見えるのは駿夜の気のせいではないだろう。



(何を緊張する事があるのだか・・・)



ただの恒例行事。何かあるわけでも、この儀式を行うことで変わるわけでもない。形式上こなさなければならないだけの退屈な時間。入学式に対してそのような感情しか持ち合わせていない駿夜は欠伸をかみ殺す。



(・・・早く終わらないものか)



人というものは退屈な時間ほど長く感じるものである。おそらく、駿夜と同じ感情を抱いている同学年の生徒が多くいるだろう。しかし、そんな退屈を持て余している二、三年生の間でざわめきが起きる。そのざわめきを聞き、退屈すぎて船を漕いでいた駿夜も前を見た。


そこには壇上に立つ一人の少女がいた。



「暖かな春の訪れと共に――――」



そんなお手本じみた言葉で少女は話し始めた。内容から察するに新入生代表の挨拶だろう。少女の挨拶は堂々としたもので、他の新入生と違いまるで緊張というものが感じられなかった。



(・・・なるほど。ざわめきが起こるわけだ)



先ほどのざわめき。恐らくは少女の容姿に対するのもだと駿夜は判断した。


その少女の容姿は整っていて、もしアイドルか何かだと言われても疑いはしないだろう。少なくとも、駿夜が今まであった女性の中で一番整った容姿であることは間違いなかった。



(その上成績優秀ときたもんだ。・・・全く。この学校は容姿端麗、頭脳明晰な人物を毎年一人は入れないと気が済まないのか?)



昨年。


新入生代表の挨拶をした光助のことを思い出し、疑問に思う。



ここ谷津名高校は入試の筆記試験で1番の成績を修めたものに新入生代表の挨拶を頼むしきたりがある。つまり、壇上で挨拶をしている少女は入試にトップで合格したということだ。



超難関校とは言わずとも進学校として並以上の成績が求められる谷津名高校でトップの成績を取ることは容易ではない。



(どの学年にもいるもんだな。光助みたいなやつは)



「新入生代表、天野(アマノ) (メグミ)



挨拶が終わり、少女が一礼してをして顔を上げた時、駿夜は目が合ったような気がした。



ドキリと心臓が高鳴る。


だが、そんな駿夜をよそに少女は何食わぬ顔で壇上を後にした。心臓が落ち着き、駿夜は自虐的な笑みを浮かべる。



(自意識過剰すぎだろ。ただこっちを見ただけだ)



少しばかり気を落としている自分に眉を顰め、自分も男なんだなと客観的に思い、また目を閉じた。



# # # # # # # # # # # #




「新入生退場」



そんなマイク越しの声を目覚ましに駿夜は目を開ける。どうやら式の終了まで眠っていたようだった。


退場する1年生を一瞥しながら、形だけの拍手を送る。1年生が退場を終えると駿夜たち上級生も立ち上がり、体育館を後にした。



帰り際、駿夜は肩に手をかけられ、後を振り返る。そこには光助がいた。



「や、駿夜くん」


「ああ、どうかしたか?」


「爆睡してたね。相変わらずというか・・・起きとかないとダメだよ」


言われるだろうとは思っていた言葉に、相変わらずはどっちだ、などと心の中で返す。



「いや、ちゃんと途中で起きたぞ」


「え?」


「新入生代表の挨拶のところだ」



駿夜がそう答えると、光助は納得したようにああ、と洩らした。



「確かに、あの時ザワついたもんね。それにしても可愛いかったね、あの新入生代表の子」


「ああ。この学校は毎年一人は容姿端麗、成績優秀な生徒を入れないと気がすまないと確信した」


「・・・あの、それって俺も含まれてるの?」



常日頃から駿夜にイケメンと言われ、昨年新入生代表の挨拶をした光助は、顔を引き攣らせながら駿夜を見た。その問いにさも当然、といった感じで駿夜は頷く。



「成績は悪くないけど・・・。容姿がそこまで整ってるとも思わないけどなぁ」


「もしそう思うなら都会の駅前を闊歩してみろよ。十歩も歩けばスカウトに声を掛けられるから。そしてそのうち光助が歩けばスカウトにあたる、っていうことわざが誕生するぞ」


「それはヤだな・・・」



そんなたわいもない会話を続けながら、駿夜と光助は教室への帰路を歩く。その最中、前方に先ほど壇上で見た顔が見えた。



「お? 噂をすればだ」


「え? ああ、さっきの・・・」



先ほど壇上にて新入生代表の挨拶を行い注目を一身に浴びた女子生徒の姿が見えた。駿夜達は共に歩きながら横目でその女子生徒、天野 恵を見やる。すると、天野はその視線に気付いたのか、駿夜達の方を見るとニコリとほほ笑んだ。その仕草に、駿夜の心臓は再び高鳴る。


「・・・」


「駿夜くん、知り合い?」


「いや、この学校にいる僕の知り合いは光助くらいだ」


「・・・そんな断言しなくても」


事実だからな、と駿夜は返しながら素知らぬ顔で道を進む。光助の知り合いでもないとすれば自分たちに笑いかけたのではないだろう、駿夜はそう結論付けた。



# # # # # # # # # # # #




教室に戻り、いつもの席に着く。クラスメイト、といっても男子だが、聞こえてくる会話は先ほど新入生代表の挨拶を行った天野の事で持ち切りだ。そんな男子を女子は冷ややかな目で見ていた。



「はは、凄い人気だね」


「だな。まぁ、仕方ないんじゃないか?」



いつものように話しかけてくる光助に対し、駿夜は相槌を打つ。



「やっぱり光助も付き合うなら可愛い方がいいか?」


「うーん、いや。容姿はあまり気にしてないかな・・・。一緒にいて楽しい人がいいよね」


「そのセリフを嘘以外で言える奴はお前以外いないだろうな・・・」



駿夜の質問に、目を光らせていた女子勢が安堵の息を吐く。



「まぁ、今のセリフで今後の光助の苦労が2倍ほど増えたが・・・。頑張ってくれ」


「ん? どうして?」


「容姿に自信が持てなかった女子からの猛アタックが増えるってことさ」


「・・・俺よりもいい人なんて沢山いると思うけどね」



自分を卑下した良い方をする光助に、駿夜は呆れたような口調で言う。



「いい加減に認めろよ。イケメン完璧超人が。あんまり謙遜してるとイラついた平凡代表から刺されるぞ」


「俺の中で容疑者が固まったんだけど・・・」


「そうか。なら話は早い。刺すぞ」


「やっぱり駿夜くんじゃないか。まぁ、冗談は置いといて」


「え?」


「・・・本気だったんだね」



そんな冗談を交えて会話をしていると、加賀谷が席に着き本を読み始めた。



「やぁ、加賀谷さん。おはよう」


「・・・おはよ」



ちらと光助の方を見て、そのまま本に目を落とす。



「何の本を読んでるの?」


「・・・シッダールタ」


「ヘッセか・・・。いい本だよね、それ」



加賀谷が誰かと会話しているのという状況に、クラスメイトは新入生の話題を止め、こちらに意識が向いていた。


確かに、ヘッセという名前は知っているが、何を書いたのかと聞かれれば即答は難しい。


端々に散らばる頭脳の明晰さに、駿夜は半眼で二人を見ていた。



「しかも原文かぁ。加賀谷さん、ドイツ語読めるんだね」


「少しね」


「まぁ、翻訳されている文章よりも著者の伝えたかった事が理解出来るから、原文を読むのが一番いいよね」



光助と加賀谷は日常会話のつもりだろうが、内容はそれとはかなりかけ離れている。



(・・・ヘッセのドイツ語原文を読んでる高校生なんてどこにもいないと思うが)



駿夜の心中の呟きは最もだと言えた。



「あ、ごめんね。邪魔しちゃったよね」


「別に」



そこで加賀谷と光助の会話は終わり、光助も駿夜の方を向く。



「・・・お前、ドイツ語も読めるのか?」


「日常会話程度ならね」


「英語も話せなかったか?」


「英語もまぁ、そうだね。普通に話すくらいなら出来ると思うけど」



以前、道に迷っている外国人に対して、光助が流暢な英語で案内をしていた場面に遭遇したこと事を、駿夜は思い出した。



「でも、駿夜くん程は話せないよ」


「僕はイギリスに居たから話せるだけだ。日本に居ながらそこまで話せるなら凄いと思うがな」



そんな会話をしていると、担任が教室に入ってきた。それを合図に駿夜たちは話すのを止め、光助は席に着いた。



# # # # # # # # # # # #



1日おける授業の全てが終了し、特に何事もなくショートホームルームも終わる。



「よし、それじゃ気を付けて帰れよ」



担任のその声で駿夜は席を立つ。



「駿夜くん、帰りに本屋寄ろうよ。買いたい本があるんだ」


「あー、悪いな。今日は・・・」


「あ、そっか。今日は10日だったね。うん、わかった。じゃあまた明日」


「ああ、またな」



いつもは光助の誘いを断ったりしない駿夜だが、毎月10日だけはその限りではない。



学校から帰る途中、花屋に寄った駿夜は、そのままの足で墓地へと向かう。今日は駿夜の両親が亡くなった月命日だ。


駿夜の両親が亡くなったのは、駿夜たち一家が日本に来て3年目のことだった。


駿夜は母方の祖父母の家に預けら、両親で外出した際、事故にあった。当時、小学3年生だった駿夜はそのまま、祖父母に引き取られた。


小中と祖父母の家で暮らしいた。高校生になり、自分で生活が出来るようになってからは、日本に来てから3年間家族で暮らした家が残っていたこともあり、そちらに戻ってきた。両親が生前に残していた貯金もあり、自立するまでの金銭的問題も無かった。駿夜たっての希望で、元の家で暮らすことに祖父母も駿夜の一人暮らしを了承した。



墓地に着き、花を添える。そして合掌した駿夜は1分ほど目を閉じた。


目を開き、墓石を見る。


『榮守家之墓』



「毎回思うが・・・親父はイギリス人だろうに」



純外国人の父親が、母親方の墓に入っている事に毎回、酷く違和感を覚えた。



「今日は入学式だった。毎回思うが、あれは別に在学生が出席しなくてもいいと思うんだが。まぁ、しかたないよな。ああ、それと今年も光助と同じクラスだったよ」



その声は誰に聞かれるわけでもなく、虚空へと吸い込まれていく。

これは“会話”なのだ。幼い頃に二度と会えなくなった両親との唯一の会話。

それが例え、一方通行だったとしても。



「・・・もうこんな時間か。そろそろ帰るよ」



辺りを見渡せば、日が沈みそうになっていた。駿夜は、夕日が差し、赤く染まった墓石にそう告げ、墓地を後にした。



「・・・」



その後姿を無遠慮に見つめる視線には気付かないまま。



# # # # # # # # # # # #



帰路を歩いて帰り、家の近くに着く頃にはすっかり日も落ちてしまっていた。

普段ならば光助と一緒の帰り道だが、この日ばかりは一人だ。そのせいもあってか、少しだけ気分が沈むのはいつものことだ。



「ただいま」



家に帰ると、いつも言っている常套句を発する。

いつものように、返事など返ってくる筈もなく、虚しく空っぽの家に響くだけだ。



だが。


この日ばかりは違っていた。



リビングの扉を開けた瞬間だった。



「おかえりなさい」



帰ってくるはずのない“おかえり”が帰ってきたのだ。


駿夜は目を見開く。


それはそうだ。駿夜は子供でも楽観主義者でもない。

家族が生き返ったなどという結論には至らない。


若い女の声。


様々な憶測が脳内で飛び交うが、意を決して声が聞こえた方へ視線を巡らせる。



そこにいたのは、今日で嫌というほど脳裏に焼きついた人物だった。



「天野、恵・・・?」


「はじめまして、榮守先輩」



ニコリと微笑む彼女の笑顔を見た駿夜は、初めて見た時の胸の高鳴りとは別の意味で脈拍が早くなる。



「ど、どうしてここに・・・。いや、その前にどうやって入った!?」


「あはは、そんな一遍に聞かれても答えられませんよ。そうですね、まずは後者から答えましょう」



そう言う天野は指をひとつ立てた。



「どうやって入ったか、については神の奇跡で、と答えましょう」


「神の・・・奇跡・・・?」


「はい。私は神の使いなので」



頭が展開についていけず、混乱する駿夜。天野は神の奇跡でこの家に侵入したと言った。

無神論者ではない駿夜は神や悪魔の存在を信じてはいる。しかし、目の当たりにすることはないだろうという確固たる考えのもとだ。


それが目の前の存在はその一端だと言う。


しかし、急に言われてじゃあ目の前の天野が神の使いであることを信じるか否かと言われれば、答えは否だ。



急に非現実めいたことを話す天野に、駿夜は冷静さを取り戻す。



一般的な常識人ならば、彼女の言うことは妄言でしかなく、精神的に病を患っているとしか思わないだろう。そして、駿夜もその類だ。



「・・・取り敢えず、どうやって入ったかは知らないけど、不法侵入だぞ。これは立派な犯罪だ。通報させてもらう」


「ええ、この世界に降りた時に一通り知識として脳内に入れました。日本国の法規、刑法13章第130条に属する罪のことですね」


「・・・それが本当かどうかは今から来てくれる警察にでも聞けばいい」



駿夜は受話器を取り、110というダイヤルを押す。



「それは面倒なことになりそうなので辞めていただけませんか? 私も出来うる限り摘む命は減らしたいのです」



そんな彼女の言い分を聞かず、数回の呼び出し音の後、受話器の向こうで電話に出た音がする。



「もしもし、警察ですか? 今家に――――――」


『そういえば、前者の質問に答えてませんでしたね』


「―――――ッ!?」



しかし、受話器の向こうから聞こえたのは天野の声だった。

駿夜は受話器を手放し、電話から飛び退いた。


ガチャッと音を立て受話器が落ちる。

その音を最後にリビングは静寂が支配した。


駿夜はまるで壊れたオモチャのようにゆっくりと天野のほうを見た。


そこにいるのは、最初と全く違わず微笑を貼り付けた彼女。


それが更に駿夜の恐怖を掻き立てた。



「なん、なんだ・・・お前・・・」


「だから、言ってるじゃないですか。神の使いだって。それでですね、榮守先輩。さっきの質問に戻りますが」



その台詞とともに、駿夜の視界から天野の姿が消えた。



「・・・え?」


「前者の何をしにきたんだ、という質問ですが」



消えた筈の天野の声が背後から聞こえ、駿夜は振り返る。






「榮守 駿夜。貴方を断罪、抹殺しに来ました」







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ