名前
穂『ヒトミンって普段どうなの?』
佳奈『・・・優しいよ・・・めっちゃ優しいよ。』
穂『ふーん。結婚するの?』
佳奈『私と結婚しても、人見が後悔するだけやから、結婚はないと思う・・・。』
穂『後悔?』
佳奈『あ、いや・・・そ、そろそろ帰ろうや。もう1時間くらい経ったやろ?』
穂『あ〜誤魔化してる〜!!後悔ってなになに(笑)』
佳奈『・・・しーっ(笑)聞いちゃいけないことってあるんやで。帰ろう・・・あれ、人見?』
人見『佳奈、家に帰るぞ。穂もマスターが帰って来いって。』
穂『もう、帰っちゃうの?』
人見『ああ。今日はマスターに聞きたいことがあって来ただけなんだ。』
穂『聞きたいことって?』
人見『佳奈のことで・・・。』
穂『結婚相談!?良かったね、佳奈さん!!』
佳奈『えっ・・・。』
人見『・・・そうだ、結婚相談だ。わかったら早く帰れよ。あそこの通りは物騒だからな。』
穂『わかってるよ、じゃあバイバイ。幸せにね。』
穂は佳奈に手を振った。
佳奈『あ・・・ば、バイバイ。』
佳奈が手を振り返すのを確認すると、穂はバーへと帰って行った。
人見『行ったか・・・。』
佳奈『穂ちゃんって純粋やね。私も新成人からやり直したいな・・・。』
人見『それが出来ないのが現実だ。だからといって空想の世界に逃げるのも情けないだろ?』
佳奈『・・・。』
人見『現実には俺がいるんだ。頼るならクスリや草に頼らずに俺に頼れ。』
佳奈『私もわかってるんやけど、体が勝手に求めてしまうんや・・・。』
人見『色葉が嫌いなんだろ?あいつは克服出来たぞ。』
佳奈『・・・そうやね。』
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
私『いやーっ!!』
佐村『ど、どうした!?』
私『妊娠線がくっきりと出てきた・・・。』
佐村『なんだよ・・・朝から大声出すなよ・・・ああ、びっくりした・・・。昨日の残りの味噌汁も、クソ不味いしよ。』
私『なんで、不味い味噌汁を作れるんだろうね・・・しかも、私が横で教えながら作ったのに。でも、残さないでね。もったいないから。』
佐村『作る量もおかしいだろう・・・味噌汁鍋じゃねぇか。』
私『昼まで持ちそう。』
麻里は、この塩辛い味噌汁鍋を味見して美味しいと言っていた。美味しいと言ってたけれど、夕食を食べずにとんずらしたんだ。私が味見すれば良かった・・・。こんなときは、楽しい話をしよう。私は本を取り出した。
私『ねぇ、赤ちゃんの名前どうする?』
佐村『姓名判断の本を見て考える親とかいるじゃん。俺、胡散臭い占いってやつを信じたくないんだよ。』
私『ギクッ!!じゃあ、どう考えるの?』
佐村『赤ちゃんの顔を見て、頭に浮かんだ名前でいいんじゃないか?』
私『そんな適当じゃ可哀想だよ。』
佐村『そうか?俺は嬉しいけどな。命名の意味なんて後から付いてくるんだよ。』
私『でも、こだわりとかない?私は男の子でも読みが二文字の名前がいいとかあるんだけど。』
佐村『こだわりか・・・ないな。』
私『真剣に考えてる?』
佐村『不真面目ではないつもりだけど。』
私『じゃあ、私が決めていいの?』
佐村『いいんじゃないか。』
私『そっけないなあ・・・一緒に考えようよ。』
佐村『だから、”考える”って言うのが引っかかるんだよ。お前、自分の名前どう思う?』
私『嫌いだよ。美知の方が良かった。』
佐村『あっちはあっちで色葉の方が良かったなんて思ってるかもしれないだろ?自分の名前が好きーっなんて奴は少数派なんだよ。いくら、親が真剣に考えてあげても。』
私『は、はあ・・・。』
長々と説明されてもなあ・・・子供の名前を考えるって大イベントだよ。
プルルルル・・・プルルルル・・・
固定電話が鳴っている。
ガチャ
私『はい、佐村です。』
佐村の母『あ、色葉ちゃん。民子です。』
私『あ、お義母さんですか。どうされました?』
民子『年末は帰ってくるの?』
私『ああ・・・ちょうど、その頃は9ヶ月になる時期なので今年は・・・。』
民子『そう・・・ヨシに代わってくれる?』
私『あ、はい。サムー、お義母さん。』
佐村『お袋?めんどくせぇな。・・・なんだよ。』
民子『お父さんと一緒に上京していいかしら。』
佐村『こっちに来んの?』
私『こ、こっちに来る!?か、家事が難しい時期だから、て、丁重にお断りして!!』
佐村『年末はいいんじゃないか?お盆には孫の顔を見せに行くからさ。』
民子『でも、妊娠中だから家事大変でしょ。』
佐村『(妊娠中だから家事大変でしょ?)』
私『いえいえ、大丈夫です!!本当に大丈夫ですから!!』
佐村『大丈夫だ。料理も掃除も洗濯も大丈夫だ。』
私『(大丈夫というか・・・料理は好きだけど、掃除と洗濯は面倒くさいよ。)』
民子『そう。じゃあ、お盆は帰ってきてね。色葉さんによろしく。』
ガチャ
あれ、お義母さん、私に代わらずに切っちゃった?サムの声を聞きたかっただけ?
佐村『お盆は帰ってきてね、だってよ。』
私『去年はサムの実家に寄らずに美知のところに行ったもんね。サムは関西でライブがあったから。来年も参加するの?』
佐村『佳奈っていうとんでもない爆弾に付きまとわられたから、しばらくはいいかな。孫の顔は見せなくちゃならないし。俺がいないと帰れないんだろ?』
私『お義母さんは優しいんだけど、こっちが気を遣っちゃうのよ。お義母さんが台所に立っていると私も手伝わなくちゃいけないって気になってしまって休暇が休暇にならないの。その点、男の人っていいよね。』
佐村『男とお義父さんの間にも色々あるぞ。酒には付き合わなければならないし。お義父さんの若い頃のつまらない教訓まがいの武勇伝には頷かなければならないし。俺はその経験ないけどな。』
私『父さん、帰って来ないのかな・・・多分、母さんが亡くなったことも知らないよ・・・。』
佐村『しんみりするなよ・・・。』
私『じゃあ、名前考えよう!!』
佐村『考えないって!!』
父さんがひょこっと帰ってきたら、私たちどんな顔をするのだろう。お父さんは私だって気づいてくれるのだろうか。お母さんはどんな顔をして雲の上から見下ろすのだろう。




