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外伝01 とある商人の災難

 

 

 普段なら露店が広がり賑わっている筈の広場は、殺気立った修羅場とかしていた。

 幾人もの人が血塗れで倒れており、その周りを怒号が飛び回り様々な人が慌しく走り回わっている。

 

 「くそ!おい!ポイズンラビットはどうした!」

 「武器持ちの冒険者が仕留めた!」

 「手の空いてる奴!被害者達を病院に運ぶから手を貸せ!」

 「くそ!被害者が多過ぎる!おい!近くの建物に治療場所を確保させろ!医者はそっちに回せ!」

 「解毒剤の手配を急げ!緊急事態だ、薬剤ギルドから解毒剤を供出させろ!」


 混沌とした騒ぎは留まる所を知らない。

 その一角、統一された制服を着た衛兵に囲まれたボロ切れの用にされた男が経たり込んでいた。


 「お待ちしていました隊長」

 「生きたポイズンラビットを持ち込んだバカは、コイツか?」

 「はい。逃亡しようとした所を確保しました」

 「そうか」

 「……」

 

 黙ったまま俯いている男を、隊長と呼ばれた男は髪を掴み顔を上げさせる。


 「単刀直入に聞く、生きたモンスターを専門施設以外の街内に持ち込むのが、禁止されている事は知っているな?」

 「……ああ」

 「では何故、生きたまま持ち込んだ?」

 「……」


 隊長は押し黙った男の頭を地面に叩き付け、痛みに呻く男に平坦な声で同じ質問を繰り返す。 


 「何故持ち込んだ?」

 「……」


 睨み付けながら押し黙る男の頭を、隊長は髪を掴み力任せに持ち上げる。


 「何故持ち込んだ?」

 「……頼まれたからだ」

 「誰に?」

 「……」


 再び押し黙った男の腹に、体調のツマ先が鈍い音と共に食い込む。


 「誰に?」

 「……この街の狸獣人の商人だ」


 隊長は依頼人を吐いた男の頭を放し、地面に崩れ落ちた男に目もくれず側に控える隊員に指示を出す。 


 「営巣に放り込んでおけ。それと何人かで、ディポンの奴を引っ立てて来い」

 「はい!」

 「いけ」

  

 隊長の指示に従い、隊員達は素早く行動に移る。隊員達の後ろ姿を見送った隊長は、広場の惨状を眺めながらポツリと漏らす。


 「落とし前は付けてもらうぞ、ディポン」


 隊長は踵を翻し、詰所への道を急ぐ。

 

 

 

 

 

 衛兵詰所の一室に、椅子に座るディポンを取り囲む様に衛兵が周りを固めていた。ディポンは顔を引き攣らせ脂汗を大量に流している。

 ディポンの正面の椅子に座る隊長が、静かに話し始めた。


 「話は聞いていると思うが、どう落とし前を付けるつもりだ?」

 「そ、それは……」

 「幸い、今現在死者は出ていないが、解毒剤の数が足りない。別の薬を処方し病状を抑えているが、解毒剤を2日以内に投与しなければ十数名が死亡する」

 「……」

 「そうなれば、お前の処刑は確定。店を含めた全財産は没収となる」


 ディポンの顔色が真っ青に変わった。隊長はディポンの様子を気にする事無く、冷静な口調で話を進める。


 「だが、お前にはもう一つ道を示してやる」

 「……それは?」

 「先に話した通り、解毒剤が不足している。その上、解毒剤の原材料も無いときている」

 「つまり……」

 「お前が隣街まで行って、解毒剤を持ってこい」

 「ふ、2日以内でか?」

 

 ディポンの青い顔色は真っ白に変わる。隣街までの往復には、通常馬車で3日は掛かると知っているからだ。


 「無、無理だ!二日で往復なんて」

 「出来なけらば、お前は処刑だ。無事解毒剤を持ち帰れば、被害者への保証と事後処理費用の支払い、それと罰金だけで済ませても良いとの事だ」

 「……」

 「馬を使い潰す気で行けば、ギリギリ間に合うはずだ」

 

 ディポンは予想される騒動による出費に目眩を覚えるが、処刑されるよりはマシと思い決断する。


 「分かった。解毒剤を取りに行こう」


 観念したのか、ディポンの全身から力が抜ける。

 

 

 

 

 

 詰所から釈放されたディポンは大急ぎで準備を整える。店員に馬車と旅路の準備を任せ、自身は冒険者ギルドへ旅路の護衛を求めに走った。

 依頼カウンターで、護衛が即時受注可能な冒険者を求め依頼する。少しでも早く出発したいディポンは、痛い出費であるが通常の倍と報酬を提示した。

 すると、ひと組の冒険者パーティーが名乗りを上げる。3人組のパーティーで、リーダーはボルツと名乗った。


 「今から、隣街までの護衛だな?」

 「ああ、但し緊急性のある仕事だ。2日で往復する強行軍だ」

 「随分急ぐな」 

 「解毒剤の購入運搬だ。間に合わないと人が死ぬ」 

 「広場で暴れたポイズンラビットの件か?」

 「そうだ。解毒剤が不足していて、急いで仕入れる必要がある。依頼を受けるか?」


 ディポンは依頼内容をボルツ達に説明し、護衛依頼の受諾の有無を聞く。


 「良いぞ」

 「良し、では早速出発する。一緒に来てくれ」


 カウンターで依頼手続きお済ませ、ディポンはボルツ達を連れ店へと急ぐ。店に到着すると小さな馬車がすでに準備されており、ディポン達は馬車に乗り込み出発する。

 門で出街手続きをしていると、初老の門番が話し掛けて来た。


 「災難だったなディポン。まぁ、成り上がる為に人がやらない商売をやるってのは、それなりにリスクがあるって事だ」

 「全く、その通りだよ」


 苦笑する門番に、ディポンは苦虫を噛み締めた様に表情を歪めた。しかし、直ぐに門番の表情は真剣な物に変わり、ディポンを諌めるように話す。


 「人の命がかかってるんだ。必ず時間までに戻れよ」

 「勿論だ」


 門番の言葉に、ディポンも真剣な顔で頷く。 

 二人が話をしている内に出街手続きが終了し、ディポンは馬にムチを入れ全力で走らせる。

 

 

 

 

 

 ディポン一行は街道を順調に進み、時折馬に回復薬を与えながら長く休む事無く走り続ける。その甲も合って、ペジェルの街が寝静まる前に到着した。

 時間外で締まっている門の前に馬車を止め、門の横にある門番詰所の扉を叩く。

 

 「夜分にすまないが、誰か居ないか!?」

 「五月蝿い!今何時と思っているんだ!明日の朝まで大人しく待っていろ!」


 不機嫌そうな門番が、怒鳴り声を上げながら姿を見せる。


 「緊急の要件だ!扉を開けてくれ!」

 「緊急?何がだ?」


 不機嫌そうではあるが、門番はディポンの話を聞こうと耳を貸す。


 「私はジグバラの街から来たディポンと言う商人だ。実はジグバラの街中で、ポイズンラビットが暴れると言う事故が起こり、多数の受毒者が出た。しかし残念な事に、ジグバラの町にある解毒剤だけでは数が足りず、こうしてペジェルの町まで解毒剤を取りに来た。急ぎ門を開けて入待ちさせて貰いたい!」


 ディポンの必死の訴えに驚いた門番は少し待つ様に言い、上司と相談する為に詰所の中へ戻っていった。数分で門番は責任者らしい猫獣人の門番を連れて、ディポンの前に戻って来る。


 「話は聞いたが本当か?」

 「勿論です、だから早く門を開けて貰いたい!」

 「ふむ。何か証明する物は持っていないかな?貴方の話が事実であると言う確証がなければ、規則上夜間に門を開く事は出来無い」

 「これを」


 ディポンは詰所で受け取っていた書状を門番に見せる。


 「確かにジグバラ衛兵隊の紋章。話は本当の様だな」

 「それなら!」

 「門を開けよう」 

 

 初老の門番が手を上げ合図を出すと、門がゆっくりと開いて行く。


 「帰りも急ぐのなら又声を掛けてくれ」

 「ありがとう御座います!」


 入待ち手続きを済ませたディポンは馬車に戻り門を潜って、ペジェルの街へ入っていった。ディポンは脇芽も振らず、門番聞いた薬剤ギルドの建物へ真っ直ぐ進む。

 到着した薬剤ギルドは既にしまっていたが、ディポンは扉を激しく叩く。


 「誰か居ないか!?急用だ!誰か!」


 暫く扉を叩き続けても何の反応も無かった。ディポンは諦め朝出直そうとキビ返そうとした時、扉が開き老婆が姿を見せた。


 「五月蝿いね、何だいこんな夜に?」

 「突然押しかけて、すみません!ですが、とても急ぎの用でしたので。申し訳有りませんが、薬剤ギルドの職員の方は居ませんか?」

 「アタシも職員だよ」

 「そうでしたか、すみません」

 「で?急ぎの用ってのは何だい?」


 老婆はディポンを建物の中に招き入れ話を聞く。


 「まずはこれを」

 「ん?この紋章は、ジグバラ衛士隊の物だね」


 老婆は書状に目を通し、然程時間を掛けずに読み終わりディポンに訴状を返す。


 「話分かった。少し待っとっとくれ、今解毒剤を持ってくるから」


 老婆の姿が建物の奥に消えると、ディポンは漸く一息付いた。


 「運が良かった。ここまで順調に来れるとは、思ってもみなかった」


 近くの椅子に腰掛けてディポンは、今日一日を振り返る。  


 「害獣駆除剤の生成に生きたポイズンラビットが欲しいと言われて手配はしたが……手配する業者を間違えたな。全く、何て杜撰な運搬管理をしているんだか」


 ディポンは、衛兵詰所で聞かされた業者の手腕を思い出し、呆れ切った溜息が漏れた。


 「今回の騒動で発生した損害は一体幾らに成るんだ?」


 被害者への保証に治療に掛かった経費、広場の騒動で壊れた露店への保証に街への罰金……。

 そして、誰かが死んだ場合は自分が処刑される。 

 考えるだけで、ディポンは胃が痛く成り手で胃の辺りを抑えた。


 「止めだ止め。今は目の前の事だけを考えよう」


 ディポンは頭を振り嫌な想像を消し、深呼吸を心を落ち着ける。暫く何も考えない様にしながら椅子に座っていると、老婆が解毒薬を持って戻って来た。


 「待たせたね。取り合えずギルドの倉庫を漁ったら、必要な数の在庫はあったよ」

 「本当ですか!?」

 「ああ。ただ、流石に無償で渡す事は出来んぞ?」

 「分かっています。お幾らですか?」

 「全部で金貨50枚だね」

 「……高く有りませんか?」

 「そんな事は無いよ。アンタに渡す分で、ここの解毒剤の在庫も空っぽなのさ。薬師に臨時依頼を出して、万が一の時の為にも幾らかは解毒剤は補充しておきたいのさ」

 

 ボッタクリを疑うディポンに、薬代が高価な理由を老婆は理屈立てて説明する。ディポンも説明に納得し、拡張バックから財布を取り出し大金貨を薬代に手渡す。

 老婆は大金貨を確認した後、箱詰めされた解毒剤をディポン手渡す。


 「確かに。夜分遅くに対応して頂き、ありがとう御座います」


 箱の中身を確認した後、ディポンは腰から頭を下げ老婆に礼を言う。

 

 「何、必要な時に必要な薬を用意出来ないとあったら、薬剤ギルドの名折れだからね。ああ一応、向こうの薬剤ギルドでも品質を確認した上で使っとくれよ?」

 「はい」


 老婆の注意事項を聞きながら、ディポンは解毒剤の入った箱を拡張バックに収納する。


 「では、先を急ぎますので」

 「ああ。頑張ってきな」 


 老婆と別れを済ませ、ディポンは馬車へと戻った。早速街へ戻ろうとしたディポンに、馬車の中で暇をしていたボルツ達が夕食を摂る事を提案する。


 「ディポンさんよ。早く街へ戻りたいのは分かるが、ここで食事だけでも取っていかないか?」

 「しかし」

 「アンタ、来る時もろくすっぽ食事を摂ってなかっただろ?このままだと何処かで倒れるぞ?」

 「……そうですね。食事だけでも摂っていきましょう」


 少し冷静さを取り戻したディポンはボルツの提案を飲み、繁華街の方へ進み空いている飲食店で食事を取った。

 ボルツ達は酒を飲みたそうにしていたが、ディポンが頑として認めず食事だけ済ませ街を出る。


 「待っていて頂き、有難う御座いました」

 「気にするな。暗いから気をつけて帰れよ」

 「はい」


 門番達に門を開けて貰い、ディポン一行はジグバラの街を目指し街道を進む。夜道ではあるが特に何か有る訳でもなく、順調に道程を消化していく。

 だが、ジグバラの街までの道程を半分程過ぎた頃、問題が発生した。


 「くそ!もっと速く走れねえのか!?」

 「無理だ!馬が疲れているのは勿論、荷車を引いているからこれ以上のスピードアップは」

 「兄貴!ゴブリン共に追いつかれる!」

 「あっ、兄貴前!」


 ボルツの仲間の一人が馬車の進行方向前方を指差し、悲鳴の様な絶叫をあげる。全員が指をさされた方を見ると、道の真ん中に倒木が接地されていた。


 「避けろ!」

 「この距離じゃ無理だ!何かに捕まれ!」


 ディポンが叫ぶと同時に、馬車に倒木が接触し車輪が大きな音を立て砕け散った。馬車は車輪を失い擱座し、馬も横倒しに成る。

 ディポンとボルツ達は幸い大きな怪我も無く馬車から這い出したが、危機は続く。 


 「おいおい、増えてるじゃないか!」

 「あ、兄貴!」

 「流石にこの数は……」


 周りを包囲するゴブリンにディポンが絶句していると、ボルツ達は狼狽し及び腰に成った。ディポンは勝てるかとボルツ達に声を掛け様としたが、その前に事態は動く。  

 ボルツ達はディポンを残し、逃げ様としていたのだ。


 「こら!依頼人を置いて逃げるな!お前ら護衛だろうが!」

 「五月蝿えぇ!こんな数相手に出来るか!悪いが抜けさせて貰うぜ!」

 「お、俺もだ!」

 「あ、兄貴!待って下さいよぉ!」

 「貴様らァ!」


 ディポンがボルツ達に向かい怒号を上げるが効果はなく、アッサリとボルツ達は逃げ出す。

 余りに見事な逃げっぷりに、マキナは怒りを通り越し感心してしまった

 ディポンは現実を思い出し、恐る恐る後ろ振り返る。すると、ゴブリン達はボルツ達に見向きもせず、マキナを囲うように包囲しており、ゴブリン達は明らかにディポンを狙っていた。

 そして、おそらくその狙いは。


 「く、来るなら来てみろ!絶対この荷は渡さん!」


 ディポンは護身用の小さなナイフを取り出し構えるが、手の震えが止まらない。ゴブリンのニヤケ顔が鼻につく。


 「この荷が届くのを病気の人々が待っているんだ!お前ら等に、絶対に渡すものか!」

 

 何とか震えを止めようと、自身に自己暗示の様な激励をかけるがあまり効果がない。それどころか返って、緊張し段々目の焦点も合わなく成って来た。

 ディポンはゴブリンと目がったと思った瞬間、ゴブリンに目掛けて思わずナイフを突き出す。


 「!?!?!!!」


 目標を外し地面に叩きつけられ、呼吸が一瞬止まる。咳き込んでいると更に痛みと衝撃が加わりディポンの意識が暗転した。

 

 

 

 

 

 ディポンが意識を取り戻した時、最初に目にした物は真っ赤に染まった大地。あれほど驚異に感じたゴブリン達は、肉片を撒き散らし血の海に沈んでいた。


 「うっ!な、何が?ひっ!」


 ディポンの口から声に成らない悲鳴が漏れた。痛む体を庇いながら起き上がろうとするが、血の臭気に力が入らない。胃から込み上げてくる嘔吐感を、口を抑え必死に耐える。


 「あの、大丈夫ですか?」


 ディポンが必死に吐き気を堪えていると、不意に後ろから声が聞こえる。新手のゴブリンかと警戒しディポンが慌てて振り向くと、そこには美しい少女が心配気に覗き込んで来た。

 焦茶色の服に白いマフラーを身につけた、幼さの残る白銀色の髪を靡かせる端正な顔立ちの少女だ。


 「……」

 

 血の海と言う惨状にはあまりに場違い人物に、ディポンは言葉が出ない。

 それからの出来事はディポンにとって、正に白昼夢の様な出来事の連続と言えた。無手でのゴブリンの単独討伐は勿論、壊れた馬車をマキナが持ち上げた時など顎が外れそうな程驚いた。だが、マキナの御陰で無事に馬車は動き御者台に座って場車を走らせている。少し余裕を取り戻したディポンは、後ろの荷台に乗るマキナについて考える。

 

 「(彼女は一体何者なんだろう?馬車を持ち上げた力を見る限り、ゴブリン殲滅の件もアナガチ法螺って訳でもなさそうだし)」


 幾ら考えても結論は出ないので、ディポンはマキナの事を単純に恩人と思う事にした。


 「(見ず知らずの俺を助けてくれたんだ、悪い子では無い筈だ)」


 ゴブリンから助けたからと言って無茶な見返りを求めてくる事も無く、街までの馬車への同乗を求めただけだった。


 「(まぁ、心強い護衛が居ると思えばいいか)」


 暫く何事も無く順調な道のりが続き、上級回復薬の効果か場車を全速で走らせるても、馬足が衰える事はなかった。 

 御陰で然程時間を掛けずジグバラの街に辿り着く。


 「マキナさん!ジグバラに到着しましたよ!」


 荷台に居るマキナに聞こえる様にと、大きな声で街に到着した事をディポンは伝える。門の前で暫く話し込んでいたが、先を急がないといけない事を思い出し、マキナの事を知人の門番に任せディポンは薬剤ギルドへの道を急ぐ。

 

 

 

 

 

 薬剤ギルドに到着し、ディポンは扉を蹴破る様な勢いで開けた。


 「解毒剤を持って来た。早急に品質鑑定をしてくれ!」


 大声を上げながら、ディポンはカウンターに座る受付嬢に詰め寄る。受付嬢はディポンの様子に驚き怯えていたが、事前に連絡が入っていたのか手早く鑑定士と取り次ぐ。

 連絡を受けた鑑定士はすぐに到着し、ディポンの持ってきた解毒剤を鑑定する。


 「本物です。品質も問題有りません」

 「そうか」

 「それでは、これらは直ぐに治療場所に運びます」

 「頼む」

 

 解毒剤を渡し終えたディポンは、疲れた様に待合室の椅子に座り込んだ。暫く椅子にカラダを預け、静かに息を吐くき心を落ち着かせる。


 「間に合った、のか?」


 ディポンの口から、不安がポロリと漏れる。指定された時間以内ではあるが、全員の病状が同じと言う訳ではない。 

 しかし、ディポンの疑問に答える者が居た。

 

 「間に合ったぞ」

 「……衛兵、隊長?」

 「何だ、その間抜けな顔は?間に合った事が嬉しくないのか?」


 隊長がディポンの背後に立っていた。


 「え、いや。何でここに?」

 「門所から連絡が来た。だからココにいる」

 「は、はぁ」 

 「取り合えず解毒剤の運搬ご苦労。ここに来るまで被害者達の病状は概ね安定していたので、お前が持ってきた解毒薬を与えれば全員快方するだろう」

 「そう、ですか」


 隊長の言葉を聞き、今度こそディポンは安堵の息を漏らす。


 「解毒剤入手の功績で持って、今回の騒動でお前に与えられる罰は罰金のみとする」

 「あ、ありがとう御座います!」

 「罰金は期日までに必ず入金しろよ?お前が罰金を入金しないと、被害者への保証や騒ぎで壊れた露店の補填が出来ん」

 「分りました。期日までには」

 「そうか。今後同じ様な事が起きない様に十二分に注意しろよ?」

 「はい」


 請求書の封筒と伝達事項を伝え終えた隊長は、ディポンに軽く手を振りながら薬剤ギルドを後にした。

 ディポンは渡された封筒を暫く眺めた後、拡張バックにしまう。


 「疲れた」


 突然訪れた災難に対する、ディポンの万感の思いが込められた一言だった。

 

 

 

 

 


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