もやもや
私たちはバーを後にして、家に帰ってきた。お腹が大きくなってきてるから、ちょっと疲れた。そういえば岸谷が我慢するなって言ってたな・・・ちょっと、提案してみようかな。私は上着を脱いでるサムに声をかけた。
私『ねぇ、サム。ちょっといい?』
佐村『なんだ?』
私『あの・・・一軒家に住みたいなーって・・・子供が産まれて歩けるようになる頃でいいから・・・どう?』
怒られるかもしれないと思って、しばらく溜め込んでたんだけれど、思い切って吐き出してみた。
佐村『そうだな・・・あのアルバムが当たったら考えよう。麻里も参加してるからテレビで宣伝して貰おうか。』
あれ、怒らないんだ。男の人の怒る境界線がまだわからない・・・あっちもあっちで女の人の怒る境界線なんかわかっていないんだろうけど。それがわかるようになるまで何年の月日が必要なのだろう。それがわかるようになるまで別れないようにしなくちゃ。夫婦生活の20年間は子供の教育と同じように私たちもお互いを勉強するんだ。恋人同士では見えなかったあれこれを探し出すんだ。
佐村『色葉?』
私『・・・あ、アルバムが当たればいいね。麻里にも協力して貰ってさ。』
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人見『一体、どこで手に入れたんだ?こんなもの。』
佳奈『最初はお客さんが、これ、あげるからまけてえやって言われて・・・。』
人見『俺が聞いてるのは、今手元にあるこれのことだよ。最近、こっちで手に入れたものだろ?』
佳奈『ぐぅ・・・。』
人見『こっちで手に入れるとなると・・・色葉ならわかるか・・・。』
人見は携帯を取り出した。
佳奈『や、やめて!!』
人見『なんだよ・・・。』
佳奈『あの女大嫌いや!!自分は今まで好き勝手やってきたくせに私に説教かましたんやで!?そんな女と話なんかせんどいてよ!!』
人見『じゃあ、俺と話をしよう。』
佳奈『さ、さっき、答えたやんか・・・。』
人見『なんか好きな食いもんとかあるか?』
佳奈『えっ。』
人見『ほら、煙草をやめると飯が美味くなるって言うじゃん。お前もそれに似た状態だろ?いらいらしてるなら美味い飯で紛らわそうぜ。』
佳奈『ピ、ピザとか頼めなかったな・・・。』
人見『じゃあ、今夜はそれにしよう。ちょっと待ってろ・・・えっーと・・・これか・・・ん?これ、何年前のメニューだ?まあ、いいか。どれにする?』
佳奈『・・・どれでもいいん?』
人見『食えるなら。』
佳奈『一緒に食べへんの?』
人見『晩飯だって言ったろ(笑)』
佳奈『あ、そうやったね(笑)』
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私『んん〜。』
今日も赤ちゃんがママにおはようって言ってくれた。私もお返しにお腹を撫でる。
佐村『いい加減にしろよ!!』
私『???』
サムの声が聞こえた。そういえば隣にいない。私より早起きなんて珍しい。声のする方へ向かうとトイレがあった。私はトイレのドアに聞き耳を立てた。
佐村『そんなこと聞けるかよ!!』
人見『思い当たる場所を聞けるだけでいいんだ。』
佐村『あのな、妊娠してんだよ。過去のことを尋ねることが、どれだけ色葉を不安にさせるか、何人も乗り換えてきてるお前にはわからないだろ。』
人見『佳奈を助けたいんだよ。』
佐村『助けるって、お前は警察じゃないじゃないか。』
人見『警察と手を組んで、俺が囮になる。まだあの親分は捕まっていないみたいだからな。』
佐村『それも、あの女を泳がせればいいだけだろ。』
人見『さっきも言っただろ。俺は佳奈を助けたい、守りたいって。』
佐村『仕事サボってよくそんなことが言えるな。』
人見『お前もサボりだろ。』
佐村『俺は色葉のために・・・。』
人見『嫁の妊娠を言い訳にサボるのか。』
佐村『・・・。』
ピッ
ガチャ・・・。
私『おはよう。』
佐村『あ・・・おはよう。疲れは取れてるか?』
私『誰と喧嘩してたの?』
佐村『救いようのない馬鹿とだ。』
私『その馬鹿が私に聞きたいことがあるんでしょ?』
佐村『歌詞も出来てレコーディングも終わったから、そろそろスタジオに戻るかな。』
サムは私を無視して支度を始めた。
佐村『俺の着替えは?』
私『・・・下から二番目。そろそろ覚えて自分で出してよ。一人のときは出来てたはずでしょ。』
佐村『・・・馬鹿の所に寄ってくるかも知れないから、遅くなるから。』
私『ちょっと待って!!なにしてくるつもり!?』
佐村『馬鹿な男は一度ぶん殴らなけりゃわからないんだよ。』
私『それ、どっちに言ってるの!?殴っちゃったらサムも馬鹿な男だってことじゃん!!』
佐村『あ・・・。』
私『一体、人見は私に何を尋ねたかったの!?』
佐村『・・・。』
ガチャ・・・。
私『もう・・・もやもやさせないでよ・・・。』
あの女は人見が保護してるから大丈夫みたいだけど、やっぱり一人になるのは寂しいな・・・人見が私に聞きたかったことってなんだろう・・・もやもやする。
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ガチャ・・・。
仲谷『あれ、サムちゃん、育児休暇取るんじゃなかったの?』
佐村『曲作りで休暇は取れたから、これ以上は悪いかなと思って。麻里は?』
仲谷『昨日、トイレ行くフリして逃げちゃった。』
佐村『ごめんな、俺のアルバムなのに・・・昨日の曲を聴かせてくれないか?』
・・・・・・・・・
佐村『ん?』
仲谷『・・・。』
佐村『ああ、そういうことか。』
仲谷『4分間くらいは、ほぼ無修正。ドラムは人見っぽく私が叩いた。』
佐村『ベースは鈴木さんの癖を真似したのか。』
仲谷『うん。』
佐村『5人でバンドを組んでたら、また違った足跡を残していたかもな。俺たち。』
仲谷『何しんみりしてるの(笑)でも、私や堀さんと知り合えてなかったかもよ。それに色葉ちゃんとも結ばれていなかったかも。』
もしもという言葉は取り方しだいで良くも悪くもなる。それならば良くなる方の取り方をすればいい。それは現在を見つめ直すこと。でも、モザイクを背負い過ぎた人には難しいことでもある。すぐに過去を振り返って、勝手に落ち込んだりしてしまう。悲しいね。




