わくわく
1998年7月
私『順調ですか?』
医者『安心してください。ほら、人間らしくなってきたでしょ?順調ですよ。』
私『良かった・・・。』
医者『他に悩み事は?』
私『初めてなので、毎日が不安で仕方なくて・・・些細なことにいらいらしてしまうし・・・。』
医者に相談しても返ってくる言葉は気休め程度の慰め。そんなありきたりなものでも求めてしまうのは何故だろう。医者という肩書きを持つ人の言葉が私の心を癒してくれるから、それだけにすぎない。
私は気休め程度の慰めを聞いて心を癒し、マンションへと帰った。
チン
私『一戸建てに住みたいな・・・って、また喧嘩になっちゃうか。』
エレベーターを降りると帽子を深く被った男が私の肩にぶつかりながら入ってきた。
私『痛・・・。』
男『・・・。』
エレベーターの中に男は入っていった。
私『なにあれ!?いらいら制御が効かない時期だっていうのに!!』
でも、顔を隠してるみたいだった・・・この階に新しい人が入居したって情報も聞かないし・・・誰かの知人かな・・・?
ガチャ・・・。
そういえば、母子手帳を手に入れたんだ。あと8ヶ月くらいか・・・いらいらがわくわくに変わるのはいつ頃だろう。うう・・・。
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佐村『ジャケット、なんかアイデアないか?』
堀『ソロは前のバンドとイメージ変えたいんだろ?』
佐村『ああ。』
仲谷『和風でいく?』
佐村『確かにイメージは変わるけど、曲がアメリ被れだからな・・・。』
堀『月にロゴをさす宇宙飛行士とか。』
佐村『うーん。それなら最初から、それをコンセプトにアルバムを作りたいし・・・。』
人見『やっぱり前と同じように麻里で・・・色葉は?』
佐村『色葉?』
人見『麻里みたいにコスプレさせてさ・・・。』
佐村『今は無理だ。』
仲谷『今は?』
佐村『あいつ、3ヶ月なんだよ。』
人見『まだ、3ヶ月だろ?』
佐村『まだとか言うなよ。』
仲谷『あ・・・ほ、ほら、まだじっくり考えればいいじゃない。』
堀『もう数ヶ月待って、佐村の嫁さんのお腹をジャケットにするのはどうだ?お前のイメージも変わるだろうし。』
佐村『シンプルでいいかも知れないけど、俺だけで決めることは出来ない。』
人見『相談してみれば?』
佐村『相談もなにも、これから一番ひどくなる時期なんだよ。撮影も体力使うだろうし。』
仲谷『詳しいね。勉強してるの?』
佐村『ま、まあ。』
仲谷『煙草もやめたよね。いつまで続くんだろ。』
佐村『最近になって、外でも煙草はやめてくれって言われたから・・・なんだよ。』
仲谷『去年とは大違いだよね。』
堀『去年は去年で新婚で浮かれてたんだろ?根は真面目なんだよ。』
佐村『ジャケットの話をしてるんだろ。』
根は真面目。褒め言葉なのか良くわからない言葉。葉は不真面目なのか。
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ガチャ・・・。
佐村『ただいまー。』
私『おかえりーっ!!』
佐村『ん、なんで叫んでんだ?』
バンッ
佐村『これ、なんだ?』
私『母子手帳よ!!母子手帳!!お医者さんにも順調って言われたから、はやく伝えたくて!!』
佐村『そ、そうか。(機嫌がいい今なら・・・。)』
私『淡白ね。』
佐村『ちょっと相談していいか。』
私『なに?』
佐村『ソロ初アルバムがもう少しで完成するんだけど、そのジャケットに・・・。』
私『音楽の話?私、わからないよ。』
佐村『い、いや、そのジャケットにお前を起用するのはどうかって話になったんだよ。』
私『・・・でも、撮影ってキツイんでしょ。私、麻里みたいに顔立ちがいいわけじゃないし・・・もっとお腹も出てきちゃうだろうし・・・。』
佐村『実はそのお腹をメインに撮影したいんだ。』
私『えっ?』
佐村『つわりのピークが過ぎた頃でいいんだけど、どうだ?』
私『どうしても、私じゃないとダメ?』
佐村『色葉の妊娠とアルバムの制作がちょうど重なったから・・・まあ、数ある候補の中の一つなんだけど、確認したかったんだよ。』
私『・・・記念にもなるからいいよ。』
佐村『いいのか?』
私『うん。』
数ヶ月後にサムのソロアルバムのジャケット撮影をすることになった。プロの人に撮ってもらえるなら麻里に助言をもらおうかな。なんだか、わくわくしてきた。でも・・・うう・・・。