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外伝02 とある領主の疑問

 

 

 

 豪華な内装が施された屋敷の一室から、怒鳴り声が響いてきた。

 

 「モンスターの大群だと!?」

 「はい。冒険者による偵察隊の報告によると、オークを主力とした混成軍の様です。」

 「数は?」

 「正確庭分かりませんが、1000は居るかと」

 「1000」


 老執事の報告を聞き、執務机に座って報告を聞いていた男は、椅子背もたれに体重を掛けながら呻く様に呟く。 


 「オークキングが発生したのか?」

 「おそらく。でなければ、この数には説明が付きません」

 「そうか。……我が街の戦力は?」

 「領軍が80、衛兵が60です。武器持ち冒険者に関しては、後ほど冒険者ギルドに正式な数を確認しますが、おそらく50程かと」

 「200に満たないか……」

 「ファロフ様……。こうなると、領軍を各村に分散派遣してしまった事が痛かったですな」

 「仕方あるまい?モンスターの出現が頻発する村々を見捨てる訳にも行かん」


 ファロフと呼ばれた男は苦虫を噛み締めた様な表情を浮かべる。

 一番保有兵力が少ない時期に、大規模モンスター災害が発生すると言う不幸を呪った。


 「篭城するぞ」

 「それしかありませんな」

 「ペジェルとケルセに援軍を要請する使者を出せ。上手くタイミングが合えば挟撃出来る」


 ファロフは、執務机の引き出しから書状用の用紙を取り出す。


 「そうなると体制を整える間、モンスター軍の攻撃に耐える必要がありますな」

 「だが、我が街単体で打って出ても、数に押され返り討ちに会うのが関の山だ」

 「ですな」


 老執事はファロフの様子に些か安堵する。その様子を見たファロフは眉を顰めた。


 「俺が考えも無しに突撃すると思っていたのか?」

 「普段のファロフ様を知る者なら、誰でも危惧しますよ」

 「……ふん!」

 

 不機嫌そうに鼻を鳴らしながら、ファロフは書状をて早く認めて行く。出来た書状を封筒に収め、封蝋を押す。


 「出来たぞ。とっとと使者を出してこい!」

 「はい」


 老執事は処状を受け取った後、一礼しファロフの執務室を後にした。ファロフは老執事の出て行った扉を睨みつけた後、椅子から立ち上がり窓から街の様子を眺める。


 「最近、各村々にモンスターが出ていたのは、これの兆候であったか。もう少し疑って事態に掛かるべきであった」


 目を細めながら自身の失策を悔いる。


 「援軍が来るまで早くて3,4日は掛かる筈。モンスター軍が我が街に到達するのは2,3日後。最低1日は籠城で耐えねば成らんと言う事か」


 大軍相手に寡兵で篭城戦に耐えられるのか?と言う不安がファロフの胸中に渦巻いていた。 


 「万が一、今の状況をゴブリンキングが作ったのだとしたら、一筋縄で勝てる相手ではないな。分散した領軍を今から呼び戻すのは、各個撃破の危機を招く愚策か」


 戦略の段階で既に負けている事を、ファロフは自覚した。


 「人は足りず情報も乏しい。資金や物資は数日篭城する分には問題無いが……」


 考えれば考えるだけ不安が増していく。 


 「これ以上は考えても仕方ない。出来る事から始めよう」


 机に戻ったファロフは、関連各所への指示書を作成し始める。

 

 

 

 

 

 領主館の広い部屋に、各ギルドのギルドマスター達がファロフに呼ばれ集まっている。突然の呼び出しにスケジュール調整が大変だったのか、ほぼ全員が不機嫌な雰囲気を漏らしていた。

 只一人、冒険者ギルドのギルド長のみ深刻な顔をし押し黙っている。

 ファロフが老紳士を伴い部屋に入ってきた。


 「待たせてしまい、すまない」 

 「いえ。ですが、何事ですか?緊急で我々を呼び出すなど」

 「ですな。事前に日程を通達して貰えれば、もう少し余裕を持って集まれたのですが」


 呼び出した本人が遅れてきた事に、出席者達は遠廻しに苦言を呈す。

 しかし、それらの苦言を意に返さずファロフは呼び出した要件を告げる。


 「事は緊急を要する事案だ」


 ファロフの様子に違和感を覚えた出席者達は、真剣な表情で次の言葉を待つ。


 「1000体を越すモンスター軍団が、ここジグバラの街を目指し現在進軍中だ」

 

 出席者はファロフの発言に絶句し、咄嗟に出席者同士でアイコンタクトで確認を行う。そして、真偽を知っていそうな冒険者ギルドのギルド長に視線が集まるが、冒険者ギルドのギルド長は目を閉じたまま沈黙していた。

 かえってそれがファロフの発言が本当の事だと、出席者は確認した。


 「ジグバラの街にモンスター軍団が到着するのは、2,3日後の予定だ」

 「何ですと!?」


 ファロフの言葉に、商業ギルドのギルド長が立ち上がりながら驚愕の声を上げる。他のギルドマスターも絶句し、目を向きながらファロフを凝視した。


 「事実だ」


 冒険者ギルドのギルド長が、体制を変えぬまま静かにファロフの言葉を肯定する。


 「最近フィヴァジ森林地帯から続発する、モンスター出現の原因調査に派遣したパーティーが先程報告してきた」

 「そ、そんな」


 商業ギルドのギルド長は腰砕けに成ったのか、力なく椅子に座った。他のギルド長も顔色が悪くなる。 


 「街の防衛は大丈夫なのですか?」


 飲食店ギルドのギルド長が、か細い声でファロフに質問する。


 「難しい。最近モンスターの被害に遭っていた各村々の防衛に領軍を派遣していたので、モンスター軍団を討伐する兵の数が足りん」

 「な、そんな」

 「既にペジェルとケルセには、援軍要請の使者を出している。だが、援軍が到着するのは早くとも3,4日後だ。最低でも一日は自力で持たせねばならん」


 ファロフの言葉に、会議室内には沈黙が広がる。


 「そこで、諸君に篭城戦の為の協力を要請する」


 ファロフに視線が集まる。


 「領軍と衛兵は全て篭城戦の正面戦力に当てる。冒険者ギルド長」

 「何です?」

 「緊急強制依頼を冒険者に出して貰いたい。武器持ち冒険者には戦線に参加して貰う。武器持ちで無い者には、篭城中の街内の治安維持を任せたい」

 「分りました」

 「鍛冶ギルド長」

 「はい」

 「武器の供出を御願いする」

 「分りました」

 「他の各ギルド長は人を出して欲しい。兵達の後方支援を御願いする」

 「「「「分かりました」」」」


 ファロフの要請を受けた各ギルド長は、各々の胸中でこれから出しべき指示の思案をする。


 「外部に繋がる門は全て、今夜の閉門時間以降モンスター軍団の討伐が確認されるまで閉鎖する。後ほどモンスター襲撃の情報と合わせて、街の住人以外の者には退去を促す」

 「門の閉鎖は兎も角、街外の者への退去勧告ですか?」


 街外の人間が多く利用する宿屋を統括する、宿屋ギルドのギルドマスターがファロフに疑問を投げかける。 


 「ああ。篭城戦とも成れば混乱は必死だ。街の住人と街外の者がイザコザを起こし、暴動にでも発展すれば一日も持たん。故に街人以外の出入りを規制し、混乱の目を今の内に潰す」

 「成程、分りました。各宿に徹底させます」

 「頼む」 


 ファロフの答えに納得したギルド長は、要請を反論せず受諾する。ファロフは一度会議参加者を見回し、語りかける


 「厳しい戦いに成ると思うが、援軍が来まで皆で協力し合えば充分耐えられる。そうすればモンスター軍団など直ぐに討伐可能だ。皆の協力に期待する」

 「「「「「「はい!」」」」」」


 各ギルド長はファロフの協力要請に従い、各々のすべき事に取り掛かった。

 

 

 

 

 

 「早く準備しろ!モンスター達が来るまで時間は無いぞ!」

 「矢が足りないぞ!補給はどうなっている!?」

 「補修班!ここの壁にも亀裂がある!すぐに亀裂を塞げ!」

 「夜食が出来たぞ!手の空いてる奴から食べろ!」


 松明で明かりを確保した外壁の上で、怒号が飛び交う。兵士は勿論、手隙の者を総動員した突貫工事だ。篭城戦の準備は順調に進んでいた。

 そんな外壁を、ファロフは老執事と共に視察している。


 「順調だな。これならモンスター軍団が到着する前に篭城戦の準備は整うな」

 「はい。これも全て、皆が積極的に協力してくれる御蔭です」

 「そうか。モンスターを撃退した後、皆に報いらねばいかんな」

 「はい。当家主催で戦勝会を開こうと思います」


 視察の結果、ファロフは後の事を考える余裕が出てきた。松明に照らし出される者達の顔には悲壮感はなく、皆何とかすると言う気概が見て取れる。


 「ファロフ様」

 「?門番長か」

 「門の閉鎖は終了しました。予定通り、街外の者達は殆ど退去勧告に従い退去しました」


 初老の熊っぽい男が、片膝を付きながらファロフに報告する。


 「そうか。街人はどれほど退去した?」

 「極少数です。皆街を守ろうと、協力してくれています」

 「そうか」

 

 報告を聞いたファロフは、嬉しそうに頬を緩める。だが、門番長は少し残念そうな表情を浮かべた。


 「しかし……」

 「?」

 「篭城戦の戦力になると思われる者も退去してしまったのは、少し惜しかったです」

 「有名な冒険者でも来ていたのか?」

 「いえ。街外所属の冒険者は義勇軍と言う訂で参加してくれる事に成っています」

 「では誰だ?」


 要領を得ない話に、ファロフは若干苛立ちながら門番長の話を聞く。


 「ディポンの奴をご存知ですか?」

 「ディポン?……ああ、ポイズンラビット騒動の」

 「はい、そのディポンです。そのディポンがゴブリンに襲われたと言う話はお聞きに?」

 「いや。ゴブリンに襲われたとは言え、今の御時勢なら珍しい事ではあるまい?護衛が付いていたのであろう?」

 「いえ」

 「護衛を雇わなかったのか?」

 「雇っていたそうですが、襲ったゴブリンの数を見て護衛が逃げ出したそうです」

 「冒険者がか!?それでゴブリンに襲われ逃げ切るとは、ディポンと言う奴は中々運が良いな」


 冒険者が逃げた事に驚くファロフに、門番長は指摘する。


 「いえ、逃げきれずゴブリンに襲われています。ですが、偶然居合わせた旅人に助けられたそうです」

 「旅人?」

 「はい。些か変わった見た目をしていましたが、悪い者ではなさそうでした」

 「その者が戦力に成ると言う奴か?」 

 「はい。何でも、素手でゴブリン10体を一人で瞬殺したそうです」

 「素手!?何かの間違いであろう?流石にゴブリンを素手と言うのは嘘であろう」

 「無論私も疑いましたが、実際ゴブリンを倒したと言う手法を少し実演して貰った所、あながち嘘とも言えませんでした」

 「その方が実際に目にし、そう判断したのか?」

 「はい」


 ファロフは頷く門番長を見て沈黙し、残念そうに呟く。


 「そうか、それは惜しかった。兵力が少ない以上、少しでも使える人材は欲しかった」

 「はい。各門に連絡が行く前に、街を出てしまっていたのは残念でした」

 「まぁ、仕方有るまい。何とか今ある兵力で、この難局を乗り越えて見せよう」


 ファロフは決意を漲らせフィヴァジ森林地帯を見ると、不意に耳に耳鳴りの様な音が聞こえた。


 「今、何か聞こえなかったか?」 

 「?いえ、特になにも」 

 「気のせいか?」


 耳をすませると、ファロフの耳に再び耳鳴りの様な音が聞こえた。


 「やはり何か聞こえるな」

 「?」

 「フィヴァジ森林地帯の方からだ」

 「……調べさせますか?」

 「いや。単なる耳鳴りだろう。今は篭城戦の準備を優先させよう」

 「分りました」


 老執事がファロフを心配層に気遣う。

 

 

 

 

 

 モンスター軍団の襲来を警戒し2日目の昼過ぎ、今だモンスター軍団の姿は見えない。警戒を続ける兵士や街人の顔には、披露の色が滲みだしていた。


 「!来たぞ!モンスター軍団!」  

 「全部隊に通達!迎撃準備!」

 「弓部隊!射撃用意!」

 「投石部隊、魔法使い部隊!タイミングを合わせろよ!」 


 外壁の上が慌ただしくなる。弓や投石の準備を急ぎ、合図を待つ。すぐに準備は整い、モンスター軍団はあと少しで、射程距離に入る。


 「まだだ、まだ。!打て!」


 射程に入ると同時に合図が出、弓矢や石、魔法が一斉に中を飛ぶ。打ち出された弓矢や石、魔法はモンスター軍団に次々に刺さっていく。


 「先は長いぞ!無駄玉は使うな!狙っていけ!」 


 モンスターからも投石が始まり、初戦は遠距離戦の模様が繰り広げられる。そして、日が落ちるまで一進一退の攻防が続いた。

 モンスター軍団が一時撤退した後、ファロフを筆頭に各責任者が一堂に集結し会議が行われた。


 「数が少ないな」

 「はい。確認出来た限りで、モンスター軍団の数は500前後です」

 「残りは予備戦力として温存しているのか?」

 「オークキングの存在を確認しています。あの集団が敵の本体と考えて、間違いないはずです」

 「と言う事は伏兵が居るな」

 「おそらく」


 結論が出ないまま会議は続く。


 「仕方ない。伏兵が居る事を前提に戦うぞ」

 「それしかありませんな」

 

 結局兵力が少ないファロフ達には、取れるても限られていた。

 だが、一人の平が会議室に駆け込んで来た事で状況は変わる。


 「援軍が到着しました!」

 「何、本当か!?」 

 「はい!援軍本体より先行した伝令が、本体は明日の昼までに到着するとの事です!」

 「分かった。ご苦労」

 「はっ」


 援軍到着の報により、会議室の空気は明るくなった。


 「今少し耐えればモンスター軍団は討伐できる!皆の者、あと少し耐え凌ぐぞ!」

 「「「「「「おう!」」」」」」

 

 

 

 

 

 援軍到着後の展開は早かった。ジグバラを攻めていたモンスター軍団本体は挟撃され、それなりの抵抗は見せたが数に押され、オークキングが討たれると共に瓦解する。出現しなかった伏兵を警戒し周辺を調査したが、それらしき影は見つからなかった。

 残敵掃討が行われた後、ジグバラ領軍が援軍と合同でフィヴァジ森林地帯に調査に入ると500を超えるモンスターの屍を発見する。詳しく調べるも、誰がヤったのかは判明しなかった。、

 

 「では、誰かがモンスター軍団を間引きしてくれていたのか?」

 「おそらく」

 「名乗り上げる様な者は居なかったのか?」 

 「おりません」

 「名乗り出れば、英雄として称えるのだがな」

 

 ファロフと老執事は共に首をかしげながら、名も無き英雄の事を考えた。

 

 

 

 

 

これで第一章終了です。


ストックが切れたので、更新は遅くなります。


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