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人間嫌いの魔人間と脳内嫁の聖女  作者: めんどくさがり
8.魔王のおしごと
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六十八柱目 日の出づる中津国・下

 夕飯をご馳走になり、まさに至れり尽くせり。

 ただ寝れる場所さえ確保できれば御の字だったが、ここまでの待遇を受けられるとは。たまには脅迫から進める交渉もいいかもしれない。


「遅いな。リステア」


 そして、今日はもうあとは寝るだけ。

 広い畳の部屋に布団を敷いて、準備万端というところなのだが。

 リステアが厠から帰ってこない。リムルも居ない。


 そして、代わりに来たのは狐だった。


「当然じゃ。二人には違う部屋を案内してあるからのう。それにこの和室には結界を張ってある。邪魔者は現れようも無い」


 浴衣がはだけ、白い肩と見事な房が目の前に吊り下げられる。

 華奢な手が体を這い、俺を優しく押し倒す。


「これから友好を築こうというのにこんなこと、あってはならないのは承知……しかし、どうにもお主の体が目に焼きついてしまって、体の奥底から燻って仕方が無い」

「いや、しかし……」

「頼むレクト、友好の証として、このやり場の無いほとの火照りを沈めてはくれまいか」

「それは……」


 その姿はまるで、肉を貪らんとする植えた獣か。

 あるいは、たまらぬ疼きに腰を振る雌猫のよう。


 荒い吐息が伝わって、こちらの息と混ざり合う。

 みずみずしい唇が少しずつ近づき、先に大きな房が俺の胸の上で、柔らかい感触と共に形を変える。

 熱い吐息、熱い身体、熱い視線、熱い舌先。


 仕方ない。そこまで求められては仕方ない。

 据え膳食わねばなんとやらというし、女に恥をかかせてはいけないという。

 なら仕方ない。このたわわに実る乳の房、肉欲の熱に身もだえする女性を放って置けようか。

 友好というならば、救ってやらねば嘘と言うもの。


 色の芳香が鼻をくすぐる。

 潤む瞳が痺れさせる。

 手の平に吸い付くような柔らかな背、肩、胸、首、肌、肌……。


 だが、それならば。

 俺の罪業の深さ、たっぷりと味わってもらうとしよう。






 夜が明ける。

 長く激しい戦いは終わった。


「狐、動きにくい。食いにくい」

「あん、待ってくれレクト。妾はもうお主なしでは生きていけぬ! いっそ連れて帰ってくれてもかまわんのじゃぞ? ほれ、あーん」


 肉じゃがを箸で摘んで差し出される。


「リムル、もしかして炊き付けたか?」

「私はなんもしてねーよ! 私はお前の嫁と一緒に高みの見物さ」

「り、リステア?」

「私はリムルからある程度の話を聞いただけです。それに現地妻というのも居て悪くは無いかと。それが一勢力の首魁なら、なおのこと」


 つまり、リステアさえもこれまでどおり、妖怪狐をハーレム要員に加えても良いと言う。

 フェチシアが気の毒でならない。


「そりゃそうなるよなぁ。超一級のサキュバスに鍛えられてきたんだもんなぁ」

「フェチシアもたまには役に立つ、か」

「なんじゃ、他にも女を抱えているのか? まあお前ほどの手腕の持ち主ならば、酒池肉林の一つや二つ持ってても不思議ではない……」


 いや、不思議だわ。

 リステアだけで十分だったのに、どうしてこうなったんだろうな。

 まあ、今更どうでもいいけど……。


「なんでもいいから、普通に飯を食わせてくれ」


 朝食を終えて、改めて情報を提供してもらった。

 この寺は鬼の勢力と妖獣、妖人の郷を隔てるための万里の長城的な役割を担う場所らしい。

 結界が張られており、寺の狐と神社の神主が管理をしているという。

 

 ここは道を外れた者たちの地。

 鬼でありながら角を持たぬ者。

 蟲でありながら理性を持つ者。

 獣でありながら主を求める者。

 人でありながら妖と繋がる者。


「レクト、もはや私はお主の飼い狐じゃ。よく愛で、よく躾け、よく愛でるが良いぞ」


 妖怪狐がペットになった。

 まあ、懐いてくれるというなら問題ない。中々具合も良かったし。


「それで相棒、これからどうする?」

「人里に行く。俺たちがやることは、結局布教活動だ。相手は多ければ多いほどいい」

「のじゃ。そういうことなら一度集落の方に下り、東に向かえば神社に当たる。神社は人里にとっては妖魔を封印し押し留める番人であり、そういう体で争いが起こらぬよう調節する者であり、また荒神を使役し、加護によって害なす妖魔を駆逐する猟師でもある」


 神主……荒神使いか。悪魔と契約するスタイルのこっちとでは相容れないだろうな。

 正教のようにこちらの存在を不都合に思うに違いない。やっぱもう帰りたい。


「レクト、もうひと踏ん張りです。頑張りましょう」

「怠惰だし頑張りたくないんだけどな……」

「では、この仕事を終えたらご褒美をあげましょう」

「ほう、ご褒美……?」

「ええ。とても素敵な、病み付きになってしまうようなご褒美を……どうですか?」


 リステアも中々、釣り得の仕掛け方が巧みになってきたな。


「さっさと終わらせて帰る」

「その意気です。レクトなら必ずやり遂げられます」

「妾の助けが必要ならいつでも声をかけるんじゃぞ? お代は一晩でよいからな……?」


 妖しく光る狐の眼光に苦笑で返し、俺たちは寺を後にして集落へと下りる。

 とりあえず、狐にはガイドをしてもらうことにした。昨夜の分を此処で使わせてもらう。


 そこはあまりに牧歌的で、自然に溢れ、誰も彼もが親しげに接する田舎の原風景が広がっていた。

 蟲や獣の妖怪は、妖人の作る作物を荒らす害獣を駆除がてら胃袋に収め、豊かに育った作物の一部は礼として献上される。

 上半身が女体で下半身が蜘蛛のジョロウグモ。

 下半身が蛇のアオダイショウ。

 両手が鎌になっているカマキリ娘。

 蟲の妖怪は皆、人間の身体を一部とはいえ持っていた。

 なるほど、これが理由か。


 この地に集うものは皆、どこかしらに人間の部位を持っている。

 人から半妖になった者、妖怪でありながら人の身が混じった者。

 純正な者たちから異質、異形とされ、遠く逃れて放浪の果て、辿り着いたのがこの半人半妖の地。


 彼らの経歴のすべては、大体そんな感じで似たり寄ったりだという。

 半人半妖、妖獣戯画。ここは妖し混じるる者のさと


 恐らく俺たちだけで出歩けば不審がられ、トラブルの一つも起きただろうが。

 狐が付いて来たおかげでそうなることもなく、リムルは不満そうだった。


 ド田舎集落を東に進むと、更に田舎感が立ち上る丘の上。木々が鬱蒼と生い茂る坂に敷かれた石階段を上ると、そこには立派な鳥居があった。

 奥の境内は両脇に狛犬を抱え、最奥の賽銭箱の上に巫女がいる。


「まーたサボりじゃな。ゆいの巫女?」

「営業時間外ですよ不浄の狐。変な病気を神社に持ち込まないでくれますか」


 それは一種のブラックジョークを交えた挨拶なのだろうか。

 それとも俺たちを病気に例えた、俺たちに対する皮肉なのだろうか。


「相変わらずツンケンしとるなゆい。そんなんでは嫁の貰い手も見つからなかろう」

「そうですね。恐らく私の代でこの神社も締めです。そろそろ外国でいい男を捕まえるのもいいかもしれませんね」

「お、お主は本当にクールじゃな……紹介しようレクト。この生意気な娘がこの神社の巫女じゃ。それでそっちの……」


 ふと見ると、巫女の背後に何者かが立っていた。

 その形相は無表情の怒りに満ち溢れていて、冷たい刃のように見る者をぞっとさせる。


「掃除を怠ける上、お客様に対して無礼な口の聞き方。そして何よりこの神社の侮辱と来ましたか」


 それに驚き、身体が飛び跳ねる結いの巫女。

 先ほどまでの毒舌クールキャラがどこかへ吹き飛んでいった。


「か、母様かあさま!?」

「仕事中は神主様と呼ぶようにと何度言えば理解するの……まあいいわ。お客様の手前、摂関は後にしましょう。ようこそ、玉露様」


 この狐、玉露っていうんだ。初めて知った。


「相変わらずお前も硬いのう……もうちょっとふれんどりぃになれぬのか?」

「ご勘弁ください。神を祭る者として、稲荷様と対等に語らうなど……そちらの方々は例の?」

「そっ、西の異邦の民じゃ。なんぞ此処と同じようなことをしておるらしい」


 魔境もここも、確かに似たようなものでは在るが。

 ちなみに俺が留守の時はドラグヌスに管理を任せている。アレならレクスでもそう簡単には倒せないだろうから、治安維持としてああいう強力な個はありがたい。


「魔境王レクトだ。よろしく」

「私は麗玄明れいげんあきら。この神社の神主をしております」

「麗玄、神主……なるほど」


 やや長い黒髪に鋭い瞳、高い鼻筋と端整な顔立ち。

 非の打ち所の無い冷血漢イケメンだ。

 狐がどうして神社と提携したのかなんとなく察しが付く。


「こちらは娘のゆい不出来な娘ではございますが、どうぞよろしくしてやってください」

「どうも」


 自己紹介が済んだところで、狐も交えて本題に入る。

 そして、予想通りの返答を貰う。


「ダメです」

「ダメかー」


 きっぱりと断られてしまった。


「我々は神を奉る者。悪魔と友好を築くのは難しいでしょう」

「いやでも悪魔って勝手に名づけられただけだし……それに正教からしたらこっちだって悪魔だの邪教だの呼ばれるし同じじゃないか」

「確かにその点はそうでしょう。しかし、単純に異邦の悪魔という存在を信用できない。天狗と和解し、鬼と屈服させ、そのうえ妖獣とさえ友好を結ぶ。その節操のなさでは、いつこちらの寝首をかかれることか」


 こちらのやり方がアレなので、不信感を抱かれるのも不思議ではないとは思っていた。

 妖怪の類は力があるので、不信感というものを抱くほど怖れることを知らない。

 しかし人間は弱い。彼らとて神の力を借りてはいるが、自身が無力な人間であることに変わりは無い。


 自分たちは弱いから、強い奴らを警戒する。まったくもって自然な疑心だ。

 しかも誰にでも力を貸すというやり口だから、余計に信用を得にくい。


「まあ、無理にとは言わない。天狗はぶっちゃけ余計な敵を増やさないために友好を結んだだけだろうし、鬼は結果的にこちらが支配権を得ただけ。妖獣は元々そちらと協力関係、そしてそちらには荒神がいるから悪魔は必要ない……そういうことだな」

「ええ。半妖の方々もこちらに協力してくださるので、端的に言って、貴方がたは不要です。また、そのような和を乱すそちらの性質は、人里の者らからは酷く忌避されるでしょう。この辺りで引き返したほうがよろしい」

「んー、まあそうじゃな。ここの人間は不和を嫌う。誰に力を貸すか分からん悪魔などという存在を受け入れるとは思えん」


 神ならいいのかよと思ったが、まあ神様の判断なら間違いないだろうみたいな感覚なんだろうな。

 力を授けるのもごく少数だろうし、色々査定するのかもしれないし。

 それに比べて悪魔と来たら、欲深い奴とか、単純に気が合いそうな奴とか、とにかく面白そうとか適当な理由だからな。


「まあ、そういうことならしょうがない。押し売り業者じゃないからな、大人しく引き下がりますよ」

「ぬぅ、仕方ない。こればかりは妾もどうしようもない」

「まあ、島流し先にでも使ってくれれば幸いだ。とりあえず玉露、もう一泊させてくれ」

「それはいくらでも頼ってくれて良いぞ! なんなら一年くらいどうじゃ?」

「そう長く留守にしておけるような場所じゃないからな、あそこは」


 二泊三日がせいぜいだ。

 あの場所は波乱と万丈の舞台。満たすべき欲望と、果たすべき願望がぶつかり合う闘技場なのだから。

 油断してるとすぐに小火騒ぎ、放置してたら焼け野原になりかねない。


 というわけで、俺たちは玉露の寺にもう一泊することになった。





 田舎というと魔境も大概なのだが、今となっては色々と発展している。


「田舎は飽きるなぁ……」

「私はレクトと一緒ならどこでも幸せです」

「いや、それは俺もそうだ。リステアと一緒なら……でも今まで刺激三昧の日常を送ってきたからな。誰かのせいで」

「いやぁ! 妖獣ってのもなかなか可愛げがあっていいな! 相棒、一匹もって帰らないか?」


 リムルは本当に自由だな。こんな田舎でも良く楽しめる。


「ただなぁ、ちょっと蟲が多いのがウザいなぁ。なんかめっちゃ刺されたぞ」

「刺された? 毒とか注入されてないか?」

「悪魔に毒は効かねーさ」


 毒のある魔物というのはあまりいない。

 魔物は基本的に捕食を目的としている上に脳筋で、毒なんて考えに至らない。


 が、この辺りは毒蟲が基本らしい。痒い、痛い、熱い、辛い、苦しい、多様な毒で、多様に殺す。

 まあ、悪魔は死なないし、魔人間はそうそう死なない。リステアもホーリネスな力で解毒できる。


 だから心配は要らないはずだ。


「毒蟲に刺されたって本当!?」

「いや誰だよ」


 襖が乱暴に開け放たれる。

 来訪したのは一人の乙女、ついさっき見たばかりの巫女だった。


「えーっと、お嬢さんは確か結いの巫女?」

「麗玄結よ。それより、毒蟲に刺されたんでしょう!? はやく見せて!」

「いや、悪魔は毒効かない」

「いいから早く!」


 強引に押し切られ、リムルは結に蟲に刺された場所を見せる。


「あ、あれ? 跡が無いけど……?」

「悪魔は頑丈だからな。蟲刺され程度の傷なんて抜いた瞬間に治るし、毒なんて効かない!」

「へぇ……悪魔ってすごいのね。妖怪だって毒くらい効くのに」

「妖怪も存外脆いんだなぁ」

「で、なんで巫女が寺に居るんだ? 出家?」

「出家というより、家出よね」


 ほう、年頃の乙女が家出とな。

 しかもこんな悪魔の眷属が蔓延る巣窟に転がり込むとは。


「チッ、恩義を売ってごり押そうと思ったのに……」


 出てる。黒い表情が出てますよ巫女さん。

 しかし、家出の上にこちらに恩義を売ろうとする企み……面白そうな匂いがする。リムルも目でこちらに合図を送っているし、間違いない。


「恩を売る理由があるというなら、売られてやらないこともない」

「えっ?」

「なに、お代は面白さで結構。悪魔の助力が欲しいというなら供物を吟味し、素質を見極め、最適な協力を約束しましょうとも、麗玄結」


 呆気に取られていた結だが、それならばと顔を引き締め、するりと畳の上に正座する。


「では大いなる魔性にして業魔ごうまの御方、どうか私の願いをお聞き届けください」





 とある乙女は、己の使命に嫌気が差していた。

 場所は東方の田舎集落と都の狭間。霊峰連なる山脈の一角、そこにあるは数ある神社のうちの一つ。

 そこに生まれた乙女は、境界を紡ぎ結うては人を守りし使命を負う者。

 親は神主ただ一人。母親は幼くして乙女の代わりに命を落とした。男手一つで育てられた一人の巫女。


 百鬼夜行が跳梁跋扈するこの地にて、彼女が人生は定まりきっていた。

 子々を孫々と永らえて、結なる界の術を伝える一人となって、この地に骨を埋める。

 それが結いの巫女に与えられた、ただひとつにして絶対の理であった。


 しかし、彼女は思うのだ。

 自分がそこまでするほどの、価値が人にあるものかと。


 東に住まうは数多き人。しかしこの山奥に住まうは妖人と迫害された者たち。

 人を害する妖怪を幾度か討った力ある者。しかし妖怪混じるがゆえに、常人より忌避された悲しき人たちである。

 しかして、この地の者たちは東の人を憎むことすらしない。

 自分がどれだけ人を守ろうと、彼らは彼らの理不尽に立ち向かおうとしない。

 そのなんと不公平なことかと、なんと救いようの無い怠惰さであろうかと。


 妖怪と戦うために、自ら選び取った妖怪あやかしの力。

 しかし、自分の結の力は初めからあったもの。ただの少女として生きることを許されない呪いにも似て忌まわしい。

 恩人を迫害する東の人を、迫害に抗いもしない妖人を、この骨身を犠牲にして守りたいなどと思えない。


 忌まわしい力、忌まわしい使命は、巫女から乙女としての人生を奪った。

 この地と人々を捨てて逃れ逃れて、どうか自由を手に入れられたなら、きっと幸福になりたいと。


 それが願い。東方の地に生まれし巫女の、乙女としての願いであった。


 そういうわけで、俺は彼女の脱出に手を貸したわけだ。


 何のことは無い。彼女は俺たちとともに鬼の縄張りと天狗の領地を抜け、同じ船に乗るだけ。

 魔境へと到着すれば、彼女は晴れて魔境の一員。愉快で残酷な自由を手にすることが出来る。


 ゆらりゆらりと小船の上、巫女は……乙女は離れゆく故郷を眺めていた。


「どうした、やっぱり戻りたいか?」

「そんなわけないでしょ。私は私のために生きるの。誰かのためでも、妖怪を討つためではなく、私が私のために生きるために、生きたいの」

「ああ、それでいい。それでこそだとも、素晴らしき人よ」


 俺は素直に感心していた。

 あの閉塞した環境の中で、これほどのバイタリティ溢れる奴が居ようとは。

 一人残された神主は途方に暮れているだろうが、それはそれ。人生とはそういうものだ。


 人に運命を押し付ける者に待ち受ける運命も、やはり残酷なものへと成り果てるが道理。


「でも本当にいいのか?」

「しつこい。魔境がひどい所だって言うのもさんざん聞いたけど、悪魔にとっては私の力こそひどい代物だってことは分かったでしょ?」


 リムルがお得意の腕試し、リムルは完全に舐めきっていた。

 田舎娘の跳ねっ返りと侮って、見事に殺された。今日一日は寝たきりだろう。


「しかしなるほど、考えてみれば不思議じゃない。正教は各地から聖女を集めていたという」

「はい、シーニーは北国、シェンファは東の国……そういえばシェンファは東の国のどこ出身だったんだ?」

「都の方だったかと。田舎のことはあまり知らないらしく、詳しい話は聞けませんでしたが」

「これは、色々と楽しみだな」


 この世界でも、日は東から昇り、西に沈む。

 日の出づる国から旅立ち、小船は沈み往く日と共に進む。


 人生のイベントなんていうのは存外に呆気ないものだ。

 期待し、落胆し、棚から牡丹餅。

 くらい魔境、一寸先は闇だが、立ちはだかる全てが呆気ないものだ。

 結のバイタリティならなんの問題もないだろう。


「なんですか、気持ち悪い」

「いや、なんでも。まあ精々楽しんでってくれ」


 こうして、挨拶がてら魔境に新たな仲間が加わったのだった。

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