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そして俺が彼女と別れないことを決めた理由⑨

「な、なんか凄いところですね……」


 色々なところに俺が遊びに連れていき、それっぽい服装もコーディネイトした。


それでも白音は白音だった。


 スタイルに似合った服をプレゼントしても理解出来ない着こなしをする。


 麻由に教えられた『お洒落なレストラン』に連れて行っても水をこぼし皿を落とす。 


 極めつけは行きつけのバーに連れて行けばウオッカを飲みすぎて胃の中身をぶちまける。


 薄暗い田舎から脱出し、昔とは違う自分になったつもりでいた。


だが一連のハプニングにはうまく対応できない。


 所詮は付け焼刃の知識……。


そんなものでは臨機応変にトラブル対応できない……。


所詮は田舎者ってことか……。


 そのたびに俺はため息をつく。


バツの悪そうな表情で、気まずくこちらを見上げる白音に俺は何も言うことが出来なかった。 


 なぜだか彼女をあきらめることが出来ない。 

 もしかしたら、妙な遠慮があるのかもしれない。


 そう、彼女を見捨てて都会に逃げたという負い目が……。


 粗野で馬鹿で間抜けな男……。 


改めて身の程を教え込まれ、彼女と一緒の時には気づくことのなかった劣等感を突きつけられる。


 ふと気づくとまた何日も会合に顔を出していないことに気づいた。

 

 麻由からのメールも怒りを通り越して飽きれるような内容になってきた。


 このままではいけない。 このままでは終われない。 


 チリチリと少しずつ焼かれるような焦燥感に悩まされる。

 

 何の為に田舎から都内に出てきた? 


 この一年もの間、何をしてきた?


 そして一体何のために俺に目を掛けてくれた麻由の教育を受けてきたんだ?


 田舎者の木偶の坊で終わりたくない。


 自分を慕って追いかけてきてくれた女性を失望させたくない。


変わった自分を見せたい。


 毎日チリチリと少しずつ焼かれるような焦燥感に悩まされる。  


 だが現実は甘くない。


 何もかもが上手くいかないことに俺は自信を失いつつあった。


 そしてそれは白音も気づきはじめていた。


 ある夜のことだ。 


 うまく白音のフォローをすることが出来ず、打ちひしがれながらもそんな姿を見せないように振舞いながら帰る道すがらのことだった。


「ねえ……、友和さん?」


 晩春も過ぎ、夜でもじっとりと汗がにじみ始めてくる季節のことだ。


 白音が急に振り返った。


「もう……無理しなくていいんですよ?」


「な、何を……」

 

 その後の言葉は出てこなかった。


 外気温以上に汗が噴き出し、喉はからからになっていく。


 お願いだ……そんな顔をしないでくれ。 


「ごめんなさい……なんでもない、です」

 

 一瞬だけ悲しそうな顔をして白音はまた前を向いた。


 もう俺一人ではどうにもならないのかもしれない。


 あちらこちらから聞こえてくる虫の鳴き声が俺を責めているように合唱するのを聞きながらそんなことを考えていた。


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