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14機目 籠城戦の準備

 

 

 

  沈黙したマキナを見て、ケインは話を続ける。


 「街の上層部は今夜にでも外部に通じる全ての門を閉鎖し、籠城の準備を始めるつもりだ。明日以降、モンスターの討伐が確認される迄は、門が開く事は無いだろう」

 「……」

 「この話を聞いた旅商人なんかは、既に街を出る準備を進めている。お嬢ちゃんも3日後には街を出る予定だったみたいだが、どうする?」

 

 ケインは気を遣う様な眼差しをマキナに向ける。暗に街を出た方が良いと言っていた。

 マキナは帰宅途中に目にした、慌ただしそうな人の流れの意味を知る。


 「ケインさん達は、どうするんですか?」

 「無論、俺達はこの街に残るさ。生まれ故郷だし、宿の事もあるからな。なぁに、一日街に籠城して耐え凌げば援軍は来る。問題は無い」

 「ですが……」 


 二人を心配するマキナの言葉を、ケインは無言の手で制す。


 「それにな、籠城の時は街外の人間がいても治安が混乱するだけだ。この街に残る明確な理由が無い奴は、今の内に退去して貰った方が後々の不安材料が無くなる」

 「ケインさん……」

 「だから、今からお嬢ちゃんが宿を出ても、何ら悪い事じゃぁない」


 思い悩むマキナに、ケインは街を退去するに足る大義名分を提案する。旅路の準備自体は出来ているが、二人を見捨てる様で気が進まない。マキナはケインの姿に何とも言え無く成り、顔を床に向け黙り込む。


 「マキナちゃん、私達の事なら心配しないで。確かにこの街の戦力は少ないかもしれないけど、そう簡単に落ちる様な街じゃ無いわ。地方の小さな街だけど、一応城塞街何だからね」

 「まぁ、そう言うこった。無謀に打って出る様な事をしなければ、援軍が来るまで篭城する事は難しくない」


 マキナに気を遣う様に、ケインとヘレンは努めて明るく振舞う。だが。


 「ですが、それなら何故先程、ああも激しく言い合っていたのですか?」


 マキナの問いに二人は黙り込み、顔を見合わせた後ポツリポツリと口を開く。


 「何だ?この街の領主な、その何て言うか戦バカなんだよ」

 「戦バカ、ですか?」

 「ああ。この街はフィヴァジ森林地帯の近くにあるから、モンスター集団の襲撃ってのは今回程の数じゃなくても、何年か置きに希に起きるんだよ」

 「はぁ」

 「そんな立地条件だから、この街を収める領主ってのが脳筋と言うか戦バカと言うか……」

 

 ケインは言いにくそうに領主を酷評する。


 「その領主がな?今回のモンスター集団を討伐する為に、援軍が到着次第、全領軍と全冒険者合同で打って出るから、その間街を防衛する為の人員を各ギルドから一定数出す様にと言って来ているんだよ」

 「それって」

 「後方支援だろうが、宿屋ギルドでも人員を出す事に成っている。一応志願制って言う事には成っているが、家のギルドは元々人数が少ないからなぁ」

 「つまり、ケインさんが?」

 「そう言うこった」


 マキナがヘレンにも視線を向けるとヘレンは黙ったまま頷く。


 「本来町の防衛は領軍の仕事なんだが、今回はモンスターの数が数だからソコまで手が回りきらないみたいだ。有志を募って補おうって腹だろう」

 「領軍の数がどれ程かは知りませんが、普通は最低限の防衛用の兵数は残しませんか?」

 「だから最初に行っただろ?戦バカだって。領主曰く、戦力の逐次投入は下策であり持てる兵力を全て注ぎ込み敵を殲滅する、だとさ?」


 マキナは心底呆れた。戦術としては正しいかもしれないが、領主としては如何な物か?両軍は街を守る物と言う前提条件が消えていた。


 「そんなんだから俺も有志?として、街の防衛戦に参加する事に成っている。もっとも、援軍が来てからの後詰だがな」 

 「それに関して言い合って居たのが、先程私が見た光景だと?」

 「そう言うこった」


 そんな戦バカな領主の元で父が戦うのだとしたら、ヘレンも心配だろう。


 「やっぱり私も……」

 「いいや。街を出れるんなら出た方が良い」

 「何故です?」

 「あの戦バカな領主の事だ。今の所ギルドから後詰要員を出す様にしか言ってないが、その内街中にいる一般人からも有志を募りかねん」


 ケインは難しそうな表情の顔をマキナに向ける。


 「特にお嬢ちゃんの場合、両軍や冒険者達と一緒にモンスターの群れに突撃されかねん」

 「?どう言う事なの、お父さん?」

 「……お嬢ちゃん」

 「はい」

 「ディポンの奴に聞いたんだが、ゴブリン10体を一人で倒したってのは本当か?」

 「ディポンさん?知り合いなんですか?」

 「ああ。で、本当か?」

 

 ケインはマキナに問い質す様に厳しい眼差しを向ける。誤魔化せないと思ったマキナも、ケインの目を見てハッキリと答えた。


 「はい。ディポンさんがゴブリンに襲われていたので、見て見ぬふりも出来なかったので」

 「そうか。ディポンの奴はうちと取引のある商人でな、この間合った時興奮気味にお嬢ちゃんの事を語っていったよ。と成ると、益々街を出た方が良いな」

 「?」


 額を手で抑えながら、ケインは分かっていなさそうのマキナに説明する。


 「この話も、そのうち領主の耳に届くだろ。そうなったらあの戦バカの事だ、戦力の一つとしてお嬢ちゃんを確保しようと動くだろうさ」

 「……本当ですか?」

 「ああ。特にお嬢ちゃんの仮身分証には、賓客の刻印がある。それを盾にして勧誘するだろうさ」


 マキナは仮身分証を取り出し、賓客の文字を忌々しそうに睨み付ける。やはり呪詛の類だったかと思いつつ。


 「そんなに睨み付けても変わらないぞ?」

 「……はぁ」

 「まぁ、そんなんだから、出れるんなら早めに街を出た方が良いぞ?」

 「マキナちゃん?」

 「みたいですね」


 ケインのどこか残念そうな視線やヘレンの何か言いたそうながらも心配気な眼差しに負け、マキナは仮身分証をポケットに戻しながら観念した。


 「分りました。早々に街を出様と思います」

 「そうか。東門から出て、街道沿いに3時間も歩けば村に着く筈だ。今なら乗合馬車の最終便に間に合うかも知れない」

 「馬車の料金は幾らですか?」

 「確か、となり村までなら銀貨1枚位で、隣街までなら銀貨50枚位だったか?そうだよなヘレン?」

 「多分合ってると思うわ」


 ケインは乗合馬車の利用料金を思い出すが些か記憶が曖昧で、ヘレンに確認を取る。


 「結構高いですね」 

 「歩くよりは早いからな。歩いて隣町まで行くなら、5日か6日は掛かるぞ?」

 「間に合うなら駅馬車を利用する事にします」

 「そうしな」

 

 自身の事より他人を心配する二人に、マキナは申し訳無い気持ちになった。

 

 

 

 

 

 マキナはケインとヘレンに断りを入れ、部屋に戻り準備をする。とは言え、持ち物自体は全て『アイテムボックス』に収納している為、特にする事も無くマキナは別途に仰向けで寝転がった。


 「どうにか出来ないかな?ケインさんとヘレンさんにはお世話になったし、このまま何もしないで街を離れるのは」


 マキナは『コンソール』開き『ステータス』を確認する。暫し黙って『ステータス』を眺めていたマキナは、ポツリと呟く。 


 「機銃掃射ならモンスターの数を削る事が出来るかな?」


 機銃掃射――機関銃で薙ぎ払う様に射撃する事。航空機からの機銃掃射は、対空並走が無い場合一方的な物になる。

 マキナがやろうとしているのは、相手の手の届かない場所からの一方的な制圧射撃であった。マキナは別途から起き上がり、『アイテムボックス』からlMG08を取り出す。 


 「lMG08の装弾数は1帯250発。モンスターの集団は1000体って話だから、4帯有ればモンスターの総数と縦断数は同じか」


 マキナはlMG08を体の正面に軽々と構える。銃口はブレず真っ直ぐ窓の外に向いていた。


 「全部当たらないとしても、何往復かすれば集団の何割かは削れるはず」


 lMG08を『アイテムボックス』に戻し、『ステータス』を開く。『武器生成』のリストから7.92mm弾薬を選択し生成し様とするが、生成不可になっており、鉱物資源残量を確認すると1000を切っていた。

 

 「うげ!lMG08を一個生成するのに、鉱物資源を丸々40000も消費してたのかよ」


 『ステータス』の鉱物資源残量を確認し、マキナは思わず呻き声を漏らした。 


 「取り合えず鉱石を追加しておくか。はぁ、早めに鉱石の供給源を確保しないと干上がるな」


 マキナは鉱石を追加変換しながら、何とも金が掛かるスキルだと大いに嘆く。ポップコーンと言う金策が失敗に終わった以上、早急に別の金策を練らねばと改めて誓った。


 「これで弾薬の生成は出来るな。何れ位消費するんだ?」


 マキナは恐る恐る『武器生成』を実行し弾薬を生成する。光の粒が集まり、布ベルトに繋がれた銃弾が実体化する。

 弾薬が生成された事を確認し、マキナは『ステータス』の鉱物資源残量を見て吹き出す。


 「げっ!弾薬一つで10000も消費するだと!?」


 余りの消費量に思わず声を上げる。


 「拳銃の弾薬を生成しても1000は消費しないのに、ケタ違いの消費量だな。さすが機関銃って言えばいいのか?」


 皮肉混じりの呟きが漏れる。マキナは頭を抱えながら、慎重に弾薬生成を続ける。


 「締めて鉱物5つ分、50000の消費か」 


 僅か数分の出来事ではあるが、マキナの焦燥した感じが激しい。例えるならガチャに有り金を全額投入して、目当てのモノが手に入らなかったかの如き有様だ。


 「戦争は金がかかるって言うけど、本当に掛かるな」


 マキナは急激に財布が軽くなった様な気がした。しかし、これもケインやヘレンの安全の為の止むに止まれない出費だと思い、気合を入れなおす。


 「よし、取り合えずこれで最低限の準備は整ったな」


 生成した弾倉を『アイテムボックス』に仕舞い、ショルダーバックを肩からかけ部屋を出る。

 

 

 

 

 

 階段を下りると、ケインとヘレンが受付の前で待っていた。

 

 「ヘレンさん、これ部屋の鍵です」

 「確かに受け取ったわ」

 「慌しい出立に成ってしまいましたけど、お世話に成りました」

 「こっちこそ、ポップコーンの件とか有難うね」

 「いえ。ちゃんと報酬の方は頂いてましたので」


 マキナとヘレンは穏やかに別れを惜しみながら話をする。そんな二人の話に、ケインは少し遠慮気味に話しかけてきた。


 「お嬢ちゃん?」

 「あっ、ケインさん」

 「これ用意したから、持って行ってくれ」

 「コレは?」

 

 マキナはケインから大き目の籠を手渡された。


 「中に日持ちのする食べ物を入れといた、道中で食べてくれ」

 「あ、有難う御座います!」

 「いや、気にするな。夕食前に慌てて出る事に成っちまったからな。せめてもの、お詫びと餞別だよ。日持ちはすると言っても、其れ程長く持つ物じゃないから早めに食べてくれよ?」

 「はい!美味しく頂きます」

 「そうか」


 ケインの気遣いにマキナは大いに喜び、頭を下げながら礼を言う。夕食が食べられない事を残念に思っていたので為、このサプライズは本当に嬉しかった。


 「それじゃあ徐々行きます」

 「ああ、道中気を付けてな」

 「マキナちゃん又この街に来る事があったら、絶対又家に泊まってね!」

 「はい!その時は又お世話に成ります」


 マキナは二人に頭をっ下げながら一礼し、扉の方へ向かう。最後に、もう一度お見送りをしてくれている二人に軽く会釈をして、マキナは<木漏れ日亭>を後にした。

 

 

 

 

 

 マキナは街中を人にぶつから無い様に気を付けながら、早足で移動する。ケインが言っていた様に商人の馬車が、東門を目指し群れを作っていた。


 「ケインの言う通り、旅商人なんかの街人以外は殆ど街を出るみたいだな」

 

 門が近付くと、ズラリと並ぶ馬車の列が目に付いた。


 「この調子だと、駅馬車は無理だな」


 馬車の間を大勢の徒歩の旅人が、隙間を縫う様にして前に進んでく。門前で暫く人の列に並んでいると、マキナに出街手続きの順番が回って来た。 


 「身分証を」 

 「はい」


 門番に身分証の提出を求められ、マキナ仮身分証を手渡す。そして、やはり賓客の文字に目を止め、マキナに質問をする。


 「この賓客とは?」 

 「チョッとした事がありまして、街に入る時西門の門番の方が付けてくれてんです。要らないと言ったんですが侘びだと仰って」

 「ふむ」

 「あの?」

 「あっ、いや申し訳ない。どうぞ御通りに成って下さい」


 門番は仮身分証をマキナに手渡し、場所をあけ街道への道を開ける。


 「有難う御座います」

 「いえ。こんな自体ですので、旅路は十分に気を付けて」

 「はい!」


 マキナは門番に軽く一礼した後、東門を抜けジグバラの街の外へと歩き出した。暫く街道を歩き門から十分に距離を取った後、マキナは人目を避けながら街道から道を外れる。 


 「さてと、行くか!」


 マキナは人目が無くなった事を確認し、街道から離れる為に暗くなり始めた草原を全力で駆け出す。

 

 

 

 

 


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