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06機目 異世界の街並み

 

 

  

 パサパサとした食感に苦戦しつつ簡易食料を食べ終わった頃、御者台のディポンに声をかけられた。


 「マキナさん!ジグバラに到着しましたよ!」


 ディポンの声に反応したマキナは、馬車の布をあけ前方を確認する。見上げる程高く組まれた石壁に備え付けられた大きな木製の扉は両開きで開いており、商人の馬車や徒歩の冒険者や旅人が入場の列を成し並んでいた。

 少なく見積もっても、30組は並んでいる。 


 「すごい人数ですね。あの列に並んでいて間に合うんですか?」

 「普通ならあの列の最後に並ぶんですが、今回は緊急の仕事なので門番には話が通っています」


 行列を見たマキナが心配そうにディポンに尋ねると、手筈は整っていると自信有りげに門番詰所に馬車を進める。詰所の横に馬車を止めると、門番達が出てきてディポンを問いただす。


 「間に合ったか、ディポン!」

 「ああ!アクシデントには遭ったが、何とか」

 「何はともあれ良くやった。これでアイツ等も助かる!」


 知り合いらしき初老の熊っぽい門番が、期間内に戻ってきたディポンを褒め讃える。だが、ある一言でデイポンの機嫌が急降下する。


 「ん?ボルツ達はどうした?護衛で一緒に行かなかったか?」

 「……た」

 「ん?なんて言った?」 


 ディポンの声が小さすぎ聞き取れなかった門番が再度聞き直すと、ディポンは忌々しげに言葉を吐き捨てる。


 「アイツ等は!ゴブリンに襲われたからって、護衛を放棄して自分達だけで逃げ出しやがった!俺が何を運んでいるか知っていた上でな!」

 「はぁ!?冒険者が依頼人を見捨てて逃げ出しただぁ!?」

 「ああ、見事な逃げっぷりだったよ!!」


 尻尾を逆立て激昂するディポンに、門番達もそれが事実であると悟った。


 「そうか。おい!ボルツ達が戻って来たら、留置しておく様に伝達しておけ!」

 「はい!」

 

 初老の門番は若い門番に、逃げ出した冒険者の拘束を言付けする。

 

 「しかし、それならどうやって無事に戻って来れたんだ?」

 「偶然現場に居合わせた人に、助けて貰ったんだ」

 「助けて貰った?誰に?」


 初老の門番はディポンの説明に首を捻る。門番が見る限り、ディポンは一人だ。低レベルとは言え冒険者3人が逃げ出した状況であり、並の冒険者ならば自分の安全を取り見捨てるし、大人数の護衛を連れた商隊が街を出た記憶も門番には無い。

 首を捻っている門番に、ディポンは笑みを浮べながら説明の続きをする。


 「ああ、仮身分証を発行して貰わないといけないし、今紹介するよ。マキナさん?」


 荷台から顔を出し状況を見ていたマキナに、ディポンは出て来て貰えないかと声を掛ける。マキナはその誘いに素直に答え、御者台の方に姿を見せた。

 その姿に、門番は驚きの表情を浮かべる。 

 

 「この嬢ちゃんが?」 

 「ああ」

 「一人でゴブリン達から、お前を助けたと?」

 「そうだが?」


 要領を得ない質問に、ディポンは首を傾げる。

 だが次の一言で、何に困惑しているのか理解した。


 「信じられんなぁ」

 「ああ。パッと見そうは見えないが、彼女はかなりの実力者だぞ?逃げ出した三人達以上は間違いない」

 「ふむ」


 ディポンの言い分が中々信じられない門番は、値踏みするような眼差しでマキナを見る。その視線を感じ取ったマキナが不機嫌そうな雰囲気を出すと、門番は直ぐに気付き軽く頭を下げ謝罪した。


 「いや、申し訳ない。些か信じ難かったのでな、つい」

 「いえ」

 「信じがたいかも知れないが、事実だ」


 門番の素早い対応にマキナは感心し、不躾な視線の件は不問とした。 


 「それより早く入街手続きをしてくれ、時間が勿体無い」

 「ああ、そうだな。嬢ちゃんはコッチに来てくれ」

 「はい」


 ディポンは懐から身分証書を取り出し門番に手渡し、マキナは馬車を降り詰所に歩み寄る。

 受け取った門番が詰所に設置してある水晶に翳すと、水晶が青い光を放つ。

 

 「これで手続きは終了だ。早く薬剤ギルドに持って行ってやれ」

 「ああ」


 ディポンは門番から受け取った身分証明書を懐に戻し、マキナに申し訳なさそうな仕草で頭を下げる。


 「ああ。すみませんマキナさん。時間が惜しいので先に行きます」

 「いえ。薬を待っている方々がいらっしゃるんです。早く届けて上げて下さい」

 「有難う御座います!入街手続きが終わったら、薬剤ギルドまで来て下さい!是非御礼を!」

 「いえ、お礼は既に頂いています。これ以上は過分ですよ」


 更にお礼をしようとするディポンに対し、マキナは丁寧に断りを入れる。


 「ですが!」

 「それより、早く薬を届けて上げて下さい」

 「!?……分りました!マキナさん!この度は本当に、有難うございました!」

 「いえ、ディポンさんも頑張って下さい」


 腰から頭を下げる最敬礼をした後、ディポンは馬車を出発させた。マキナは門番達と共に、その後ろ姿を手を振りながら見送った。 

 ディポンの見え無くなった頃、門番がマキナに声をかける。


 「そう言えば嬢ちゃん。どうやってディポンの奴を襲っているゴブリンを倒したんだ?見た所武器らしき物は持ってい無いみたいだが」


 門番の物言いは最もである。マキナは事前に用意していた、カバーストリーを語る。

 

 「ああそれは、近くにあった石を投げ付けただけですよ?」

 「石ころだ?」


 不審がって居ますよと言う眼差しをマキナに向ける門番。マキナは近くの地面に転がっている拳大の石を拾い、川の方に向かい野球投手張りのフォームで思いっきり投げる。

 石はマキナの手を離れると同時に、空気を切り裂く音を立てながらアッという間に姿を消した。

 

 「こんな感じですね」


 内心予想外の結果に驚きつつ、マキナは表面上を取り繕いながら門番達に向き直る。

 しかし、門番達は口をパクパクさせながら石が飛び去った空を唖然とした表情で眺め、突然響いた轟音に入街待ちの列は少し騒ぎになっていた。

 一番最初に正気を取り戻したのは、初老の門番だった。彼は目をしばたかせながら、惚けた様な表情でマキナに頭を下げ謝罪する。


 「疑ってしまい、申し訳ない」

 「いいえ、構いませんよ。見た目こんな感じですしね」

 「寛大な対応感謝する」


 初老の門番は咳を一つ入れ、場の空気を切り替える。


 「それじゃ、嬢ちゃん。入待ち手続きをしようか?」

 「はい」

 

 門番は詰所から白いカードとナイフ、綺麗な布と小さな瓶を持って来た。


 「嬢じゃん、悪いがこのカードに血を一滴垂らしてくれるか?」

 「血、ですか?」

 「仮身分証の発行に必要なんだ」


 マキナは渋々ナイフを受け取り、少し躊躇し人差し指の腹に少し刺す。刺した場所からじわりじわりと血が滲み出し、数秒程で血の雫が浮き出る。

 マキナは血を地面に零さない様に、慎重にカードに垂らす。血は無事に、門番が持つカードに落ちた。


 「ご苦労さん。これは止血剤だから塗っときな、直ぐ止まるよ」


 マキナがナイフを渡すと、門番は代りに綺麗な布と小さな瓶を手渡す。マキナは少し受け取った物を眺め思案した後、受け取った布で傷口を拭き小瓶の中のクリーム状の薬を指先に塗り込む。

 その間カードとナイフを受け取った門番は、ディポンのカードを調べた水晶にマキナの白いカードを載せる。カードを載せられた水晶が緑に輝き、白いカードに文字が刻まれた。

 

 「これで手続きは終了だ。ああ、それと手続き料は銀貨一枚だ」

 「銀貨一枚ですね?」


 門番は出来上がったカードを右手に持ち、マキナに左手の平を差し出す。マキナもディポンに事前に聞いていたので、確認を取り胸ポケットから銀貨を一枚取り出して渡した。


 「確かに、これが仮身分証だ。有効期限は今日から一ヶ月だ。滞在期間を延長する時は、手間だろうがココまで来て手続きをしてくれ」

 

 銀貨を受け取った門番は、仮身分証をマキナに手渡し説明と注意事項を伝える。マキナは門番の説明を聞きながら、手渡された白いカードを見た。


 仮身分証

 名前:マキナ

 種族:機人

 賞罰:無し

 特記:賓客

 有効期限:1ヶ月 <ジグバラ西門発行>


 カードには、簡単な記載表示がされていた。マキナはその中の職業欄、賓客と言う部分が気になり門番に尋ねる。


 「この賓客って言うのは何です?」

 「ああそれか、ディポンの奴を助けてくれたみたいだしな。俺なりの謝罪と礼だ。御陰で、毒に犯された奴らも無事助かりそうだしな」

 「お礼なら、ディポンさんから貰っているんですが?」


 目立つ事を避けたいマキナは妙な称号を消して貰おうと控えめに奮闘するも、門番の如何にも感謝すると言った表情を見ると強く主張出来なかった。

 

 「まぁ、そう言わず受け取って置いてくれ。それにな、賓客の特記があると街中ではそれなりに優遇されるぞ。宿とか」

 「はぁ。有難う御座います」

 

 マキナは断る事は無理だと悟り、気の抜けた生返事を門番に返す。カードを胸ポケットに仕舞いながら、マキナは門番に礼を言う。

 

 「もう街に入っても大丈夫ですか?」

 「勿論、手続きも済んでるから一向に構わんよ」

 「そうですか。あっ、そう言えばこの街のオススメの宿とかありますか?」

 

 マキナは宿屋を探す手間を省こうと、門番にオススメの宿を尋ねる。問われた門番は数件の宿を頭に浮かべ、マキナの宿泊条件を聞く。


 「予算と期間は?」

 「値段は程々の所でお願いします。取り合えず滞在期間は1週間程でお願いします」

 「と成ると、そうさな」


 マキナの答えを聞き、門番は少し考えオススメの宿を教える。 


 「<木漏れ日亭>と言う所だな。飯が美味いし、そこそこ設備も整っているぞ」

 「そうですか。では、その宿でお世話に成る事にします」

 「そうか。宿にはそこの道を真っ直ぐ進んで、魔法道具屋が見えたら左に曲がってくれ。少し行くと看板が出ている」 

 「有難う御座います」


 マキナは宿までの道を聞き、門番に一礼して街中へ歩き出す。

 

 

 

 

 

 門から少し歩くと、直ぐに賑やかな声が聞こえ始める。


 「結構賑わっているな」


 商店がポツポツと出始め、買い物客と店員の掛け合いや値切り交渉が盛んに行われていた。マキナはそんな日常の光景を眺めながら、歩幅を緩める。

 ゆっくり歩きながら店先を覗き込み、商品のラインナップをチェックする。


 「見た事が有る様な物も有るけど、殆ど見た事ない物ばかりだな」


 野菜一つにしても独特の色合いの野菜が平然と並んでおり、マキナは毒は無いよなと思いつつ若干引きながら見て回る。

 

 「ん?あそこの広場は露店広場か?」


 マキナは道から少し離れた広場で、沢山の露店が出店しているのを見つけた。客入りは中々らしく、賑やかな声が聞こえる。


 「少し見てみるか」


 道を外れ広場に脚を進める。屋台らしき物も出店されているらしく、広場一体には食欲をそそる香りが充満していた。


 「何か食べるかな」


 マキナは匂いに釣られる。異世界転生してから、水と簡易食料しか口にしてい無いので仕方ない。


 「お嬢ちゃん!串焼き食べていかないか?今なら一本、銅貨50枚で良いぞ!」

 「!?」


 屋台の前を彷徨いていると、突然屋台のオヤジに声をかけられマキナは一瞬動きを止め驚く。


 「随分興味深そうに見てたからな、1本どうだい?」

 「じゃあ、1本下さい」

 「毎度有り!」


 マキナの注文を受けた屋台のオヤジは、手早く串を焼き上げていく。注文を受け1分程で串は焼きあがった。


 「お待ち!」

 「ありがとう。はい、お代」

 「あいよ、釣りは大銅貨1枚な」 


 マキナは銀貨を一枚オヤジに渡し、串焼きを受け取る。銀貨を受け取ったオヤジは、マキナが持つ銅貨より一回り大きい銅貨を一枚マキナに返す。


 「また買いに来てくれよ!」


 リピーター勧誘をするオヤジの声を聴きながら、マキナは軽く手を振り屋台の前を立ち去る。

 マキナは広場の中の人が少なそうな所で、食欲を誘う香を放つ串焼きを一口。初めて口にする異世界の食べ物は、口の中に肉汁の旨みが広がり少し焦げた香ばしい香りがマキナの空腹を直撃した。


 「美味い」


 無表情ながら幸せそうな雰囲気が周囲に漏れ出す。マキナは無言で串焼きに齧り付き、最後の肉片を名残惜しそうに食した。


 「想像以上に美味かったな。この世界、食文化には期待出来るな」


 串焼きの味に満足し、心配事項の一つが消えた事に安堵する。元日本人であるマキナとしては、コレから生きて行く世界の飯が美味いか不味いかは最重要事項の一つであった。

 まだ串焼き一つしか食べていないが、探せば美味があると言う情報はマキナにとって価千金である。


 「さてと、露天巡りはこの辺にして、そろそろ宿探しに戻るかな」


 一通り露店を回ったマキナは、本来の予定である宿探しを再開する事にした。

 広場を後にし、元の道に戻る。道を暫く歩くと、門番が言っていた魔法道具屋を発見した。 


 「あれが門番が言っていた魔法道具屋かな?と言う事はあの道を左に曲がれば直ぐか」


 立派な店構えの魔法道具屋の前を曲がり道なりに進む。暫く歩いていくと、宿が集まる宿屋街の様な場所に出た。

 

 「確か門番のオススメは<木漏れ日亭>だったな。どれだ?」


 マキナは立ち並ぶ宿屋の看板を見ながら歩いて行くと、綺麗に手入れされてはいるが年季の入った他の宿に比べ小さな宿に行き着いた。


 「これ?」


 マキナは他に立派な宿がある中で門番は何故この宿を勧めたのか疑問に思いつつ、他に宛が有る訳でも無いので宿を決める。

 年季の入った木製のドアを引いて開くと、ランプの明かりで中々の雰囲気が醸し出されていた。

 

 「いらっしゃいませ。ようこそ<木漏れ日亭>へ。お泊りでしょうか?」


 入口正面の受付カウンターから、エプロンをつけた凛とした少女がお辞儀をしなが来訪理由を聞いてきた。


 

 

 

 





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