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11機目 ポップコーンの試作

 

 

お気に入り50件越えました。

これからもよろしくお願いします。

 

 

 

 

 

 

 買い忘れていた幾つかの品を買い足した後、マキナは日が暮れる前に<木漏れ日亭>に帰宅した。

 

 「お帰りなさい、マキナちゃん。買い物はどうだった?」

 「ヘレンさん」


 扉を開けると、ヘレンが出迎えてくれた。


 「拡張バックって、高いですね。まさか小さなバックに金貨が要るとは思いませんでしたよ」

 「まぁ、魔法道具だからね。あれでも既製品の一般販売用だから、比較的安い方よ?大商人が使う輸送用や王侯貴族が使うオーダーメイド品何かに成ったら、金額はそれこそ天井知らずなんだから」


 ヘレンは笑い話のように語るが、なかなか恐ろしい話である。マキナはますます『アイテムボックス』は、人前で使う事が出来ないと思う。


 「はぁ、先に詳しい値段を教えて置いて下さいよ。店員さんに残念そうな目で見られたじゃないですか。丁寧に接客して貰っていた分、余計恥ずかしかったんですよ?」

 「ハハッ、御免なさい。でも、その肩に掛けている物を見ると、広場の方で見つけたの?」

 「はい。気に入ったバックが、意外に安く購入出来ましたよ」


 マキナは背中に回していたショルダーバックを、ヘレンに見せる様に体の前に動かす。ヘレンはショルダーバックとマキナを見比べ感想を述べる。


 「うーん。マキナちゃんには一寸、無骨なデザインじゃないかな?もう一寸可愛いのも露店には有ったと思うんだけど?」

 「確かに色々と置いては有りましたけど、実用性重視で選びましたから。でも無骨なデザインの分、バックの頑丈さは折り紙付きですよ?」

 「そうなんだ。まぁマキナちゃんが気に入っているなら、私が兎や角言う事じゃないわね」

 

 マキナは自慢気に補強されている部分を軽く叩いてみせる。その仕草にヘレンは溜息を付きながら苦笑を漏らす。

 話に一区切りが付いたと判断したマキナは、とある相談事をヘレンに持ちかける。


 「バックの話は置いておいて相談なんですが、少し良いですかヘレンさん?」

 「相談?何かな?」

 「少しの間でいいので、厨房の隅を貸して貰えませんか?」

 「?厨房を?何をするのマキナちゃん?」

 「はい。実は明日から広場に御菓子を売る露店を出す事にしたんです」

 「マキナちゃんが!?」


 幼い容姿のマキナが露店を開くと言う話を聞き、ヘレンは小さく驚きの声を上げる。


 「はい。既に役所で出店許可は貰っています」

 「そうなの」

 「ですので、明日売るお菓子の試作品を少し作らせて貰えませんか?流石に部屋でと言う訳にも行きませんし。そんなに調理時間は掛から無い品なので、お願い出来ませんか?」

 「それで厨房を貸して欲しい、と言う話に成るのね」


 経緯を説明するマキナの話を聞き、ヘレンはやっとマキナの相談事の真意を知った。しかし、ヘレンは渋い顔をする。


 「でも食堂も、もう直ぐ夕方の営業だから……」

 「あっ!」

 「一応、料理長に聞いては見るけど、あまり期待しないでね?今仕込みで忙しいとだろうと思うし」

 「はい。すみません、お手間をかけさせて」


 ヘレンはマキナに少し待つ様にと言って、食堂に脚を向ける。暫し受付の前で待っていると、笑顔を浮かべるヘレンが戻ってきた。


 「大丈夫みたいだよ、マキナちゃん。仕込みの邪魔に成らない様なら、少しの間使って良いって」

 「本当ですか!?」

 「ええ。でも夕方の準備もあるから本当短い時間しか貸せないわよ?大丈夫?」

 「はい!大丈夫です」


 ダメだろうと思っていたマキナは、交渉をしてくれたヘレンに一礼し感謝を述べる。


 「そうじゃあ、早速厨房に案内するわ」

 「お願いします!」


 全身から嬉しそうな雰囲気を漂わせるマキナに苦笑を漏らしつつ、ヘレンは厨房へマキナを案内する。マキナもヘレンの後に嬉しそうに着いて行く。  

 食堂の脇の厨房へと繋がる扉を開き、マキナとヘレンは厨房内に入る。大きな声でヘレンがコックに声をかける。


 「お父さん、この子がさっき話したマキナちゃん」

 

 白いコックコートを着こなした渋い中年の男性コックが、ヘレンの声を聴きフライパンを持ったまま振り返る。


 「おう、ヘレン。ん?このちっちゃい嬢ちゃんがか?厨房を貸して欲しいって言ってるのは?」

 「そうよ」

 

 コックは見定める様な眼差しをマキナに向ける。マキナもその視線を感じ取り、緊張で身を固くした。

 二人の間に何とも言えない微妙な空気が流れるが、察したヘレンがその空気を打ち壊す。


 「ほら!何二人で変な空気を作ってるの!時間が余り無いんだから、早く始めましょう!」

 「ああ、そうだったな。スマンな嬢ちゃん、俺はこの食堂の料理長でヘレンの親父のケインだ」

 「あの、マキナです。えっと、ケインさん?この度は厨房をお貸し頂けるとの事で、有難う御座います」


 ヘレンに促され、二人はギコチナイ感じで挨拶を交わす。


 「それで?短い時間でも良いから厨房を貸して欲しいそうだが、そんな短時間で菓子が出来るのか?」


 お菓子作りには、下準備を含めそれなりに時間が掛かる事を知るケインは、マキナが言う短い時間でお菓子が出来ると言うのが些か信じられなかった。


 「あ、はい!材料を火に掛けるだけなので、時間は掛かりません」

 「そうか。俺はそんな簡単な調理手順のお菓子知らんな。果物の丸焼きか?」


 ケインは不審げにマキナを見るが、マキナは自信有り気に答える。


 「いえ。私の地元ではそれなりに知られている物ですよ。お手軽に作れて美味しい御菓子として」

 「そうか。まぁ時間も無い事だし、早速作ってみてくれ。道具は好きに使ってくれ良いからな」

 「有難う御座います!」 

 

 マキナはケインに礼を述べ、ショルダーバックから予め身を取り外して置いたトウモロコシの実を取り出す。


 「ん?そいつはトウモロコシか?」

 「はい、これが御菓子の原料です」

 「だがそいつは、家畜の飼料用じゃないか?」

 「こちらでは飼料用途でしか使われてい無い見たいですが、私の地元では普通に食用としても流通していましたよ?」


 マキナの取り出したトウモロコシの実にケインは怪訝な眼差しを向けマキナに訪ねるが、マキナは何でも無いと言った様子で準備を続ける。

 ケインに蓋付の小手鍋を借り、とうもろこしの実を少量入れて火にかける。

 

 「水で戻したり茹たりし無いのか?乾燥したままじゃ、固くて喰えた物じゃないだろ?」

 「いえ。この御菓子を作るには、乾燥したトウモロコシじゃないとダメなんですよ」

 

 マキナは鍋を揺らしながらトウモロコシを炒める。不思議な調理風景にケインは首を傾げながらも、静かにマキナを見守っていた。

 そして、加熱を始め少し時間が経った頃。


 「そろそろかな?」


 マキナが呟いたタイミングで、鍋から破裂音がした。


 「な、何だ?」

 「えっ、爆発?」


 驚くケインとヘレンを尻目に、マキナは破裂音が連続する鍋の蓋を抑えながら揺らし続ける。暫くして破裂音がしなくなったのを確認して、マキナは鍋を火から下ろす。

 マキナは出来上がりを確認する為、蓋を開けるとケインとヘレンから声が上がる。

 

 「何と!」

 「ええっ!?」


 鍋の中には真っ白なポップコーンが入っていた。マキナは塩を取り出し適量を振り掛けた後、蓋を閉め全体に塩が混じる様に軽く数回鍋を上下に降る。


 「よし、完成です。これが私の地元で良く食べられていた御菓子で、ポップコーンと言います。どうぞ、試食してみて下さい」

 

 マキナは完成したポップコーンを、鍋ごとケインとヘレナに差し出す。初めて見るポップコーンを前に2人は少し躊躇した後、恐る恐ると行った様子で手に取り口に入れた。

 しかし、その表情も直ぐに変わる。 


 「コレは……」

 「あっ、美味しい。サクサクしてるし、塩味が丁度良いかも」

 「口にあったみたいで、良かったです」

 

 ケインはポップコーンの入った鍋を難しい顔をして黙り込んで居るが、ヘレンはポップコーンが気に入ったのか、次々に食べる。 


 「どうですか?」

 「そうね。口当たりが軽いから、オヤツには良いかも」

 「露店で売るつもり何ですけど、その様子だと大丈夫そうですね」

 「原料がトウモロコシって言う事で躊躇する人も居るだろけど、味を知れば買ってくれると思うわよ?」 「店先に試食品を並べて置いた方が良さそうですね」 

 

 ヘレンの感想を聞き,マキナは販売方法を工夫しようと内心メモをとる。ヘレンとポップコーンについて話していると、難しい顔をしていたケインが漸く顔を上げマキナに質問する。


 「一寸良いか、お嬢やん?」

 「何ですか?」

 「コイツはお嬢ちゃんの地元だと良く知られているんだよな?」

 「はい。今回は塩を振った物でしたが、地元では塩の他にも色んな味のポップコーンが作られていましたよ」

 「そうか。うーん、こんな簡単な調理法なのに思い付かなかったな。イヤハヤ参ったな」


 ケインは額に手をやり、降参したと言いたげな表情を苦笑しながら浮かべる。そして、サバサバとした雰囲気でマキナに相談を持ち掛け始めた。


 「お嬢ちゃん。チョイと相談なんだが、コイツを家の店で出しても良いか?」

 「ちょっと、お父さん!」

 「いやな?コイツの塩加減は酒のツマミに、丁度良いと思うんだよ」

 「だからって!」


 ケインとヘレンはポップコーンを巡り、チョッとした言い合いを始めた。そんな二人の言い争いを眺めながら、マキナ何でも無いかの様にケインに話し掛ける。


 「別に構いませんよ?」

 「お、本当か?」

 「えっ、良いの!?マキナちゃん、これ明日から露店に出すんだよね!?」

 「はい。あっ、でも売り出すのは暫く待って下さい。初めてポップコーンを売った店と言う印象で、固定客を確保してからなら自由に売り出して貰って良いですよ」

 「ああ、そう言う事」


 心配するヘレンはマキナの考えを聞き、納得し安心した。ケインも同様に納得し話を詰める。


 「成程な。お嬢ちゃんは、どれ位の期間で固定客が付くとを考えてるんだ?」

 「まぁ売行き次第ですけど、5日もあれば良いかと。簡単な調理法なので、それ位で模倣店が出てくると思いますし。別に秘匿する様な物ではありませんし」

 「だろうな。よし、それならお嬢ちゃんの言う自粛期間の間に色々味を研究をしとくか」

 「頑張って下さい。あっ、出来れば価格帯を差別化して貰えると助かります」


 張り切るケインに、マキナは少し要望を出す。


 「価格帯の差別化?」

 「はい。私が露店で出すつもりのポップコーンは材料を切り詰め出来るだけ安価、銅貨10枚位で売りに出そうと思っています。ですので、ケインさんがお店で売り出すポップコーンは材料を厳選し、銅貨50枚位の少し高めに値段設定にして貰えれば、客の購買層を分ける事が出来ると思うんです」

 「成程、そう言う考え方もあるな」

 「多分、私が出店して直ぐに出てくる模倣店は、私の店と同じ低価格帯で出してくると思います。その間に高級ポップコーンを売る店と言う印象を与えた方が、高級志向の固定客を確保出来ると思います。無論オツマミ用の安い物を出すのも有りだと思います」


 マキナの商売論を聞き、ケインはホトホト感心する。

 

 「そうだな、オツマミ用以外の物も考えておくか」

 「はい。基本的なレシピでしたら、幾つか提供させて頂きますよ?」

 「おっ、そいつは有難いな。ヘレン!」 

 「何?お父さん」

 「嬢ちゃんは何泊止まるんだ?」

 

 ケインはヘレンに声をかけ、マキナの宿泊予定を聞く。

 

 「一応6泊の予定、今日を入れたら5泊ね。延長の可能性もあるけど」

 「なら取り合えず、その間は食事のランクを上げとくぞ。お嬢ちゃん、ポップコーンのレシピ代はそれで良いか?」

 「あっ、はい。でも……」

 「なら決まりだな。夕食は楽しみにしといてくれ」 

  

 

 

 

   

 夕方の営業の準備があるとケインに言われ、マキナは厨房を後にし部屋へと戻っていた。

 

 「ポップコーン自体は作れるって分かったから、次は店の準備だな。POPと紙袋を作って置くか」


 追加で買い足した余り質の良くないA4サイズの100枚綴りの一束銀貨1枚紙を、部屋に備え付けの机の上に置く。インク壷と羽ペンを取り出し、POPの図案を考える。

 

 「単色の黒しかないけど、POP自体は良く日本で見た様な感じで作れば良いか」


 <新商品!><ジグバラ初上陸!><ポップコーン!><オススメ!><激安!>……

 マキナは日本で良く見かける売り文句をPOPにした。紙一杯に文字を書き、漫画等で良く使う効果線を付ける。


 「こんな物か?単色で余り目立たないけど、まぁ無いよりはマシか」


 POPの出来に少々不満は残る物の、一応合格点を出し次の作業に係る。


 「さて、面倒だけど紙袋を作ろう」


 長方形の紙を二つに織り、両端と下角を折り曲げ中身が出ない様にする。一つ作るのに十数秒かかった。


 「徹夜かな?」


 残りの紙束を見て、マキナはウンザリとした表情を浮かべる。

 

 

 

 

 

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