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人間嫌いの魔人間と脳内嫁の聖女  作者: めんどくさがり
6.社会不適合民隔離施設
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四十三と半柱目 傲慢の在り方<Pride>

 港町というからどんなもんかと身構えていたが、なんと洒落た白い街並み。

 青い海に対して坂のようになった地形に、白い建物が木々のようにそびえ立っている。

 海も碧く、空も蒼い。まさに絵に描いたような美しさがそこにあった。


「魔界じゃこんな景色はまず見れないな」

「空も魔力が濃くて紫色だし、海も赤いからなー」


 俺はアダマスと別れて、件の教会へと向かう途中だ。

 リステアは勿論、ショティとウィシュ、


 リムルは道の手すりに身を乗りだし気味にしながら、子供のようにはしゃいでいた。


「どうだ、調子は」

「おう、良い感じだぞ相棒」


 俺の目には間違いなくリムルが見えているが、実際リムルはそこには存在しない。

 なので会話も実際に声を発しているわけではなく、頭の中での妄想として発している。


 それにしても、今のリムルは妙に露出度が高い。

 あまりに攻めすぎな黒スカートからは、手すりに身を乗り出しているために白パンツがチラチラ見えているし、ノースリーブの服は意外と切り口が大きめで、発達途上の胸がチラチラと見え隠れして非常に扇情的すぎる。

 俺以外の人間には見えない。なぜならこれは俺の妄想だからだ。


「ふふん、バレバレだぞ相棒。熱い視線がモロバレだ」

「気付いているならなぜ隠さないのか。あれか。傲慢だから獣に裸を見られて恥ずかしがる女が居るか?とか言うつもりか」

「そんな奴を相棒とは呼ばんわ!」


 なぜこんなことをするのか心当たりは当然ある。

 とはいえ、どうしていきなりこのタイミングで攻めて来たのか分からない。

 始まりは、まだ列車に揺られて一眠りしていた時まで遡る。





 ふとした瞬間、気付けば目の前にリムルがいた。


「寝てるじゃねーか!」

「だって退屈だったんだもん」

「だもんってお前……キモいぞ」


 どうやらアダマスから歴史の話を聞いているうちに寝てしまったらしい。

 一睡すれば必ず一度はここに来る。ここは夢の中、妄想となった彼らの居場所。


 だが、今回はなぜか懐かしい光景が拡がっていた。


「ここは……」

「ここは私のテリトリーだ。さすがに悪魔にもプライベート空間は必要だからな。ちょっと区切った」

「人の心を勝手に区切るな。ていうか、これダクネシアのところの部屋だな」


 ダクネシアの城の一室にして、リムルの私室そのものだった。

 勝手に内装の模様替えまでしやがって。ブッキーは恐らく図書館チックになってるだろう。

 他はあまり想像したくない。


「お前を私のテリトリーに引き入れたのはな……その、ちょっと相談があってな」

「相談?」


 あの傲慢リムルが俺に相談とは。

 むしろ即決して俺を引っ張りまわしてくれる引率力はある意味怠惰な俺としてはありがたい時もあればクソ喰らえな時もあったが。

 今更になって、しかもこう改まって相談とは。

 よくよく見れば、きちんと小悪魔らしい尻尾と羽の生えた姿だ。露出度が多く、目のやり場に困る。


「リステアっていうのは、お前の妄想の中での嫁だったわけだよな」

「ああ、そうだな」

「で、私も今は妄想なんだよな?」

「まあ、そうだが」


 魔族が魔界から直で現実に顕現すれば、ほぼ間違いなく天使に察知される。

 リムルらは俺の妄想へと形を変化させることで、ギリギリ天使の目を誤魔化している。


「じゃあ、私もレクトの嫁になっても、問題ないわけだよな」

「さあ、どうだか……」

「そこは肯定しろ!」

「話が急すぎる。一体何を考えているんだお前は」


 リステアと会ってからというもの、なんだかんだ大人しいフェチシア。無欲な俺に強欲の扇情アシストをしてくれるクロ、そして物知りブッキー先生。

 上手くやっていけてると思ったが、そういえばリムルとは特に何もなかった。


 ベッドの上に座って足を揺らす小悪魔は、柄にもなく目を逸らしながら語り始めた。


「ほら、お前ももう妄想嫁と再会して、無事お楽しみしたわけだろ?」

「だからあれは……」

「いやそれはいいんだけどさ。でもこっちにはこっちの事情がある」

「事情……?」


 いかん、完全に忘れてるかもしれない。いや、聞き逃しているか、それとも単純にリムルが言ってないことも考えられる。


「私も色々考えたんだよ。リーリトがダクネシア側について、リルンも来て……そうなると私の立場が危うい」

「何の立場だよ」

「淫魔の娘としてに決まってるだろぉ!?」


 親の教育方針をぶち破って家出した娘としては、なるほど気まずいだろうな。


「もう関係ないだろ。ほとんど絶縁状態なんだから。というか傲慢がそんなこと気にしてどうする」

「傲慢だから気にするんだろ……とにかく、私はコレと決めた男の生気しか吸わねぇって決めてんの。だから、その……なっ?」

「そうだな。頑張ってくれ。俺も応援している。じゃあ俺は寝るから」


 椅子から立ち上がって扉に手をかけようとすると、万力のような力で引きとめられる。

 必死に抱きついてくるのがまた。


「た、頼むよレクト、お前は私の唯一の相棒じゃないかァッ……!」

「なこと言われたって、まずお前に対して恋愛感情がないってのッ……!」


 俺とて魔人間。それにここは元々俺の妄想空間だ。

 俺が力負けするはずが無い……のに、微動だにしないなコイツ。火事場の馬鹿力か。


「んだとォッ……じゃあ私の胸はともかく尻や太腿にすら興味が無いってのかァッ……!?」

「嫁がいるのにおいそれと他の女に手を出すわけないだろいい加減にしろ!」

「本妻から許可貰ってんダルォ!?」


 いい加減疲れてきた。なのにリムルはしぶとく体に絡み付いてくる。

 女性的な豊かな柔らかさより、少女や幼女特有の小柄と細身、そして未成熟ながら片鱗を見せる新鮮な柔さ。


「仕方ない。こうなれば無理矢理にでも……」

「分かった。とりあえず話し合おう」


 このままではジリ貧だ。俺は一旦部屋から出るのを諦め、リムルと向き合う。


「リムル、俺はお前とは相棒という形で今まで接してきた。間違ってもセフレや妾の候補としてではない」

「んなことは分かってる。でも私と釣り合う人間なんて、妄想嫁のために悪魔と契約する讃えるべき大馬鹿野郎のお前くらいなんだよ。コレを逃したら次はないんだ」


 リムルは俺とは違って、人間嫌いではない。むしろ好きな部類だ。

 それでもクソみたいな人間がいることは知っているし、だからこそこうして人間に対して選り好みすらしている。

 その傲慢さたるや、いっそ清清しいと思うほどだった。だが……。


「らしくないな」

「な、なんだよ」

「傲慢の小悪魔が、他者に怯えて俺に懇願するなんてらしくない。と言っている」

「あ?」


 さすが傲慢のリムル。こんな安い煽りに釣られるなんて。


「今のお前は俺の相棒なんかじゃない。俺が忌むべき人間と同じ、クソザコの類だ」

「テメェ……人が下手に出てりゃ、何調子乗ってんだよ」

「お前こそなんだ、傲慢の相棒だなんだと言っておきながら、この俺にそんな無様な姿を晒すなんて。それがお前のやり方か?」

「あッ!? もういっぺん言ってみろ!」


 ずかずかと迫り、俺の喉元に手を伸ばす。

 幼女の姿からは想像しがたい豪力が呼吸の邪魔をする。

 それでも俺は、少なくともこんな奴に体を許すわけには行かない。


「確かにリステアは、俺が他の女を抱くことを許すと言った。むしろ享楽を堪能するべきだと」

「じゃあ私とまぐわっても問題ねえだろ!」

「分からないかリムル。俺の大罪が何か忘れたか」

「回りくどい言い方してんじゃねえ!」


 強引に押されて、後頭部が扉に打ち付けられる。

 視界がブレるほどの衝撃と痛みだが、リムルから目を逸らすわけにはいかない。

 猛獣のような金色の瞳からくる視線を受け止めないわけには行かない。


「俺は愛欲の大罪を抱く魔人間で、そして傲慢のリムルの相棒だ。だが今のお前は傲慢さの欠片も無い。図々しさが微塵も無いぞ」

「半端な魔人間が、知った風にほざくな!」


 指が首の肉にめり込み、引き寄せられ、また扉に叩き付けられる。

 たったそれだけの動作で、全身が痺れ、呼吸が一瞬止まった。


「おっ……お前は、俺の相棒のリムルじゃない。今のお前は、悪魔ですらない」

「黙れよッ……!」


 唸るような、深い所から湧き上がる憎悪が向けられているようだ。

 地獄をも揺るがすのではないか、その低い声に、俺は不覚にもちびりそうになる。

 だが、駄目だ。ここは譲れない。


「この俺を……人間嫌いであるこの俺に対して、相棒と呼んだお前がそんなだなんて、魔神が許しても俺が許さねえよ」

「だから、テメェは何様だってんだよッ!」


 更に力を込めるリムルの手首を掴み、逆に胸ぐらを掴んで引き寄せる。


「耳をかっぽじってよく聞けよ。俺様はレクト。魔人間で、お前の相棒だ。それで、お前はなんだ?」

「なっ……」

「俺に悪魔の在り方を教えた傲慢のリムルが、どうしてへりくだって頼みごとなんぞ、クソザコ人間の真似事などしている」


 目を見開くリムル。

 驚いているのか。期待通りだと、さすが私の相棒だと言わないのか。

 利用するでもなく、餌で釣るでもなく、弱みを握るでもなく、乞食のように頼み込み、お情けを期待する弱者なのがお前の在り方か。


 そんなはずはない。俺を相棒と呼んだ悪魔が、俺に相棒と呼ばせたリムルがそんな者のはずがない。


「……ったく。この私より偉そうってどういうことだよ」

「リムル、俺は……」

「わぁーったよ!わぁーった! 認めるよ。さっきまでの私はどうかしてたな。だから手を離せ」


 断る理由もない。俺は手を離す。

 リムルは長い溜息を吐きながらベッドに戻って腰掛ける。


「あーあ、ったく。この傲慢のリムルに対して傲慢にも説教垂れるとはな。まったくなんて奴だ」

「アレが傲慢のリムルだっていうなら、俺はお前と組んでなかっただろうよ」

「だろうな、私もだよクソッタレ。……ってもねぇ」


 やはり、そう簡単には吹っ切れないらしい。

 俺も親との付き合い方には散々頭を悩ました記憶がある。


「いや、そっちじゃなくて。こう見えても私は割と本気でお前のことを気に入ってるんだぜ? 性的な意味で」

「それは……光栄だな」

「だから、もう見栄だの体裁だの、リーリトだのリルンだのはこの際置いておく。つまり、単刀直入に言うとだ」


 これだ。これが傲慢のリムル。こうでなくては。


「レクト、お前が心底気に入った。今からお前を抱いてやる。覚悟しろよ?」


 有無を言わせない自分勝手さ。そして上から目線。

 誰も侵せぬ厚顔無恥、地に堕ちぬ傲岸不遜、損なうこと無き天真傲慢。

 其はただ独り立つ者、大罪を背負う幼き姿の傑物にして怪物の魔物。


「満たしてやるぜ愛欲レクト

「まったく、愛おしいな傲慢リムル


 これがリムル。俺の右腕にして比類なき相棒だ。

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