十九柱目 敬虔なる邪教徒
いわゆる二章
魔人間になっても、寝起きが良くなるわけではない。
というより怠惰な俺は惰眠を貪り続けるのがもはや習性と化している。
「おい相棒、朝だぞ起きろ! リステア探すんだろ!」
魔本から響いてくるやかましい声が発したその名に、強引に意識を覚醒させられる。
目の乾燥に苦しみながらも、なんとかベッドから身を起こす。
ふと窓から差し込む光に目を盗られ、そこから見える青い空に思考が停止する。
「……あ、そっか。もう魔界じゃないんだな」
深い山中にある木造家屋の一室で目を醒ました俺は、ようやく全てを思い出した。
俺はすでに人間界に、リステアが居る世界に来ていた。
遡ること一昨日の夜。
「儀式が始まった。万事、予定通り……レクト、もう一度お前の敵となりうるものを覚えておけ」
玉座の間、中央に禍々しい紫色の光を放つ円陣。俺たちはその中に立つ。
俺の肉体は、九年目ではやや子供すぎて都合が悪いということで外見を先取りして成長、というよりは変化させた。16歳ほどの青年くらいだ。
リムルたちは一応は魔道具化している。
リムルの逆十字架を首にかけ、クロの羽根飾り胸に差し、ブッキーのベルト付き魔本を肩からかける。
ボーン産白骨の白刃、ガルゥの牙矛と爪矛の二振りに、フェチシアの……なんだこれ。
「それは魔道具化した私、性器具パッションピンクロー……」
「ダクネシア、続きを頼む」
「お前の敵となるであろう勢力は大別して三つ。一つは神を信奉する者。一つは他の悪魔に仕える邪教。そしてもう一つは……」
「分かってる。そいつは必ず俺の敵になるだろうな」
人間であるがゆえに、神どころか悪魔すら凌駕するその姿は、人間の完成形。それは俺の最も嫌いな在り方だろう。
「俺とリステアの邪魔をする奴は、なんであろうとぶち抜いてやる。お前にしてやったようにな」
「それでいい。だが我が野望と契約を忘れるな」
「ああ、ついでにやっとくよ。ちゃんとな」
陣の放つ光が一層強くなる。そろそろか。
「では往け、魔人間レクト。お前の存在を世界に刻め」
紫色の光が止んだ時には、場所は既に黒石で固められた玉座の間ではなく……
「……っと」
未だに紫の光の残滓が漂う中、玉座の間とそう変わりない部屋ではあるが、そこに居るのはダクネシアではない。
カリスマ薫り立つ魔王の漆黒はどこにもなく、どちらかといえば薄汚い黒装束の団体が、ずらりと整列していた。祈るように跪き、頭を垂れながら。
「おっ、おおっ、おおおおおおっっ!?」
「うおっ、なんだ急に大声を」
「遂に、遂にこの時がぁあああ!!」
大絶叫で大絶賛するのは、集団の先頭に居る、つまり最も俺との距離が近い人間。
彼は後ろを振り返り、大声で怒鳴る。
「なにをしているかッ! 早く供物を、貢物を用意せぇい!」
そして現れたのは、大量の果物や肉料理、それと美しい婦女乙女が四人。
「偉大なる我らが主様に捧げます」
その一言と共に黒衣を脱ぎ捨てる四人は、柔肌を晒して見せる。
そのうちの一人が、妙に懐かしく見覚えのある顔つきで、思わず呼びかけようとしてしまった。
「なっ、リステ……」
だが、その名を呼びきる前に口を噤む。
似ている。似ているが、違う。
魔人間であるがゆえか、悪魔と長く関わりつづけた為か分からないが、彼女はリステアではないと直感した。
それに確かに美人だが銀髪ではない。リステアがあの綺麗な銀髪を染めて隠すなんてことはありえない。
この邪教では銀髪は禁忌ということであれば話は変わるかもしれないが、そんな条件は無いはずだ。ちゃんと教典は読破したから間違いない。
それはそうと……
「あの、とりあえず服は着といてくれるか?」
黒髪の乙女はほぼ完璧なスタイルを誇示しつつ、立ち振る舞いは慎ましやかに淑女。
豊かに膨らみ、張りのある形に穢れなき白肌。
「よろしいのですか? もしかして、こういった趣向はお気に召しませんでしたか?」
「あー、ハーレム物は嫌いじゃないが、ちょっと事情があって……」
教典ではダクネシアはかつて四人の嫁を持ったという。
その名残として生贄には一年の間だけ四人の嫁が与えられるらしい。
だが残念ながら俺の嫁はリステアただ一人と決まっている。
ふと黒髪の右に居た、少し背の高い茶髪ショートの女性。
胸付きは外向き、大きさ極めて豊か、張り良し。股回り無駄なし。雰囲気は静、体格は動。
「私ども、精一杯尽くしますわ。たくさん練習致しましたので、何卒」
随分と夜伽に自信があるらしい。フリーなら簡単に流されていたところだが、それならフェチシアと会った時にもう終わってるよな。
まあいい。とりあえず現状確認より先に、この場を治めることから始めるか。
「先に一つ確認したいことがある。これを知っているか?」
俺はダクネシアから渡された黒曜石の鏡を取り出して見せる。魔力を込めると、黒く艶やかな鏡面から煙が這い出してくる。
それを見た一同が再び姿勢を硬直させて跪く。
「それこそは<煙る鏡>。我らの祭壇。貴方様の背後にも祭られて御座います」
ふと振り返ると、背後には大きな黒曜石の鏡があった。
ここまでくると姿見のレベルで、手鏡の何十倍も大きいサイズだ。
この場所は、こいつらはダクネシアの信者で間違いない。
「では聞け。俺は闇黒魔神ダクネシアによって招かれた魂魄であり、創造された存在である。お前たちに使命とを託し、神託を示すためにやってきた者である」
「はっ!」
「お前たちが、天地万物、森羅万象を統べる彼の者の奴隷であるならば、心して聞き届け、そして果たせ」
「謹んで拝聴させていただきます。なんなりと」
彼らは神に悪と断じられ、人に邪教として迫害された者たち。
そんな彼らが、ダクネシアの言葉を聞いてどう思うのか……いや、それは俺には関係が無い。俺はやるべきことをやるだけだ。
「人間よ、邪教と虐げられながらも、未だに我に信仰を捧げる力持つ強かない愛しき子らよ。汝が目の前にいる男は、我が招きし魂と、我が創りし肉体の結晶である。その名はレクト。其は我が化身であり、分身であり、使徒であり、救世の主である」
「救世の主、救世主……」
「我はもはや魔神である。しかし神であるがゆえに、汝らの信仰を信じよう。故に、知らしめよ。魔神の力を示し、しかし侵さず、友好を結べ……これがダクネシアの言葉だ」
これでダクネシアから預かった言葉はすべて言い終えた。
しかし、全員がなぜか無反応で跪いたままの姿勢でいる。感じ入っているのか?
というか婦女四人はいい加減服を着ろ。
ふと唐突に、先頭の男が言葉を発する。
「力に憧れ、自由を羨み、身を鍛え、技を磨き、心を捧げて幾十年……レクト様、貴方の来訪をどれほど待ち望んだことか」
「っと、それは俺に協力してくれるってことでいいのか?」
「我らが主は、貴方を化身と認められ御座います。貴方ももはや我らが主でございます。そしてその鏡が煙ることこそが、その証」
ふと黒装束の男は頭を上げる。
懐から黒曜石のナイフを取り出し、右手で持って左胸に当てる。
「ここに居る誰もが、あの御方と貴方様にこの心の臓腑を捧げることが出来ましょう。どうかレクト様、我らをお導きください」
「……分かった」
分かってないけど、雰囲気的に分かってしまった。つまり流された。
「俺と共に力を示し、悪魔と人間の友好を築くことに尽力せよ」
この場に居るすべての人間が、俺の言葉に返した。
「はっ、仰せのままにッ!」
そこは黒の森と呼ばれる、外部の人間が滅多に入り込むことのない山奥であるらしい。
かつて栄華を極めていたダクネシア信者は、ダクネシアの敗北と共にこの森へと追いやられた。
なぜか信徒たちはこの場所まで追ってくる事はなく、邪教の徒たちはひっそりと魔物と共存している。
と、そこまで聞いて、俺は四人の婦女の一人、黒髪の乙女の説明を一旦切る。
ちなみに、もう裸ではない。風邪になられてもなんだからな。
「魔物と共存って、どうやって?」
「詳しいことは分かりませんが、恐らくこの黒い森はダクネシア様が我らを守るために築き上げた聖域なのではと。この森は黒いジャガーが統べており、私たち教徒はその庇護下にあるのです」
「黒いジャガー……なるほどな」
この黒い森では、その黒いジャガーが一番強い魔物であり、ダクネシアの使いであり、信徒を守る守護者でもある、か。
しかし、ならばどうして向こうのやつらはここを滅ぼさないんだろうか。
勇者と聖女は魔王を倒すほどの強い。単純に山の主が魔王より強いから、誰も手が付けられないだけか。
「ありがとう、大体把握した。地図も貰ったし、少し考えるから下がって貰って構わない」
とりあえず、あいつらと相談してこれからどうするか決めよう。
「……あの、レクト様、大変申し上げにくいのですが、よろしいのでしょうか」
「ん? なにが?」
「いえ、その、申し訳ありません。私たちのような程度の低い女体では、レクト様のお気に召していただけず、不甲斐ないばかりで」
「ああ、それは違う。まあ詳しい説明は省くが、俺は自分の意志で女性には手を出さないことにしている」
据え膳喰わねばなんとやらとも言うが、俺は自分の恥よりもリステアへの純愛を優先する一途な男だ。
たとえ所々……否、ほぼそっくりな乙女が迫ってきたとしても喰わないと決めたら喰わない。たとえ童貞と嘲笑されてもだ。
「お前たちは十分に魅力的だ。魔界でサキュバスを見た俺が太鼓判を押そう」
「そう、ですか」
随分と残念そうだ。いくら俺がダクネシアの代行とはいえ、俺は彼女等の憧れるダクネシア本人ではないのだが。
いや、ダクネシアはあれで嫁が既に四人居るらしいから、だからこそ俺を神に見立てて嫁になろうとしたのか?
なんだかこのまま返すのも不憫だな。
「……まあ、今は手を出すわけにはいかないというだけで、もしかしたら事情が変わってよろしく頼むこともあるかもしれない」
「本当ですか?」
俯き加減だった黒髪の乙女と、ついでに背後に居た茶髪も食いつく。
様子が変わらないのは残りの二人、ずっとフードを被ったまま俯いている。
体のラインは浮き上がっているので、片方は発育の良い少女だろうが、もう片方はよく分からない。もしかしたらガルゥのように男かもしれない。
「では、そのときを心待ちにしております。その時はどうか、ご寵愛ください」
「あ、ああ、うん。分かったよ」
「それではお食事の際にまた参ります。御用があればお申し付けください」
四人の婦女が退室した。
ここはコテージ。黒い森に住まう邪教の信者たちが住まう集落の空家が一つ。
俺はこの家屋を与えられた。というか俺が希望した。一人になるための空間が欲しかったからだ。
「……それで、どう思う。リムル」
しかし俺は一人ではない。
否、悪魔は柱で数えるから一人と言えば一人で間違いない。
「やっべぇ! マジで人間じゃん! いや初めてじゃないけど、憧れてから見るのは初めてだしな! 最高だぞレクトォッ!」
「うっさい」
けたたましい声を上げて興奮を表す逆十字の首飾り。
非常にうるさいが、この声は装備している俺にしか聞こえない。
アイテム名は小悪魔の十字架といったところか。
「悪いな。さっきからこの調子だ。しばらくはこのままだろう」
あのブッキーが俺を気遣うとは、よほど興奮していたらしい。俺には聞こえずとも、彼女らは彼女らで好き勝手喋り続けていたんだろう。
「くすっ、それにしてもさすがよね優男。私の誘惑を凌ぎ切っただけのことはあるわ」
ピンクローターから聞こえてくるフェチシアの声。
フェチシアは人間界行きが決まった辺りから妙にライバル視するようになってきた。
もう完全に女を落とさんと必死に努力するナンパ男のような。
今までは喰い応えのある餌とでも思っていたんだろうが、いよいよもって対等と認められたのか。
「とりあえず伝えるべきことは伝えた。あとはどう動くか、だが」
この世界で最も注意すべきは神の信徒である勇者と聖女。次に他の邪教だが。
邪教はこちらが動けば応じて動き出すから置いておくとして、聖女のほうは一度くらいは会ってみたい。
もしかしたら一度目の遭遇でリステアに出会えるかもしれないし、そうでなくともそこの聖女がリステアを知っているかもしれない。
俺は机の上に広げられたままの地図を覗く。
この森は大陸の南側に在り、ここから南はずっと森だ。誰も南端にたどり着いたことは無いらしく、上から見ても果てしなく森が続いているという。
リステアがいるであろうエルサレムはここからかなり北方にある神聖皇国。
そこまでぽつぽつと街があったり、村があったり、橋があったり山があったりする。
「とりあえず一番近い村まで行って、リステアの話を……」
そういえば、まだここの人間にリステアのことを聞いてなかったな。後で聞いておこう。
なんにせよ、この国を目指しながら地道に聞き込みしていくしかない。
「はぁ……先は長いな」
「なんだよ相棒、これから面白くなりそうってところじゃんか。もっと楽しめよ」
相変わらずリムルはマイペースだな。子供のような好奇心と貴族のような肝の据わり方してるよ。
俺がそんな大物の器をした悪魔に相棒と呼ばれるなんて……
「前々から思ってたけど、お前ほんと変人だよな」
「なっ……いきなり罵倒するなんて、お前も大分悪魔じみてきたな?」
「いや、一応は褒め言葉だ」
さて、と。
俺はベッドから立ち上がり、扉へと向かう。
「うん? どっか行くのか?」
「散歩だよ。この世界のどこかにリステアがいるんだ。そう考えるとワクワクしてな。浮き足立つ」
「んだよ、ちゃんと楽しんでるじゃねーか」
扉を開けると、ぽつんと佇む小さい黒装束がそこに居た。
「……誰だ」
リムルたちの声はこいつらには聞こえていないはず。となると、俺は一人きりの部屋で独り言で会話する超絶キチガイ野郎の烙印を押されかねない。
「ご、ご無礼をお許しくださいっ! 私はレクト様の四人の嫁の一人、アトラと申します!」
「アトラ……それで、俺に何か用事か?」
「はい、その、畏れながら……シローネンを、四人の嫁から外していただきたいのです!」
ウィシュ、シローネン、アトラ、ショチケツァルというのが、彼女等の役の名称だった。
目の前に座る赤色の髪の少女はアトラという名であり、その名は生まれた時に授かり、彼の者の嫁になる宿命を負う証でもある。
リステアに似ていた黒髪の女はショチケツァルの役。茶髪でサキュバスチックな大人の雰囲気を出しているのはウィシュ。
そしてここに居る赤髪の少女はアトラ。そのアトラが嫁役から外してほしいというもう一人がシローネン。
「す、すみません。私如きにお時間を割いていただき、ありがとうございます」
「緊張しなくてもいい。それで、用件は?」
アトラは美少女だ。
赤い髪、水色の瞳。小柄な体に、控え目ながら将来性のある胸。魅惑の腰つきは主に
とはいえショチケツァルやウィシュのような絶世や傾国レベルのものではない。
学年で一人いるくらいのレベルの美少女だ。それもそれで味わい深そうではあるが。
「それで、どうしてシローネンを外してほしいんだ?」
別に俺は嗜虐心旺盛な男ではない。奥手な童貞がそんな性癖なわけがない。
俺は筋金入りの童貞なのだからな。
「誇り高いなぁ童貞」
リムルの煽りを無視しながら、俺はアトラから話を聞く。
「アトラ」
「シローネンは……私の友人です。あの子は、まだ若いし、優しいし、普通にいい子なんです。あの子には普通に恋愛して、普通に結婚してもらいたいんです。私たちはこの名前を頂いた時点で生贄の嫁になるか、貴方様の嫁になるかのどちらかしか選べません。でも、あの子だけは……!」
なるほど。神話や宗教の文化はやたら人を縛るからな。
とはいえ、今は俺が王だ。俺の裁量で何とかなる部分もある。
「分かった。それじゃあ……」
「ダメだぜレクト」
リムルから念を押された。
分かってる。俺は人間ではない、人間嫌いの魔人間だ。そのようにするし、そのようにしか出来ない。
すんなりと話を分かってもらえたことに喜びつつあるアトラだが……
「何を捧げる?」
「……えと」
予想通り、その可愛い笑顔は凍りついてしまった。
魔界の使いとして、悪魔と友好を築かせる者として、ここらへんは妥協してはいけないところ。
「タダで、と言うわけにもいかない。神とはいえ、今や魔界の住人たるダクネシアは、魔界の住人として魔界のルールを広めようとしている。そのために築く友好だからな」
「で、でも、私に捧げるものなんて……」
黒装束の下でもぞもぞと、居心地悪そうに動く体。
どうやら嫁として体を捧げること以外に選択肢を持ち合わせていないようだ。
しかしどうする。無い袖は触れないという。
女体を捧げられても俺に何の得も無い。むしろフェチシア並に邪魔になるだけだ。
「その言い方はあんまりじゃない?」
フェチシアの声も無視し、俺はどうにか交渉を成立させようと唸る。
「ひっ、ご、ごめんなさい! どうか怒りをお納めください!」
「あー、別に怒ってるわけでは……ちなみにシローネン本人は嫌がってるの?」
「いえ、基本的には誰もが羨む立場なので、生贄は辛いですけど信奉している神様に近づくためですから。もちろん私も」
それはまた、なんとも敬虔な信者達だ。
その信仰の原動力がなんなのかは知らないが、少なくとも彼らにとってはそれほどの価値があるのだ。
しかし、どうするか。
タダで施しを与えるわけには行かない。しかし向こうから取り立てられるものは何も無い。けれどこのまま彼女の願いを蔑ろにすれば、悪魔へのイメージダウンに繋がる。
彼女には何が出来て、俺は何をさせればいい?
「一つ聞きたい。この世界の聖女についてだ」
「せ、聖女ですか? 聖女は敵ですよ」
「クリスティア・ミステアという聖女を聞いたことはないか?」
「クリスティア……いえ、聞いたことが無いです」
ダメか。やはり足で探し回るしかない。
「聖女……その聖女がどうかしたんですか?」
「ああ、とある事情で聖女になってしまったんだが、元々は俺の嫁なんだ。俺は彼女に会わなければならない」
「よ、嫁!? 聖女が、レクト様の!?」
ん、話したらまずかったか?
でも別に隠す必要もない気がする。
「そうでしたか……でも、聖女なんてたくさん居ますからね。一つの村には必ず一人は居るくらいですし」
多いな。全部の村を回るのもどうかと思う。やはり皇国に行ってどの聖女がどの場所に派遣されたのか調べないと。
しかしどうやって、誰から聞きだすか。
考えることが多すぎる上に、答えが出せない。ちょっとこれはキリが無い。そもそも俺は謀略策略が考え付くほど良い頭はしていない……
ふと、目の前のアトラを見る。
「アトラ、お前は頭は良い方か?」
「うぇっ!? いや、どうでしょう。悪くは無いと思いますけど、はい」
「ならばアトラ、俺がリステア……クリスティア・ミステアに再会できれば、シローネンを嫁から外す」
「ほ、本当ですか!?」
よし、食いついた。
身を乗り出すアトラを見て、俺はニヤけそうになる顔を引き締める。
「そのために、お前は俺に協力しろ。俺がリステアに会えるまで、悪魔と人間が友好を築くための活動と同時に、俺の方にも尽力してもらう。どうだ?」
「ぜ、是非それでお願いします!」
思わず口元から笑いが零れる。
「交渉成立だな」
「よ、よろしくお願いします」
悪魔と人間が友好を築くための手駒。
俺はその中から、リステアと再会するための手駒を得た。




