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09機目 商売のネタ探し

 

 

 

 露店を散策していたマキナは、ポツリと呟く。


 「何か自作して、露天で売るのも良いかもな」


 露店に売られる品々を見ていると、そのクオリティーは幅広い。職人が作ったと一目で分かる工芸品レベルから、素人が趣味で作ったと分かる売り物かと疑問に思う品まで。

 

 「ライトプレーンでも作って売るかな?」


 簡略的な構造で安く作れ、空を飛ぶと言う物珍しさで売れそうであった。マキナも何度か作った事があるので、フルスクラッチでも作れる。

 しかし、問題もあった。


 「飛行機の原型みたいな物を持ち込んで良いのか疑問が浮かぶし、ゴムって手に入るのかな?」


 異世界の情勢が全く分からない状況で、下手に空を飛ぶ物を持ち込むのはリスクが高すぎる。更に材料的な意味で、ゴムが入手出来るのかも疑問だ。ゴムが手に入らないのならば、安価な代替の動力を探す必要がある。

 結論として、必要な労力とリスクに比しライトプレーン販売は割に合わないと成る。


 「もっと無難でお手軽な手段を考え様」

 

 マキナは思案しながら歩き続け露店外を通り抜け、飲食屋台街に入った。辺りから様々な食べ物の匂いが漂い、無意味なまでに食欲を煽る。


 「食べ物を売る。は、良いとしても何を売るかですね」


 飲食店の前を歩きながら、販売商品の候補を考える。手軽で利益率が良い物が理想的であるが、そんな物中々ある物ではない。

 そんなこんな考えながら歩いていると、昨日串焼きを購入した屋台の前まで来ていた。


 「お?昨日のお嬢ちゃんじゃねえか。どうした?また食べに来てくれたのか?」

 「あっ、昨日の」


 焼串屋の店主のオヤジに声を掛けられ、マキナは漸く思考の海から脱出する。合いも変わらず、美味しそうな焼串の香りと油が落ち焼ける音である。


 「そうですね、一本下さい」 

 「あいよ」


 焼串が焼けるまでの間、マキナは店主のオヤジに露店に付いて話しかける。


 「少し良いですか?この広場って、誰でも出店出来るんですか?」

 「ん?そうだな、基本的出店は誰でも出来るぞ。但し、チャンと役所で出店許可を貰った場合だがな」


 串の焼き具合を見ながら、店主のオヤジはマキナの質問に応えていく。


 「まぁ、出店許可は簡単に降りるよ」

 「そうですか。あっ、露店を出す時に出店料って掛かるんですか?」

 「ああ、少しな。向うの露店なら、敷物一つ分の出店スペースで大体一日銀貨1枚必要だな。俺みたいな飲食店の場合は、少し高く銀貨5枚って所だ」


 店主のオヤジは焼けた串をタレに通し、再び焼いて行く。垂れたタレが焼け、香ばしい香りが立つ。


 「何だお嬢ちゃん、お嬢ちゃんも露店を出すつもりかい?」

 「ええ、今の所は何を出そうか思案中なのですが」

 「ははっ、そうかい。まぁ上手く行くかどうかは、何事も遣ってみないと分から無いからな。無理しない程度に頑張んな」


 店主のオヤジは、焼き上がった串をマキナに差し出す。マキナは大銅貨を胸ポケットから取り出し、店主のオヤジに手渡し焼き串を受け取る。 


 「毎度有り。そうそう、役所なら前の大通りを真っ直ぐ進んだ所の目立つ建物だ」

 「有難う御座います。また来ますね」

 「おう。これからも、ご贔屓に頼むわ!」


 店主のオヤジの一礼し、マキナは焼き串に齧り付きながら飲食街の散策を再開する。


 「美味しい」


 昨日と変わらず大変美味しい焼串であると、マキナは満足そうに軽やかな足取りで歩く。暫く飲食街進むと、食料品を取り扱う市場の様な場所に出る。


 「結構色んな種類の食品が置いてあるな」 


 八百屋を筆頭に果物屋や肉屋、魚屋に調味料屋まで数多くの店が軒を連ね威勢に良い客引き合戦が行われていた。 


 「安いよ!安いよ!」

 「今ならこの一盛りで、たった銀貨一枚!買った買った!」

 「お兄さんちょっと見て行っておくれよ!」

 

 先程までとの露店街や飲食街とは、場の雰囲気が大違いであった。客達も負けじと値切り合戦を店主達と繰り広げている。

 様子見をしていたマキナも、客引きをしているおばちゃんに捕まった


 「そこ行くお嬢ちゃん!ちょっと見て行っとくれよ!」

 「?私ですか?」

 

 自分を指差しつつ尋ねると、店主のおばちゃんは大げさに頷き話掛けてくる。


 「そう、お嬢ちゃんの事だよ!どうだい、うちの品は?安くしとくよ!」


 そう言われ、マキナは店の商品に視線を送る。おばちゃんの店は、八百屋らしく様々な野菜が置かれていた。


 「この大根何かどうだい?仄かな甘味もあって、サラダには持って来いだよ!」

 「えっと」

 「それなら、この茸!肉厚で、塩を振って焼けば絶品だよ!」


 次々に野菜を勧められ、マキナはタジタジに成りながら、おばちゃんに話しかける。

 

 「すみません。今宿暮らしなので、野菜は……」

 「ああ、そうなのかい?」

 「はい。すみません」 


 無表情ながら申し訳無さそうな雰囲気でマキナが断ると、おばちゃんは失敗したと言う表情を浮かべた。しかし直ぐに笑顔を浮かべ、おばちゃんはマキナに話しかける。


 「それは済まなかったね、何か気になる物はあるかい?オマケするよ?」

 「えっと」


 改めた商品を眺めると、ある物がマキナの目に止まった。


 「すみません、それは?」

 「ああ、コレかい?これは飼料用の物さ」


 おばちゃんが軽く持ち上げ掲げた物は、乾燥したトウモロコシだった。その瞬間マキナの脳裏にとあるお菓子が思い浮かぶ。


 「そうだ、ポップコーンを作って売れば良いんだ」

 「ん?どうしたんだい、お嬢ちゃん?急に黙り込んで」

 「あっ、いや、ちょっと。すみません、そちらの品はお幾らですか?」


 マキナは少し吃りつつ、おばちゃんにトウモロコシの値段を聞く。おばちゃんは少し不思議がりながら、値段を告げる。

 

 「そうさね、1束銅貨50枚って所かね?元々飼料用で、大して高い物じゃないからね」


 マキナの見た所、乾燥トウモロコシは紐で1束10本程が纏められている様に見えた。乾燥トウモロコシ1本を2人前とすると、凡そ20人前分という事に成る。1人前銅貨10枚で販売しても、1束で銅貨200枚分になる。

 制作手順も簡易であり、利益率がいい商売の種をマキナは見つけた。



 「50枚ですか。トウモロコシは全部で何れ位量が有りますか?」

 「全部?全部だったら、そうさね20束位はあるよ」

 「でしたら、全部下さい」

 「全部!?」


 マキナの申し出におばちゃんは驚き声を上げる。無理も無い、幼く可憐な少女に見えるマキナが一人で乾燥トウモロコシを200本買おうと言っているのだから。


 「本気かい?お嬢ちゃん?」

 「はい。20束ですと、銀貨10枚ですね」


 マキナは胸ポケットから銀貨を取り出し、おばちゃんに手渡す。銀貨を受け取ったおばちゃんは、何度が手の中の銀貨を見た後、乾燥トウモロコシの束を受け渡す準備始めた。

 20束に成ると流石に量が多く、マキナの前に小さなトウモロコシの山が出来た。

 

 「ホントの持って帰れるのかい?それとも誰か取りに来てくれるのかい?」

 「?私が持って帰りますよ?あっ、紐なんか貰えますか?一括りにした方が持ち易いので」

 「……ああ、紐だね。一寸待ってな」


 マキナの何でも無いと言う返事に、おばちゃんは呆れの眼差しをマキナに向けるた。乾燥しているとは言え、20束にも成ると可なりの重量に成るからだ。


 「ほら紐だよ。好きに使いな」

 「有難う御座います」


 おばちゃんは長目の紐をくれた。マキナは紐を受け取り、紐をトウモロコシに掛け持ち手になる輪を作る。作業は数分で終わり、マキナは大量のトウモロコシを小さな背に背負う。

 おばちゃんはその光景を唖然とした眼差しで、言葉も出ないとばかりに静かに眺めていた。

 

 「それでは、お世話になりました。また寄らせて頂きます」

 「あ、ああ。毎度有り」


 トウモロコシの山を背負ったマキナの去りゆく背を、おばちゃんは白昼夢でも見た様な眼差しで何時までも眺めていた。

 

 

 

 

 マキナは軽い足取りで、広場の人気の少なそうな場所まで歩いていた。

 

 「いやぁ、意外と簡単に商売の種が見付かったな」


 背中のトウモロコシを見ながら、マキナは上機嫌に呟く。 


 「後は、安い鍋と調味料を見付ければポップコーン屋が出来るな。ああ、役所に行って出店許可も取らないと」


 マキナは辺りを見渡し人気も疎らに成ったのを確認し、視線の死角に成る茂みの陰に隠れ『アイテムボックス』にトウモロコシの束を収納した。  


 「ふう、これで少しサッパリした。大ピラに『アイテムボックス』が使えないのは、こう言う時不便だな」


 マキナは少し茂みの影で時間を潰し、元来た道を戻る。

 先ほどの市場で、今度は調味料を扱う店を覗く。


 「いらっしゃい。何かお探しかな?」


 笑顔で接客する前掛けをした若い男性店員が、何か探す様な仕草をするマキナに話しかけてくる。


 「えっと、塩って置いてありますか?」

 「塩?勿論置いてるよ」

 「お幾らですか?」

 「そうだね、1ヘク(1キログラム)当たり銀貨1枚って所かな?」


 男性店員は塩の入った瓶を指差しながら、マキナに値段を伝える。


 「そうですか。では塩を1ヘク下さい」

 「毎度あり。他には何かあるかな?」

 「胡椒はありますか?」


 胡椒と聞き店員に表情が少し変わる。


 「胡椒は有るには有るけど、一寸高いよ?」

 「お幾らですか?」

 「10ヘス(10グラム)当たり銀貨1枚だね」


 値段を聞き、マキナは胡椒の購入を諦めた。流石にポップコーンに使うには高過ぎる。


 「ちょっと高いですね。それなら砂糖は?」

 「砂糖は1ヘク当たり銀貨2枚だね」

 「砂糖を1ヘク下さい。取り合えず以上で」

 「毎度あり」


 男性店員は注文の塩と砂糖を、小さな小瓶に個別に詰めていく。紙と紐で口を密閉した二つの小瓶を持って、マキナの元へやって来る。


 「塩と砂糖を1ヘクずつ、銀貨3枚に成ります」

 「はい」


 マキナは用意していた銀貨を店員に手渡し、代金を確認した店員は瓶をマキナに手渡す。マキナは受け取った瓶を先ほど購入したショルダーバックの中に収め、男性店員に一礼し店を去る。 


 「塩味とシュガー味の二つで暫くは様子見だな。売れ行き次第で味を増やそう」

 

 予想以上のの胡椒の高さに愚痴を漏らしつつ、マキナは露店街へ歩いていく。先程散策していた時、日用品を取り扱っている店で鍋を置いていたのを思い出しながら。

 目的の店は直ぐに見つかった。


 「すみません、一寸見せて貰っても良いですか?」

 「おう、いいぞ」

 

 中年男性が店主の店には、様々な日用品が並んでいた。無論、マキナが目を付けていた大振りの鍋も。

 その中で一つ目に付いた物があった。

 

 「これは何ですか?」


 マキナが指さした所には、電気コンロの様な物が置かれていた。


 「それは魔力コンロだ。魔力を注げば、料理が出来るだけの熱が出る」

 「魔力コンロですか」

 「まぁ、そいつは余り出来が良くないみたいでな、魔力を良く食う。欲しいなら、安く譲るぞ?銀貨1枚でどうだ?」


 店主はマキナに、微妙な出来の魔力コンロを売り付けようとする。マキナも魔力コンロ自体には興味が有り、購入しても良いかと思った。


 「そうですね。そちらの鍋をお安くして貰えるなら、魔力コンロも一緒に購入します」

 「そうか。じゃぁ、少しオマケしてやるか」

 「有難う御座います」


 マキナは蓋付の鉄鍋を二つと魔力コンロを銀貨2枚で購入した。魔力コンロの使い方を店主の男性に聞きながら少し練習し、火力調整が出来る様にまで成った。

 魔力コンロをショルダーバックに詰め、鍋を両手に持ち店を後にする。


 「これで必要な物はだいたい購入出来たかな?」


 ポップコーン作りに必要な品を思い出しながら、マキナは露店街をのんびりと歩く。鍋を両手に持つ姿に多少好奇の視線が集まるの感じるながらも、マキナは気にする事無く進む。


 「ここなら大丈夫かな?」


 マキナは再び茂みで『アイテムボックス』に、鍋と魔力コンロを収納する。


 「さてと、役所に出店許可を申請しに行くか」


 マキナは広場を後にし、朝通った大通りを進む。暫く歩くと街を歩く人々の雰囲気変わり、ビジネス街といった感じの街並みに成って来た。


 「さっきまでとは大分感じが違うな。役所は、もう直ぐかな?」

 

 暫く歩いて行くとT字路に突き当り、その正面に如何にも役所と言う感じの建物がそびえ立っていた。人入りはそこそこ有る様で、一般市民や商人らしき人、衛兵の様な制服を着た人まで幅広い人々の出入りが見て取れる。


 「役所は此処で合ってるよな?」


 役所と思わしき石造りの建物は、マキナの記憶にある物で近い物で言えば日銀本店の様な建物だ。

 焼串屋のオヤジの道案内に従い到着した以上、ここが役所で間違い無い筈と意を決しマキナは建物の中へと入って行く。







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