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そして俺が彼女と別れないことを決めた理由④

 「……遅い!」


ムスっと腕組みして麻由が睨みつけてくる。


「悪かったよ、銀座なんかほとんど来たこと無いんだから、迷ったんだよ」


「まだ電車の乗り方もわからないの?」


「生まれつき都内住みのお前にはわからないだろうけど、田舎出身にはわかりづらいんだよ」


「はあ~、とにかく早く行くわよギリギリだわ」


 あの夜から数ヶ月、彼女と俺は奇妙な友人関係になっていた。


 顔が広い麻由は色々なイベントやパーティーに呼ばれるらしく、俺も友人として何故か同伴させられている。


 今回だって二日前になっていきなり銀座のビルでイベントあるからと強引に予定を入れられたのだ。


「今回もおっさん達に挨拶めぐりするのか?」


 元来人付き合いが苦手な俺が憂鬱な表情を浮かべると、


「人生の先輩って言いなさいよ……今回は私達と年齢はそう変わらないわ」


 麻由の口調に少し堅さを感じて、俺の身体も自然に強張る。


 ここ数ヶ月、俺は彼女に色々なイベントやパーティへと連れまわされ続けていた。


 その過程で芸能人や横文字の職業にモデル、ダンサーなど様々な人間達が入れ替わり立ち替わり彼女に挨拶をしにやってくる。


それを麻由はスマートに相手をし、かたや俺は彼女の横で間抜けでグダグダな挨拶をする。


 そしてその後は麻由の駄目出しと説教をされるのだ。


 それはたまらなく嫌ではあったけれど、おかげで俺が粗雑な田舎者であったことに気づくことができたことには感謝している。


 最近ではやっと彼女曰く、形はできてきたわねといわれる程度にはなれたのだ。


 それでもいわゆるセレブといわれるような階級の人間と接することには苦手意識を拭うことはできないが……。


 それも麻由に言わせれば負け犬根性と一蹴されるんだろうな……。



 


 放り込まれるようにタクシーに乗らされて着いた場所には何もなかった。


 正確に言うと『何も無い場所』では無かった。


 正しく表現するならば、イベントやパーティをするような建物が無いということだ。 

 

 タクシーが走り去り、俺は周囲をあらためて見渡す。  

  

 この場所はどうやら住宅街なようだ。


ビルのように高いマンションがまるで石塔のように集中して立ち並ぶ一画だった。 

 

「こんなところで降りてどうするんだ?」


 当然の問いかけをする俺を麻由は無視して、マンション前の植え込みに腰を下ろす。 


 その行動の意味が理解できず呆然と立っていると、曲がり角から車がやってきた。  

 

 道幅は決して広くはない。


それでも俺たち二人を避けて走り抜けることなどは余裕なはずなのにその車はゆっくりとまるで確認するように近づいてくる。  


 なんとなく薄気味悪くかんじたので俺もその車を避けるために麻由の横にどかっと腰を下ろす。


「もう少し優雅に座れないの?」


 いつも言われてる小言もこの状況ではなんだかホッとさせてくれた。


 件の車は黒いセダンタイプで、窓はスモークで覆われている。


そのせいで車内にどんな人間が乗っているかを確認することはできない。  

  

 ますます薄気味が悪い。  


 俺の田舎ならすぐに近所で噂が立つような怪しい見た目だ。


 そしてその怪しい見た目の車が俺たちの前で止まったので俺は思わず立ち上がってしまった。 

 

「落ち着きなさいよ……バカ」

 

 たしなめる一言で慌てて座りなおす。  


 その一部始終が終わるのを待っていたかのようにフルスモークで覆われた車のサイドガラスがゆっくりと下がっていく。


「やあ……お待たせ、待ったかな?」

  

 車の窓から顔を見せた運転手は、ミステリアスな外観とは違い、メガネをかけた真面目そうな男だった。 

 

「いえ……時間ピッタリでしたよ……やっぱり明さんに迎え来てもらって正解でしたね」


「ああ……芳樹だったらきっと趣味の悪いサプライズをやってきただろうからね」

 

 人懐こそうな笑顔で麻喩と会話をする彼が、俺に視線を移す。


「それで……その人が今日のゲストかい?」


「ええそうです……ほら、挨拶しなさいよ」


「あ、ああ……じゃなくて……は、はじめまして真田友和……です」 


 促された俺が慌てて礼をする。 


 麻愉の不機嫌度が上がったのを感じる。


 まずい、今日の挨拶は及第点どころかはっきり不合格だ。  


「ははは……なるほど、羽田さんが勧めてくるだけあってなかなか珍しいタイプだね。芳樹が喜びそうだよ」


 爽やかに笑う明さんに麻由は連れの失敗が恥ずかしかったのかやや顔を赤くして、


「ええ……しばらくはからかいの種になりそうですよ」


 ボソリとそれだけ呟いた。



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