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05機目 街までの道程

 

 

 

 ディポンは目の前の光景を、現実の物だとは思え無いで居た。もしかして自分はずっと夢を見ているんでは無いかと。只でさえゴブリンに襲われ、護衛にも見捨てられ、偶々運が良かったからギリギリの所で九死に一生を得たばかりなのだから。 

 だが、控えめに告げられたマキナの言葉が、放心するディポンを現実に引き戻す。


 「あの?車輪を交換し無くて良いんですか?急いでいらっしゃるのでは?」

 「!すみません!直ぐに取り替えに掛かります!」


 放けていたディポンは正気を取り戻し、短い謝罪をし交換作業に取り掛かる。馬車の荷台の下に格納している予備の車輪と工具を取り出し、破損した車輪の取り外しに掛かった。工具を使い轂のロックを解除し、破損した車輪を力を振り絞り手早く外す。外した車輪を道端に放り捨て、予備の車輪を馬車に取り付け轂のロックを止める。緩みがないかをチェックし、ディポンはマキナに取り替えが完了した事を告げた。


 「終わりました!」


 この間僅か5分程度、まさに火事場の馬鹿力の発露である。


 「そうですか、降ろしますね?」

 

 マキナは持ち上げていた馬車をゆっくり降ろす。


 「マキナさん、本当に有難う御座います!これで何とか間に合いそうです!」

 

 ディポンはお礼もそこそこに荷台に乗り込み、中から装飾された小さな木箱を持ち出てきた。ひと目で高級品だと言うのが分かる装いだ。


 「それは?」

 「回復薬です。とって置きの品で、本当は馬に使うには勿体無い代物なんですが、今回は致し方ありません」


 小箱を開き、赤い布製のクッション材の中から緑色の液体が入ったガラス製の瓶を取り出す。ディポンは横倒しに倒れる馬に寄り添い、骨折している足に少量の回復薬を垂らし、残りの回復薬を馬の口に流し込んだ。

 暫く荒い息と悲鳴を上げていた馬は、唐突に起き上がり大きな鳴き声を上げた。


 「すごい効き目ですね」

 「滅多に市場に出回らない、秘蔵の上級回復薬ですからね。これ位は」


 馬が良くなり馬車が使える様になった事を喜ぶ反面、ディポンは残念そうな表情を浮かべる。仕方ないとは言え、秘蔵の品を放出したのだから。

 馬が元気になったのを確認したディポンは馬を馬車に繋ぎす。


 「マキナさん、本当に危ない所を有難うございました!」

 「いえ、困っている方が居たら助けるのは当然ですよ」


 再び腰から頭を下げお礼を言うディポンに、無表情ながら人の良さそうな雰囲気を出しながらマキナが何でも無いと言った感じで返事をすると、ディポンは感極まったという感じで涙を流す。


 「とんでもない!貴方は私の命の恩人だけでは無く、薬を待つ街の人々全ての恩人です!」

 「そんな大それた物ではありませんよ」

 「いえ!是非ともお礼をさせて下さい!」


 ディポンはコメツキバッタの様に何度も頭を下げ、遠慮するマキナに何とかお礼を受け取って貰おうと奮闘する。そのディポンの必死さに若干引きつつ、マキナは無難なお礼のを提案する。 


 「それでしたら、ジグバラまで馬車に乗せて行って貰えませんか?」

 「そんな事で良いんですか!?勿論、急ぎなので快適とは言えませんが、是非お乗り下さい!」


 マキナの提案を了承したディポンは、荷台に飛び乗り荷物の整理を始めた。逃げ出した護衛達が持ち込んでいた荷物を外に放り出しスペースを作り、クッション替わりの乾草の束に綺麗な布を掛ける。

 モノの5分で準備を整えたディポンは、荷台からマキナに手を差し出す。


 「準備が整いました、どうぞコチラへ!」

 「えっと、この荷物は放り出したままで良いんですか?」

 「構いません!どうせ逃げ出したクズ共の物です、馬車を遅くする只の重荷でしかありません!」


 素敵な笑顔でディポンは言い切り、マキナに荷台に乗る事を促す。


 「そ、そうですか」

 「はい!」


 笑顔に押されたマキナはそれ以上何かを言う事も無く、ディポンの手を取り馬車の荷台に乗り込む。荷台の中は意外と片付けられており、余裕を持って乾草束に腰を下ろし座る事が出来た。


 「では時間も無いので、直ぐに出発します!出来るだけ気を付けて走るつもりですが、石等で跳ねる事もあるので注意して下さい」

 「分りました。余り私を気にせず、街に着く事を優先して下さいね。薬を待っている方々も居る事ですし」

 「お気遣い有難う御座います!では!」


 ディポンはマキナに一礼した後、荷台を降り御者台へ急ぐ。


 「出発します!」


 ディポンの声が響き、馬車が動き出す。徐々に動き始めた馬車は次第に速度を増し、大きな振動が乾草束越しにマキナに伝わってきた。

 

 

 

 

 

 「馬車って、結構振動が響くな」


時折尻が浮き上がる様な振動にヘキヘキとしつつ、マキナはコンソールを開き『LOG』画面を眺めていた。

 そこには『マキナはゴブリンA・B・C・D・E・F・G・H・I・Jを討伐した』と明記され、『マキナの獲得経験値が一定に達した』『飛行付属品が進化した』とも表記されていた。

 

 「へー、あの緑のモンスターはやっぱり、ゴブリンって名称だったんだな」


 『LOG』画面に表記されているモンスターの名称に妙な関心を覚えつつ、マキナは後半に記載されている二つの項目の確認を行う事にした。


 「先ずは『ステータス』の確認からだな」


 『LOG』画面を閉じ『ステータス』画面を開き内容を手早く確認すると、若干ではあるが各項目の最大値が向上していた。


 「ふむ、大体初期値の1.5倍って所か?やっぱり、基準が分からないから高いか低いか判断付かないな」


 『ステータス』の向上自体は喜ばしい事なのだが、基準が不明な為マキナは些か判断に迷う。何せ基準として判断出来そうな材料が、スライム・ゴブリン・商人・逃亡した冒険者?だけである。スライムに関しては交通事故の様な物で判断材料に出来ないが、ゴブリンに関しては少し判断材料になった。

 只の商人であるディポンでは手も足も出せず、集団とは言えそれなりの武装を整えた冒険者3人組が逃走する。そして、そのゴブリンをマキナ一人で討伐した事をディポンは素直に認めた。

 それは詰まり。


 「今回の事と同じ事を実行出来る者がいて、その事は一般人にも認識されていると言う事」


 中々、素敵な推測である。化物の様に見られる事は無いと思えば良いのか、それだけの実力者が普通に一般認識される程物騒な世界だと嘆けば良いのか。


 「溜息しか出ないな」


 マキナの背中に哀愁が漂う。暫し落ち込んでいたが、馬車の激しい振動で強制的に頭を跳ね上げられ気を持ち直す。

 

 「嘆いても仕方がないな。取り合えず確認作業を続けるか」


 立ち上がり『飛行付属品装備』を選択する。頭にゴーグルと腰に翼が装備される。前回変化があった翼を注視すると、今回も少し変化があった。


 「桁とワイヤーが減ってるな。翼の強度が向上したのか?」


 翼の強度が向上したと言う事は速度や上昇高度、運動性が向上したと言う事である。翼についてマキナが考察していると、通知画面が開く。

 《『機載機銃』が生産可能に成りました》


 「機載機銃?今回の進化で、空戦可能に成ったって事か?」


 マキナは腰の翼を一瞥し、通知画面を消し『飛行付属品収納』を選択する。ゴーグルと翼が消えた事を確認し、乾草束に腰を下ろす。

 『武器生成』のリストを開くと、名称が追加されていた。ただし、生成不可能ではあったが。


 ・lMG08

 ・MG14

 ・Lewis Gun MK.1

 ・ヴィッカス

 ・M07 

 ・Mle1914

 ・7.7mm弾薬

 ・7.92mm弾薬

 ・8mm弾薬


 「7.7mmから8mm機関銃って所か、ラインナップが、第一次当りの物ばかりだな。まぁ、20mmクラスを持たされても現状だと、強度不足で墜落しかねないか」


 リストを吟味しつつ、弾薬の生成は可能なのに機銃の生成が不可能になっている理由を考える。そして、ふと原因を思いつく。 


 「ああ、もしかして鉱物資源残量が足りないのか?」


 『ステータス』を確認すると、現在残量は11000だった。マキナは『アイテムボックス』から鉱石を取り出す。取り出した鉱石を一つ一つ『鉱石変換』に掛けていくと3つ程変換した段階、鉱物資源残量が40000を超えた当たりで機銃の生成が可能になった。


 「えらく資源を食うな、コレ。取り合えず一つ生成してみるか」


 マキナはリストから具合の良さそうな物を選択し、『武器生成』を実行する。光の粒が集まり生成物、一抱え程ある大きさの重厚なlMG08が実体化する。

 

 「デカイな。これを持って空を飛ぶのか?」


 自身の身長の半分を超える機関銃に若干引き攣りながら、取り合えず構えてみる。本来3脚等に固定して使う物なので、バランスが悪いが何とか様になる構えが取れた。


 「一応持てはするな、後は実際に撃って見ないと分からないか」


 マキナは機関銃を『アイテムボックス』に収納し、今度はM1911を『アイテムボックス』から取り出す。


 「一応、ゴブリンにも銃弾は通用したな。ただ、これは人前で使っても大丈夫なんだろうか?」


 鈍く光るM1911を眺めながら、マキナは漠然とした不安感がこみ上げてくる。

 そもそも銃とは、それなりの訓練をすれば誰もが使え誰もが同じ威力を発揮出来ると言う物だ。つまり、今回マキナが上げた成果は、訓練をした者が銃を持てば誰でもほぼ同じ事が出来ると言う事だ。逃げ出した3人組の冒険者や、非力な一般人であるディポンでも。

 人前で使い続ければロクでも無い未来しか想像出来ない。


 「使う場面は吟味した上で、普段はこの世界での標準武器を携行した方が良いな」

 

 新しい弾倉に変えた後、拳銃を『アイテムボックス』に収納した。街に入る以上、見せたくない物は隠しておくに限る。一通りやる事が終わり、マキナは他にして置く事は無いかと考えを巡らせる。

 そして、有る事を思い出したので前方の布を捲り顔を出し、御者台で馬を操るディポンに声をかける。 


 「すみませんディポンさん!今、ちょと良いですか!?」

 「マキナさん!はい、大丈夫ですよ!」

 「ジグバラの街に入る時、何か手続きは必要ですか!?」


 マキナは布に遮られそれなりに音が軽減されていた事に気付く。馬車の走行音が大きく些か声が聞こえづらく、近い距離ではあるが二人は大きな声で話し合う。マキナの質問にディポンは前を向き馬を操りながら、振り向かずに即答で返事をする。


 「王国発行の身分証を持っている王国民の入街料は無料です!持ってい無い他国の人は、門の所で仮身分証を発行して貰うのに銀貨1枚が必要です!」

 「そうですか!忙しい所有難う御座います!」

 「いえ!お気に為さらず!それと、もう少しで街に到着します!」

 「はい!分かりました!」


 質問を終えたマキナは、御者をするディポンの邪魔になる前に、そそくさと顔を引っ込め荷台へ戻る。乾草束に腰を下ろし、一息付く。


 「いやぁ、先に聞いて置いて良かった。流石に『アイテムボックス』一般に浸透しているか確認する前に、人目の付く所で大っぴらに使う訳には行かなかったからな。事前確認は重要だな」


 マキナは安堵混じりに呟きつつ『アイテムボックス』から、金貨1枚と銀貨5枚と銅貨5枚を取り出す。10円玉程の大きさの硬貨を眺めた後、無造作に胸のポケットに仕舞う。多少硬貨が剃り合って音を奏でるので、街で財布に成る小袋を購入するかとマキナは思案する。


 「取り合えずコレぐらい手元に置いておけば、『アイテムボックス』の有無を確認するまで街中で追加する必要はないな」

 

 街に入る事前準備も終了し、後はディポンが声を掛けるまでマキナは些か暇になった。

 仕方なく、マキナは余り気が進まないが念の為『アイテムボックス』から簡易食料を取り出し、SP回復促進の為に食べる事にした。  


 

 

 

 


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