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01機目 先ずは検証からでしょう!

 

 

 大きな木々に日差しが遮られた薄暗い森。そんな薄暗い森の中には、小さな泉がひっそりと存在していた。

 日差しが降り注ぐ湖畔には、大の字で寝転がる小さな人影が1つ。旋風が吹き、鬱葱とする森の木々から外れた木の葉が中を舞う。

 その葉の一枚が偶然、眠る人影の顔へと舞落ちる。 

 

 「……ん!?」

 

 すると人影、佐藤充は目を開きバネ仕掛けの様に上体を跳ね起す。言葉も出ないほど混乱していた充は、ただただ両手で自身の体を抱きしめ震える。

 

 「……生きてる。って、あれ?病院じゃ、無い?……森?」 


 暫くして落ち着いた充は、周辺の環境が異なる事を気にする余裕を取り戻し、現状への疑問を抱く。フグ毒に当っている以上、病院のベットの上で目覚めるのが順当であるはずなのだが、目が覚めると見知らぬ森の中と言う突拍子の無い展開だからだ。

 むしろ、疑問を持たない方が可笑しい。

 

 「何で森の中?白昼夢か?って……ん?」


 突拍子も無い展開に些か混乱する充は、可笑しな事態であるからこそ冷静に思考を巡らせようと目を閉じ頭を軽く左右に振るう。すると、妙に頭が重い事に気が付く。原因は何かと思い目を開くと、視界の端に流れる様な白銀色の長髪が写り込む。   


 「コレは、髪か?」


 充が髪に触ると、妙に硬質的でヒンヤリとした感触が伝わってくる。その感触は充が知る限り、ホームセンター等で売られていたワイヤーに酷似していた。

 嫌な予感がし更に良く自分の体を観察すると、妙に幼い手足と妙な品々が体の各部に付属していた。確認の為、覚悟を決め近くの泉の水面を恐る恐る覗き込むと、予想通りとも言える予想外の姿が写し出される。

 白銀色の長髪、虚ろな輝きを浮かべる翠玉色の瞳、無表情ながらも幼さの残る可憐な顔立ち。そして、頭に掛るメガネ型の大型ゴーグル、首元に白いマフラー、胸元を一際彩る翠玉色のペンダント、背中に2枚の布張り翼と言う付属品。 

 水面に写し出されたその姿には、佐藤充と言う人物の面影は一切残ってい無かった。


 「何だよ、これ」


 震えた様な口調で紡ぎ出された声も良く良く冷静に聞くと、少女の様に甲高い響きがある。慌てて体のアチラコチラを触れると、アル象徴的な物が無くなっている事に気づき愕然とする。

 充は再び混乱するも、2、3度の深呼吸を繰り返し無理やり気持ちを落ち着け、自身のみに起きた事態に対し思考を巡らせる。

 

 「落ち着け、俺。先ず冷静に状況を整理しよう。えっと確か、視聴者プレゼントのフグ鍋を食べて毒に当る。呼吸困難に陥り意識不明の昏睡状態になる。目が覚めると病室ではなく知らない森の中。止めは、容姿が全くと言って良い程に変わっている……と」


 暫しの沈黙。

 そして。


 「はぁ!?何だよコレ!!」


 充は表情筋がピクリとも動か無い無表情のまま、咆哮の様な大声で絶叫する。一通り叫び声を上げ気持ちが幾ばくか落ち着いたのか、疲れた様な雰囲気を漂わせ溜息と共に愚痴を漏らす。


 「マジか……。これってアレか?ネット小説とかで良くある、死んだと思ったら異世界転生」


 充は頭痛を堪えつつ、再度確認の為水面に写る姿を覗き込むも変らぬ姿を確認し溜息を付く。  


 「ほぼ間違い無くフグ毒で死亡。従来の容姿とは激変。見知らない場所に出現。……これ、異世界転生の条件がバッチリ揃ってるよな?はぁ、マジかぁ」


 認めたくない現状に肩を落とし落ち込むも、落込んでいても現状に変化は無いと思い、充は何とか精神を建て直しポジティブに考えようとする。 


 「いや。考え様によっては、只死亡する所を数奇な運命でチャンスを得たと思えば……」


 前世?には些か未練がある様だが、充は無理やり転生した事実を納得する事にした。微妙なテンションのまま、充は次の確認に移る。


 「えっと、テンプレだと、こう言う場合はステータスの確認が最初だったか?」


 テンプレ事態の定番作業を行おうと、充は取り合えずステータスと叫んでみるも無反応。次に頭の中で念じる様に叫んでみるも無反応。その他にも充は色々な方法で試すは色好い反応が無く、万策尽きたと言う様な雰囲気を出しつつ地面に力無く座り込む。ふと思い出したかの様に、何の気無しに胸元のペンダントを長押ししてみると、白文字で書かれた半透明のコンソールが空中に展開された。


 『ステータス』『アイテムボックス』『MAP』『LOG』『Q&A』『設定』

 

 「出たよ。この画面って、ほぼゲーム画面だよな?」 

 

 充は些か呆れ気味の様子で、恐る恐るコンソールに表示された『ステータス』と言う文字に触れる。すると新しい画面が展開し、『ステータス』の詳細が表示された。



 名前:未設定

 種族:機人 TYPE Biplane

 称号:未修得

 技能一覧

 ユニークスキル:メニュー(ステータス、アイテムBOX、MAP、LOG、Q&A、設定)

 固有スキル:鉱物変換、飛行、武器生成、異世界文字言語

 

 

 充は表示された『ステータス』の画面を真剣な眼差しで凝視する。短く簡素な内容であるが、至る所に気になる文字が乱立していた。 


 「機人?それにBiplaneって、複葉機?」


 種族の項目に触れると、簡易的な説明画面が表示される。

 機人――亜人種と呼ばれる種族の中の一つ、無性で頑丈で長生きです。

 TYPE Biplane――空が飛べます。


 「おい、簡素過ぎるだろ。説明に成って無いぞ」


 簡素且つ微妙すぎる説明文に、思わず愚痴が零れる。他に表示されたスキル等も調べるが、似たり寄ったりの簡素な説明文であまり役に立たない。

 深い溜息を吐きながら『ステータス』の画面を閉じ、半目になりながら他の項目も調べていく。


 「『Q&A』……少しはまともな事が書かれてるかな?」


 『ステータス』の内容が内容だけに、大した期待はせずに充は『Q&A』の文字に軽い気持ちで触れる。


 Q1:自分は死んだ筈では? 

 A1:死亡しています。

 Q2:異世界転生ですか?

 A2:異世界転生です。

 Q3:勇者召喚ですか?

 A3:違います。

 Q4:モンスターは居ますか?

 A4:居ます。

 Q5:ココは何処ですか?

 A5:フィヴァジ森林地帯の泉です。

 Q6:何か目的があるのですか?

 A6:有りません、御自由に生きて下さい。

 Q7:チートスキルの選択はありますか?

 A7:有りません、救済措置として全員に一律で『メニュー』と『初期アイテム』が付与されます。

 Q8:元の世界に戻れますか?

 A8:戻れません。

 Q9:貴方は神様ですか?

 A9:いいえ。転生自動手続きシステムです。

 参考資料:『良くある転生者との答弁集 第3改訂版』より一部抜粋。

 尚『Q&A』は読後消滅します。


 軽い気持ちで展開した『Q&A』の内容を流し見していた充は、予想外の内容に思考が停止する。二度三度瞬きをし、再度凝視する様に画面を覗き込む。

 そして……。


 「何だよ、コレ!?」


 再び咆哮の様な絶叫を上げた。一通り叫ぶと、膝から崩れ落ちた充は荒い呼吸を繰り返す。気持ちを落ち着けながら『Q&A』を今一度見ようとするが。


 「あっ、消えてるし。……はぁ、こうなると異世界転生は決定的だな」


 充は自然と、諦めに満ちた溜息と共に何度目に成るか分から無い愚痴を漏らす。思わぬ形で止めを刺された充は、顔に手を乗せ雲一つ無い青空を仰ぎ見る。

 

 

 「……腹を括って、この世界で生きて行く算段を建てるしかないな」


 覚悟を決めたのか、どこか虚ろだった充の瞳に力が戻る。2,3度深呼吸を繰り返し、頬を軽く叩き気合を入れ立ち上がる。

 体を解す様に手を握り開き繰り返し、首や肩を軽く廻しストレッチをする。


 「後、確認する事はっと」


 コンソールを操作し『アイテムボックス』の文字に触れると、収納物のリストが表示される。

 

 ・金貨x50

 ・銀貨x50

 ・銅貨x50

 ・鉱石x50

 ・簡易食料x50

 ・サバイバルキット

 ・テント


 「ふむ。初期アイテムって意外に沢山入ってるな」 


 充は物は試しとリストの文字に触れると、品物を取り出すかどうかの確認画面が表示される。取り出す数を指定し、YES/NOのYESに触れるとリストの数量が減り、胸元の少し前に光の粒が集まり形を作り品物が実体化する。 

 初めて目にする現象に驚き、受け取り損ねた品物は重苦しい音と共に地面に落下した。


 「危なっ!こんな出現の仕方か……」


 少し地面にめり込んだ品物、思ったより大きかった鉱石の塊を充は唖然とした面持ちで見る。ソフトボール程の大きさの鉱石を、小さく成った両手で慎重に持ち上げる。

 その時、腕から伝わる重みに違和感を感じ取った。


 「ん?思ったよりも軽い?」


 地面にめり込んでいる以上、相当な重量だと思った鉱石の塊を持ち上げても、腕に大した負荷を感じない事に疑問を浮かべる。充は試しに鉱石を片手の掌で持ってみても、やはり大して重くは感じなかった。


 「力が向上している?もしかして、馬力=筋力って事か?」


 疑問符を浮かべながら鉱石の塊を手で転がしていると、突然2つの通知画面が表示される。


 《『アイテムボックス』に収納しますか?》《固有スキル『鉱物変換』を使用しますか?》


 「ん?通知?」


 充は通知の内容を読み、先ず『アイテムボックス』の検証を始める。収納画面のYESに触れると、手に持っていた鉱石は光の粒が散る様に姿を消す。通知画面が消えた事を確認し『アイテムボックス』のリストを確認すると、取り出し減っていた数量が元に戻っていた。

 

 「鉱石が地面に落ちていた時に通知が表示されなかったと言う事は、対象物に接触していると『アイテムボックス』に収納出来るのか」


 充は何度か繰り返し確認した検証の結果に、軽く頷きながら納得する。

 次に、『鉱物変換』の検証の為に鉱石を取り出す。検証の為に何度か行ったと言う事もあり、今度は地面に落とす事無く鉱石を手で受け止めた。

 鉱石を手に持っていると再び2つの通知画面が表示され、充は『鉱物変換』のYESを押し実行を承諾する。すると、鉱石は光の粒が散る様に姿を消す。


 「『アイテムボックス』のリストに変化は無いよな。消費した鉱石は、何処に行ったんだ?」


 消費先に疑問を浮かべていると、新たな通知画面が表示される。


 《鉱物資源がチャージされました。固有スキル『武器生成』が使用可能です。生成物をリストから選択して下さい》


 新たな通知があり『ステータス』画面を開くと、新しい項目が増えており10000と表示されていた。


 「あった。鉱物資源残量?」 


 表記の仕方に疑問を憶えつつ、『武器生成』の生成物リストを開く。リストには3種類の名称が表示されていた。


 ・M1911

 ・45ACP弾

 ・弾倉


 「何故にこのチョイス?異世界で銃撃戦でも繰り広げろと?」

 

 異世界転生と聞いていたので、武器と言えば剣や槍が表示される物と思っていた充は、肩透かしを食らったかの様に膝の力が抜け体制を崩す。

 何度かリストを閉じ開きし見直すも、表示は変らなかった。 


 「まぁ、武器が何も無いよりはましか。使った事無い剣や槍を振り回すより、引き金を引けばコンスタントに威力を発揮する銃の方がマシ……と思うか」


 異世界転生の世界観ぶち壊しだろと思いつつ、充はリストの文字に触れ『武器生成』の実行を承諾する。『アイテムボックス』から品物を取り出す時と同じ様に、光の粒が集まり生成物が実体化する。 

 その際、充は体内を巡る何かを削られ精神的に少し疲れたと感じた。


 「デカイな。こんなの撃てるのか?」


 出現した鉄の塊と呼称しても良いであろうソレは、転生し前世より小さくなった掌には大き過ぎる様に思えた。

 試しにグリップを右手に持ち構える。


 「握力が上がった分、大して違和感無く持てはするな。後は実際に撃って見て、射撃の反動に耐えられるかだけど……」


 安全装置を解除し、20m程離れた一本の木に銃口を向ける。充が照準を定め様と木を注視すると、視界にFPS等で表示されるレティクルが出現した。充が驚き視線を外すとレティクルも消えた。

 頭を軽く振り気を取り直した充は、もう一度拳銃を構えて木に照準を合わせる。レティクルが出現し、一発ずつユックリと撃つ。静かな森に、規則正しい間隔で破裂音が7度響く。

 試射の結果は、初弾が命中した箇所を中心に数センチの誤差で集弾している物だった。


 「意外な程に反動は感じないな」


 充は拳銃を持った右腕を見ながら、腕や掌に痺れも無い事を確認した。体内を巡る何かと鉱物資源を消費し、弾を新たに生成して検証の為の試射を続ける。

 新たに拳銃を生成し両手に構え2丁拳銃を試したり、連射性能の確認では跳ね上がる銃口を力で押さえ込みながらセミオート拳銃で機関銃並みの速射を行った。


 「凡そ射撃に関しては問題は無いな。後はコレが、異世界でも通じるか如何かだな」


 一通りの検証を終えた充は、銃弾の威力に疑問は残る物の、拳銃自体に不安は無いと結論付けた。


 「取り合えず、このままだと邪魔だから『アイテムボックス』に収納て置くか。ああ、鉱物資源も大分消費したから序に補充して置かないと」


 充は2丁の拳銃を握っている間中表示され続けている通知画面を操作し、収納すると共に鉱石を取り出し『鉱石変換』を行う。

 1000まで減っていた『ステータス』の、鉱物資源残量が11000まで回復した。

 

 「それにしても、この一々表示される通知画面は邪魔だな。表示設定は変更出来るか?」


 鬱陶しい通知画面に愚痴を漏らしつつ、コンソールの操作を行う。

 『設定』の文字に触れ、画面を開くと十数項目の文字列の羅列されている。


 「基本的に表示機能のON/OFF設定ばかりだな」


 今現在、十数個に及ぶ項目は全てONになっている。充は各項目を検討し、必要無い物は順次OFFにしていく。 

 数分で作業を終えると、一々各行動に対する通知は表示され無くなり大分サッパリとした。


 「良し、大分扱い易くなった。後は……」


 『MAP』の文字に触れ画面を開くと、有視界で確認出来る近辺の地図が表示された。

 まさかと思い、『MAP』を閉じた充は少し森の中に入り直に泉の側に戻る。改めて『MAP』を開くと、移動した距離分の地図が更新されている事に気付いた。


 「オートマッピング機能が付いてるのは有り難いが、有視界で確認する必要があるのか。……微妙」


 検証の結果、『MAP』機能は何とも言えない評価に落ち着く。

 充は気を取り直し『LOG』の文字に触れ画面を開くと、数十行に及ぶ行動履歴が時系列事に羅列されていた。内容を読み込んで行くと、固有スキルを使用した時刻に共通して『規定魔力を消費』と言う記述を見つける。

 

 「……魔力。ヤッパリ削られていたのは魔力か。まぁ、異世界だしな」


 充は先程から削られていた物の正体に納得し、魂的な物や生命力的な物出なかった事に胸を撫で下ろしながら安堵する。

  何故なら精神的疲労は既に回復しており、行動に支障を感じなかったからだ。


 「使い切って気絶したりしたら困るから、安全領域を確保してから要検証だな。固有スキルの使用は魔力消費が少ないのか、はたまた自身の回復速度が早いのか……」


 念の為『ステータス』を開くと、MPの項目が増えていた。充は継続的に調べる物が増えたと、疲れた様に溜息を吐く。時間は掛かった物の、一通りコンソール関係の確認は終了する。


 「良し、コレで終了っと。後はTYPE Biplaneの意味と、この如何にもな付属品累々の検討だな」


 充は腰に着いた跳ねや頭のゴーグルを撫でながら、目覚めた時に見た位置よりも高い位置に移動した太陽を、ボンヤリとした眼差しで眺めた。

 

 

 


暫く空戦はありませんので、あしからず!

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