説得力
らんらんらららららんらんらん、るんるんるるるるるんるんるん、じゃかじゃかじゃかじゃか、きゅいーん・・・きゅいーん・・・
ガチャ・・・。
らんらんらららら・・・
佐村『・・・。』
私『あ、お、おかえり。人見と会えた?・・・ちょ、ちょっと、なんで、ビデオ出してんの!?』
佐村『ダイエットは産後だって言ってたじゃないか。そのヘンテコな動きで流産したら、どうするんだよ。』
私『想像以上に大きくなってきてるから、産後、肉が残るんじゃないかと思って。本も買ったし。』
佐村『また、同じような本を・・・これ買うくらいなら、俺の小遣いに・・・。』
私『堀さんがカバーしてくれるって言ってくれてるじゃん。』
佐村『お前にはな。人見なんだけど、この1週間、スタジオに来ていないみたいだ。』
私『どうしたんだろ。電話も繋がらないよね。』
佐村『ああ。しょうがない、直接行くか。』
私『人見の家に?』
佐村『ウォーキングにもなるだろ。・・・でも、今のお前が歩くにはちょっと遠いか。』
私『麻里に偵察させる?』
佐村『レコーディングが延びるぞ。』
私『うーん。じゃあ、レコーディングのあとでいいんじゃない?あそこからなら距離もそこそこでしょ。』
佐村『じゃあ、そうしようか。』
私『誕生日プレゼントも選べるね。』
佐村『そういえば、もう10月か・・・もしかして、最近やたらと金に厳しかったのは・・・?』
私『記念日は大事だから、パパが生まれた日をお腹の中の子にも教えてあげないとね。』
佐村『(俺にとっては小遣いの正常化の方が大事なんだけどな・・・。)』
私『あの女、人見に近づいて、手に入れた情報を売ってるのかな。お金って恐ろしいよね。鈴木さんも狂わせちゃったし。だから、お小遣いはしばらくこのままね。』
佐村『まあ・・・次のアルバムが当たるまで、文句は言えないよな。子供も産まれるし・・・。』
別にサムの稼ぎを嘆いたつもりはないんだけど・・・育児費用はへそくりの魔法を使ってるから多分大丈夫だよ。カッコつけないで一般雑誌の取材にも寛容になってくれた方が助かるけれど。
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数日後、麻里の都合もつき、私たちはスタジオへと向かった。
麻里『人見と連絡がつかないの!?』
佐村『そうなんだよ。レコーディングが終わったら、直接家に行こうと思ってるんだ。』
私『運動にもなるしね。』
麻里『人見・・・無事なの・・・?』
私『えっ?』
麻里『レコーディングを後にして、人見の家に行った方がいいよ・・・。』
佐村『ドラムは叩ける奴がいるから大丈夫だ。』
麻里『そういうことじゃないでしょ!!安否も確認出来てないってマズいんじゃ・・・。』
私『どうする?サム。』
佐村『お前は?』
私『別に後でいいんじゃないかと・・・。』
麻里『ああ、もう!!とにかく行こう!!』
私『あっ、ちょ、ちょっと・・・レコーディングが・・・。』
佐村『ったく・・・人のことも少しは考えろよ・・・。』
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ピンポーン・・・ピンポーン・・・
麻里『・・・。』
コンコン・・・ガチャ・・・。
私『えっ、開いてんの?』
???『うわーーっ!!』
ドアを開けると、誰かが飛びかかってきて、麻里を押し倒した。
麻里『うっ・・・だ、誰!?』
麻里が首を絞められてる。茶髪の女だ。私は呆然としていた。サムも呆然としている。
麻里『た、助けて・・・。』
その時、またもう一人奥から飛び出してきた。
人見『何やってんだ!?』
人見だった。人見は麻里に覆い被さっている女を引き離した。
麻里『・・・はあ、はあ、一体何だよ!!クソッ!!』
???『うっ!?』
人見『麻里、やめろ!!』
麻里『やめろって、一体どういうことよ!!この女、私の首を絞めてきたのよ!!』
人見『とりあえず落ち着けって・・・佐村は何してんだよ・・・。』
佐村『だって・・・そいつ・・・。』
佳奈『久しぶり・・・相手・・・間違えちゃった・・・。』
相手・・・この女、麻里じゃなくて私を襲うつもりだったの・・・?あっ!!
ー妊婦の腹を割いたら、人形が泣いていたー
もしかして、この女・・・。私はサムの後ろに隠れるようにした。
佐村『人見、やっぱりお前が匿っていたのか。』
人見『・・・入れよ。』
人見は私たちを招き入れた。部屋の中には見覚えのある吸引器具があった。
人見『白瀬、これ何の道具かわかるだろ?』
私『・・・うん。』
人見『こいつ、これの中毒なんだよ。数年前のお前と同じだ。生き様もな。』
佐村『・・・今の色葉にそんな話するなよ。いい加減殴るぞ。』
麻里『数年前の色葉と同じ・・・どういうこと・・・?』
私『私は新庄と同棲する頃には断ち切れたから・・・。』
断ち切れても、稼業に潤いを与えるブツとして使用したけど。
私『でも彼女、草だけじゃないでしょ』
人見は注射を打つフリをした。
人見『俺が側にいないと、打っちゃうんだよ。』
私『ストックは?』
佳奈『欲しいんやろ。』
私『もう、いらない・・・必要ないから。』
ということは必要があれば、今でも、使うかもしれないってこと・・・。サムは女の頭を掴んで問いかけた。
佐村『お前が絡まれているのを助けたときや、スタジオに来たときは普通だったじゃないか。そんなイカれた目じゃなかった。』
佳奈『睨むなや・・・。』
人見『今は俺が禁止してるから、禁断症状が出てんだよ。』
佳奈『なんで・・・なんで、私だけ不幸せなんや・・・守ってくれる人もおらへん・・・そんな人が出来ても、子供なんか出来へんし・・。』
私『子供が出来ない・・・?』
人見『その・・・こいつが言うには、お前と同じような生き方をしてきたのに、お前は子供を身籠って、自分は子供を身籠れないというのが、許せないらしい。俺がお前の過去を喋らなければ、ここまでエスカレートしなかったらしいけどな。』
私『・・・。』
2年前のクリスマス、サムから指輪を貰って、結婚したんだけれど、しばらくは身籠る決心がつかなかった。新婚旅行先でも・・・。
佐村『どうしたんだ?』
私『なんか・・・身籠る目的でするのが怖くなっちゃって・・・。』
佐村『子供が欲しいって言ってたじゃないか。』
私『うん・・・でも・・・。』
何故か涙が溢れてきたんだ。あの頃の私は、身籠る筈じゃなかった、罪のない子供をおろして、自分自身を責めていた。サムの子じゃないからサムはおろしてくれと言う。私は子供のことを考えると、実はおろしたくなかった。でも、サムの意見に従った。険悪になりたくなかったし、お互いが愛情を注げる子供を産まなければ、この子が不幸になるとも思った。夏は普通に愛し合えたのに・・・。
私『急にこんなになっちゃってごめんね・・・。』
佐村『色々あったんだ、しょうがない。』
私『・・・キスしよ。長い、長いキスをしよう。』
結婚1年目の私たちの愛し方はお互いに抱き合うか、長いキス止まりだった。サムはすごく残念だったと思う。だから、1年目の浮気の疑いやお店通いには目を瞑っていた。転機は今年の初め頃。長い、長いキスの途中。サムがいつもとは違う私の表情に気づいてくれた。5月には子供を身籠り、今はなんだかんだで幸せを満喫している。幸も不幸も、私が子供を身籠る事が出来るから?そんな世の中じゃ、悲しすぎる。
私『・・・子供が出来ないからといって、こんなことしちゃダメだよ・・・。』
佳奈『あんたに私の何がわかるんや!!私たちにその腹を見せつけたくて街を歩いてるんやろ!!』
飛びかかりそうな勢いの女の肩を人見は抑えてくれている。
私『子供が身籠れないことを理由にしちゃったら、またテレビやマスコミが一括りにして騒いじゃう・・・同じ悩みを抱えたお母さんがあなた一人のせいで偏見を持たれちゃう。』
佳奈『そんな腹で言われても、説得力なんかないわ!!』
私『・・・。』
人見『佐村、もう白瀬と麻里を連れて、外に出た方がいい。』
佐村『そうだな・・・色葉。』
私『・・・。』
ガチャ・・・。
私たちは外に出た。そんな腹で言われても、説得力がない・・・説得力がない・・・。




